第3回リスボン建築トリエンナーレがポルトガルにて開催中

リスボン建築トリエンナーレ オープニングの様子。

9月から12月まで、ポルトガルの首都リスボンで第3回リスボン建築トリエンナーレが開催されている。失業率は16%を超え、経済の低迷から脱却する兆しが見られないポルトガル。新たな建設プロジェクトはほとんどないなか、建築展のテーマに挙げられたのは「Close, Closer」。建築はお仕着せがましいものではなく、建築家はもっと人々に近寄り、一緒に建築について考えていくべき、そんな思いが込められた。そのため、企画されている展示の多くが建築家の実績やプロフィールを紹介するようなプロジェクト紹介ではなく、人々を巻き込んだ参加型の展示だ。

ポンバル宮殿のエントランス。

例えば、企画の1つ「The Real and Other Fictions」。会場となっているのは17世紀に建てられたポンバル宮殿。18世紀、ポルトガルの近代化に大きく貢献し、ポルトガルの首相になったポンバル候の住まいとしての記憶を宿す建物だ。その後は学者や文豪たちが集う知的サロン、在ポルトガル・スペイン大使館としてさまざまな外交の舞台となり、20世紀初頭には無政府主義者たちが占拠したという数奇な運命を歩んできた。

「都市生活の権利に関する決議案」のための議会の様子。

こうした歴史(Real)の中で用途を変えてきた宮殿を舞台に、新たな歴史(Fiction)を刻んでみるというのがトリエンナーレの試み。そこでは「都市生活の権利に関する決議案」を採択するための議会が毎週開かれ、広く市民の参加が呼び掛けられる。

バンケットルームでの会食のために準備するシェフたち。

あるいは、歴史上、重要な交渉の場となったであろうディナーの席で、食事をしながら公共政策に話し合いが行われる。いずれも建築家といった専門家だけでなく、自分たちが暮らす街について市民が考え、声を出すことを可能にしているのが印象的だ。こうした試みからは、「建築とは何か」よりも、「建築は何でありうるか」を探っていこうとする姿勢がうかがえる。

秘密結社のように集い、空間の中で感じることを訪れた人が次々に書き足していくサロン。

おりしも東京では新国立競技場の計画をめぐる議論が活発になっている。公共建築の建設に対して、市民として意見を述べる機会を持つことの意義について感じることが多いリスボン建築トリエンナーレだ。(文/長谷川香苗)