伝統産業とグラフィックデザイナーがコラボレーション
吉井画廊「DENTO-HOUSE」展

東北の伝統的工芸品の産地(つくり手)とグラフィックデザイナーとの協働プロジェクト「DENTO-HOUSE」から生まれた作品の展示会が開催されました。銀座での開催は2日間のみですでに終わってしまったのですが、この後パリで1月27日〜2月1日まで開催されます。

(写真)会場はモネをはじめとした近代絵画を日本に広めた画廊、吉井画廊

伝統的産業の新たな活路を見出すために、産地と建築家・プロダクトデザイナーとが新たなモノづくりに取り組む例はいくつもあります。しかし、今回、関わったのは浅葉克己さん、仲條正義さん、井上嗣也さん、服部一成さん、中村至男さんといった普段は広告のアートディレクションを手がけるデザイナー。いずれもグラフィックデザイナーという点に私は興味を抱きました。秋田の川連(かわつら)漆器、青森の津軽塗、岩手の浄法寺塗、宮城のこけし、そして埼玉の春日部桐箪笥の従来からある形を踏襲しながら、グラフィックデザインの抽象性を与えることで、新たな消費者層にアピールしていこうという狙いです。

▲「大雁塔屏風」

伝統的工芸を生かした新たなモノづくりを進めるうえでいろいろな方法があると思いますが、DENTO-HOUSEが狙うのは、海外のハイエンドな消費者層へのアピールです。

例えば、約800年前からつくられてきた川連漆器の職人と井上嗣也さんとの協働から生まれた「日月譚屏風」。月が太陽へと変容する様を水面に映る光景とともに描写した屏風は、沈金といって木の表面を彫り、そこに金を埋めて絵を表現する川連漆器の伝統的な技法でつくられています。月や自然を室内空間に取り込んで愛でたいという、今も昔も変わらない日本人のタイムレスな美意識を感じます。その一方で、漆黒に金銀といった装飾は、1920年代の欧米で一世を風靡したアールデコ様式に通じるものがあり、今でもフランスでは根強い人気があります。

▲「日月譚屏風」

しかし、横幅が4m近い屏風の表面を均質な漆で塗ることは、並大抵の技ではできません。価格も3,990,000円。加えて色調の好み、パリの吉井画廊で展示することを考えると、ターゲットとしている顧客層はかなり絞られていることがわかります。

▲「ブランクーシこけし」

宮城県鳴子のこけし職人と浅葉克己さんとの協働で生まれたのはこけし。20世紀の著名な彫刻家ブランクーシの有名な石の彫刻、「接物」から着想した「ブランクーシこけし」は、男女のこけしが一体となり、微笑ましい姿。従来のこけしのイメージと異なりますが、フォルム自体は、鳴子で昔からつくられてきた「ねまりこ」「えじこ」という雪だるまのようなこけしの型を踏襲しています。従来のろくろを旋回させながら絵付けを施すため、職人にとって制作はさほど困難ではなかったそうです。

▲「ストライプこけし」

その一方で、職人を困らせたのが同じく浅葉克己さんがデザインした「ストライプこけし」。一見するとシンプルな装飾なので特別な絵付けではないと思ってしまいますが、こけし人形の顔を描くことに慣れていても、頭から下まで均一のストライプを手描きするのは大変な集中力を要すそうです。幼子の顔が描かれず、人の姿をしていないのに、「こけし」と認識できるのは日本人だから。海外の人たちがどう反応するか知りたいものです。

▲「浮くこけし」

アートユニット「明和電機」のグラフィックデザインやおもちゃ「ポンチキ」のデザインを手がける中村至男さんがデザインしたのは動くこけし。頭を押すとビョ~ンと動く仕掛けになっています。この構造をつくるのに苦労したそうですが、見た目もこけしというよりはコンピュータゲームのキャラクターのようで、日本好きの欧米人に受けそうです。

こけし商品は、17,850円〜31,500円の価格帯。いずれもわかりやすくてウィットに富むデザインは、広告という瞬時に人の目を引く仕事を手がけているグラフィックデザイナーならでは。それが売り上げに結び付くか、知りたいところです。(文・写真/長谷川香苗)