vol.31
「ヴァーヴド・ワイヤレス・ウィンドメーター」

先日、自転車雑誌の取材で、重量級の実用車が倒れるような強い向かい風の中を60km弱走り、山奥でのキャンプを行ってきた。こうしたケースに限らず、風の強弱に左右されるスポーツやレクリエーションは、数多く存在する。

例えば、ウィンドサーフィンやヨットなどは風を味方につけやすいスポーツだが、サイクリングやゴルフ、ラジコンヘリなどの操縦では、風は敵になりがちだ。

こうしたことから、各地の細かい風速のデータを簡単に測定できる装置を開発し、インターネット上でその情報を共有できれば、意味のあるサービスになると考えたのが、デンマークはコペンハーゲンを本拠地とするヴァーヴドの開発チームである。

そのヴァーヴドの「ワイヤレス・ウィンドメーター」は、定番的な風速計の構造をシンプルな形に落とし込み、スマートフォンのイヤフォン端子に差し込んで利用するようになっている。

一見、イヤフォン端子を利用して電気信号をやり取りしているかに思えるが、実際にはウィンドメーター側には電気的、あるいは電子的な回路は一切含まれていない。にもかかわらず風速を計測できるのは、人類が昔から親しんでいる、ある物理現象を利用して風車部分の回転数をスマートフォン側に伝えているためだ。

その現象とは、磁力。実は風車の軸に磁石が内蔵されており、その回転数をスマートフォンの地磁気センサーに読み取らせるのだ。実験映像には、ドリルの先に磁石を付けて回転させ、専用のアプリで読み取る様子も記録されている。

このため、公式にサポートされるスマートフォンは、一定の規格を満たすiPhone 4/4S/5、およびGalaxy SII/SIIIに限られるが、原理的にはアプリを調整すれば地磁気センサーを備えたすべてのスマートフォンに対応できるはずだ。

ちなみに、磁力の変化を風速に変換するアルゴリズムには、本来、音響処理に使われているものが応用されている。

キックスターターで米国時間の4月22日まで資金調達が行われているこのプロジェクトは、これからのデザインチームが造形的な能力に秀でているだけでなく、今まで以上に広範な知識と既成概念に捉われない柔軟な発想をもって革新的なコンセプトを形にしていく必要があることを示すものと言えるだろう。




大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。著書は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)、『iBooks Author 制作ハンドブック』(共著、インプレスジャパン)など。最新刊に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)がある。