「classification|クルマのサイズと道路の機能」
ーー第5回デザインのあしもとより

道路を通行する人とクルマ。その実態を見ると、一括りにされている「クルマ」の中には、大型車から軽自動車、二輪車、自転車などの軽車両まで、実にさまざまな形や大きさがある。その他にも道路には、歩行者、車いす、ベビーカーなどが存在していて、数年先にはセグウェイのようなパーソナルモビリティまで、日本の狭い道路の中に入り込んでくるかもしれない。このような状況では、道路の機能も安全もますます複雑化してくる。ITS技術のさらなる進化を待ち望みたい気持ちもあるが、そもそも道路の構造自体はこのままで良いのだろうか。目的や機能に合わせた車と道路の新しい関係性は生まれるのだろうか。

4月24日に開催した第5回「デザインのあしもと」は、「CLASSIFICATION~クルマのサイズと道路の機能」をテーマに、大型車メーカーのいすゞ自動車、軽自動車メーカーのダイハツ工業、ガードレールメーカーの神鋼建材工業に話題提供を頂きながら、道路の機能区分と空間構成、人とクルマの安全性などについて話し合った。

はじめに、クルマの種別と道路の構造について整理すると、クルマの種別については、正式には「道路運送車両法(国土交通省)」と「道路交通法(警察庁)」によってそれぞれ区分されているが、見た目で言えば、クレーン車やショベルカーのような特殊車両、いすゞが得意とするトラックやバスといった大型のクルマ、SUVやファミリータイプのワゴン、セダン、そしてダイハツが得意とする軽自動車など、さまざまな大きさ、排気量の自動車があり、さらにバイクや原付自転車などの二輪車が存在する。そして、車道以外に目を向ければ、自転車や電動シニアカー、ベビーカーなど、さまざまな形態のクルマが道路を通行している。

一方で、道路の幅員(車線幅)、車線数、歩道や自転車道の有無などの構造は、道路構造令により定められる種別(1~4種)・級別(1~5級)によって決まる。これは、道路が整備される場所(都市部、地方部)、管理主体(国、都道府県、市町村)、計画交通量などによって決まり、「○種○級」という呼び方で分類されている。このようなクルマと道路の分類を頭に入れて、実際の状況を見てみるとどうだろうか。

おそらく道路の区分などふだんは意識しないし、道路の幅も車線数も道路の途中で突然変わったり、歩道も突然無くなったりする。大通りを除けば道路敷地に余裕は無く、歩道は狭くて自転車道の整備も難しい場所が大半だ。ここを大きさも形も異なる多種多様なクルマが通行している。そんな状況だから、例えば片側1車線の道路でも大型のトレーラーやダンプカーが走り、狭い歩道を歩行者と自転車がギリギリにすれ違い、ときには車道側に通行者がはみ出してくる、といったことも多く見られる。つまり、クルマと道路の関係はバラバラなのだ。

ここでまず議論になったのは、クルマの「性格」だ。例えば、個人で所有するクルマは、買い物や旅行など個人の欲求に合わせて自由な目的と経路で利用される。これに対して、人や物資の輸送を行なうバスやトラックは、ほぼすべてが業務的利用であり目的に合わせて経路もある程度限定できる。バス、トラックの中には、人の生活に近い場所で活躍する小型配送車やコミュニティバスや、大量の人や物資を輸送する大型バス、トレーラー、建設関連の大型特殊車両など、さまざまなサイズがある。これらのバス、トラックは、現状でも物流システムとして捉えられ、輸送能力に応じて通行する道路やエリアが区分されていることも多い。

この中で特に大型車は、一般車両と区別した別の概念として捉えるべきだろう。現状でも大型車の通行を制限している道路もあるが、さらに車線の制限、時間帯の制限、優先道の整備などによって明確に区別することで、道路交通全体がスムーズになるだろうし、自動化や情報・時間の管理など、ITS技術による高い効果も期待できる。特に公共交通機関であるバスについては、連結バスやバス専用レーン、BRT(ガイドウェイバス)など、そのあり方も大きく変わる可能性がある。まずは、このクルマの「性格」によって、それぞれの通行のあり方を整理しておくことが必要だ。

トラックの分類(いすゞ自動車株式会社)

