深圳 都市と建築のビエンナーレ

中国南部の港町、深圳で昨年12月6日から2月28日まで開催された、都市と建築をめぐる国際ビエンナーレ「Bi-City Biennale of Urbanism / Architecture」。The Netherlands Architecture Institute(NAi)の元ディレクター、オレ・ボーマンを総合ディレクターに迎え、世界の美術機関、建築組織が参加、世界への発信を視野に入れた展示となった。 

会場の1つ、30年前の旧板ガラス工場の建物は「The Value Factory(価値の工場)」と名づけられ、中国の近代化を象徴する旧ガラス工場の記憶を抱えながら、これからは新たな価値を創出しようと試みた。ここでは、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート・ミュージアム(以下、V&A)、マサチューセッツ工科大学、世界の大都市にネットワークを張り都市の未来像について考えるシンクタンクStudio-X、レム・コールハース率いるOMAといった都市のあり方に影響力を持つクリエイティブな組織が独自の視点で深圳という都市の歴史・今を切り取った。

ミュージアムであるV&Aは、モノの収集から深圳の都市を読み解こうとする。深圳の人々からSNSを通して寄せられたモノの中には深圳の中学生の誰もが着るジャージパンツや、iPhone5のコピーに限りなく近いけれど、SIMカードの挿入口を2つ搭載した中国特有の商品もある。「コピー商品を真っ向から批判する見方もあるけれど、どんなことでも商売にしてしまう中国ならではの発想力やしたたかさは、新たなビジネスを創出するうえで学ぶこともある」とV&Aの現代建築・デザイン部門のシニア・キュレータ―のキーラン・ロングは説明する。

長いデザイン史の中における歴史的意義、位置づけからモノを収集するのが従来のデザインミュージアム。そうしたミュージアムの機能も、消費サイクルの短い現代社会において変わりつつある。V&Aは社会現象を起こすほど流行っているモノをすぐに集める「Rapid Response Collecting(当意即妙の集め方)」という方針を取り始めていて、中国の偽iPhone5商品もその流れの中に含まれる。 

ニューヨーク、パリ、モスクワ、イスタンブール、アンマン、サンパウロ、北京、東京と大都市にネットワークを持つシンクタンク、Studio-Xの展示はビエンナーレのテーマ「Urban Boarder(都市の境界)」について来場者それぞれが考えるための空間。天井から吊り下げられた可動式什器を用途に合わせて動かすことで、空間を幾通りにも仕切ることができる。ビエンナーレ会期中、オリンピックと都市といった定期的に行われるディスカッションを通して、都市がもたらすもの、その価値についての考えをシェアする場になった。

都市にまつわるリサーチ、アイデアをただ展示するだけでなく、街の人々を巻き込んでこれからの都市について考えていく、参加型デザインが強く打ち出されていて、常に何かしらのプログラムが行われていた。それは止まることなくモノが生産されてきたガラス工場の歴史と重なる。実のところ、もとあったガラス工場の構造を生かした会場空間そのものが、いちばんの「Value Factory」の展示だと感じた。ビエンナーレ終了後、すべての展示が撤去された後の活用法に期待がかかるだろう。(文・写真/長谷川香苗)