vol.39
「ヤイクバイク」

ご存知の通り、日本では道交法などの問題により、セグウェイなどの新機軸のパーソナルモビリティが公道走行を許されていない。わずかに、ロボット特区となったつくば市において、セグウェイのガイドツアーが許されている程度だ(それだけでも大きな進歩ではあるが……)。

もちろん、何でもかんでも自由に走行させれば良いというものではないが、そうした新発想の乗り物を一般消費者が目にしたり、触れたり、あるいは試乗できる機会を増やさなければ、そもそもそれらの存在を知ることができず、是非の判断もおぼつかなくなる。

ニュージーランド製の折り畳み式電動コミューターである「ヤイクバイク」もそのようなパーソナルモビリティの1つで、1、2年前にコンセプトCGを見たときには、まさか現実に市販されるとは思っていなかった製品だ。

というのは、前輪の内側にバッテリーとモーターが内蔵された前輪駆動方式が採用され、折り畳み状態では、小径の後輪も入れ子式にそこに収まってしまう。このような構造は、他の交通機関との組み合わせや駐輪問題の解決のために考えられたものだが、コンセプトとして面白くても、現実化がひじょうに難しいのではと思えたのである。

事実、完成まで5年の歳月がかかったそうだが、ほぼコンセプト通りのものをつくり上げた努力は大いに評価できる。

走行姿勢もユニークで、大径の前輪のやや後ろにまたがるように乗車。そして、後方から前方へと伸びるハンドルを、体の左右で握って運転する仕組みになっている。そして、アクセルやブレーキのレバー、メインスイッチ、ウィンカー、ホーンなどのボタン類はもちろん、ヘッドライトやテールライトなども、すべてハンドルに内蔵され、被視認性の向上に貢献する。

たまたま、日本でヤイクバイクのイベント貸し出しなどのプロモーションをサポートするロノフデザインの臼木 幸一郎さんのご厚意で試乗する機会を得たが、慣れが必要なものの、全く新しい乗り味を持ち、乗りこなす楽しみがあると感じられた。

走行ノイズなど、まだ改善すべき課題もあるものの、量産が進めば完成度もさらに高まっていくことだろう。

高齢化の進むわが国では、パーソナルモビリティは今後、拡大が期待できる市場と言える。日本の企業やデザイナーも、ヤイクバイクのような製品づくりに果敢に挑戦し、その成果を世に問うことを実践していくべきであり、政府もそれを後押しするときが来ていると感じた。




大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。著書は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)、『iBooks Author 制作ハンドブック』(共著、インプレスジャパン)など。最新刊に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)がある。