次に議論となったのは、道路幅員の見直しだ。日本の狭い道路事情を考えれば、コンパクトなクルマも増えてきている今、車道幅員の考え方を見直して、歩道や自転車道に分配できないだろうか。前述の大型車両の区分がうまくいけば、より現実的に考えることができる。特に今、歩道の存在がとても大切だと感じている。歩道には歩行者、ベビーカー、車いす、電動シニアカー、そして自転車が通行しているが、乳幼児を含め通行が困難な人の安全性や通行の円滑性に配慮した道路環境が、今後ますます求められると思う。

最近では、通学中の児童の列に車が突っ込む事故が多発していることを考えれば、住宅地などの特に安全性が求められる道路は、基準の幅員に縛られず、車道幅を狭めてでも歩道を確保すべきだ。また、狭い道路敷地の中で歩道幅を確保するためには、電柱・電線の地中化や植栽帯の撤去、信号や標識などの柱状施設の形状変更など、取り組むべき課題はいろいろと考えられる。実は、既に国の政策によって道路構造令とは異なる地域独自の基準を定めることが認められており、十分な歩道幅の確保や緊急時の車両通行帯の確保など、様々な実例が各地で見られる。こうした動きが広まることで、机上の理想的な道路環境の未来像やシーズ目線の技術アピールよりも、現実的な目の前の問題を解決することに世の中の意識が向くことに期待したい。

そして、安全性の視点から歩道と車道の境界部のあり方を改めて考えてみたい。道路の安全施設は、現状ではガードレールに代表される車両用防護柵が主流だ。この車両用防護柵は、実際に車両を防護柵に衝突させる「実車衝突実験」により性能を評価し実用化の判断が行われている。実験の対象となる車両は、1t(小型乗用車)、20t(大型貨物車)の2種類のみで、すべての車種で確認をしているわけではない。この話題の中で気付かされたことは、クルマも車両用防護柵もさまざまな実験で安全性能を評価しているが、その安全性は「指標に過ぎない」ということだ。これはクルマや施設の危険性を指摘する意味ではない。あらゆる状況を想定してすべてにおいて確実に人命を守るということは不可能に近く、そのことはすべての人が前提として認識しておくべきだと思う。

「指標にすぎない」ことは、逆に「指標にしかならない」ということでもある。この考えに立てば、歩道と車道の境界の考え方も変わるかもしれない。「指標」の解釈によって現状とは異なる考え方で安全性を認めることができれば、防護柵という形態にとらわれることなく、歩道空間の一部としてデザインすることも可能となる。今ある防護柵の中には、人が触れることや歩道からの見え方など、歩行者に配慮したものもあるが、安全をどう解釈し安全施設をどう捉えるかについては、人、車、道路の視点から改めて考えるべき課題なのかもしれない。

実車衝突実験の様子(神鋼建材工業株式会社)

議論を通じてクルマと道路の関係性について感じたことは、クルマには、人の手足のような体の一部という感覚に近いクルマと、まちのインフラやシステムという感覚に近いクルマの両極があるということだ。この2つの極の間に、さまざまな利便性や快適性などの「機能」が介入することで、多様な車種が存在しているような、そんなイメージを頭の中で思い描いた。現に軽自動車は、電車移動の機会が少ない地方にユーザーが多く、まさに「足」として使われている。スポーツカーなどのドライビングを楽しむ感覚は、まさに「手足」といった感覚だろう。

一方、トラックやバスのような長距離輸送や街中の大量輸送を目的としたクルマは、突き詰めると鉄道に近い存在となる。そんな目的や機能に合わせて、改めてクルマを細分類する必要もあるように感じている。道路の構造も安全施設もITS等の先端技術も、細分類したクルマごとに適性の再整理が必要ではないだろうか。そして今、クルマと道路とのコミュニケーションという視点で、現時点の身の回りの問題を新しい技術でどう解決するかを考えなければならないと思う。

最後に、技術の進歩はとても大切なことであるが、パーソナルモビリティや超小型電気自動車などについては、若干の疑念を抱かずにいられない。目的と使う場所の状況とを考えてからでなければ、ますます道路交通の混乱を招くばかりだ。現実的には、歩行が困難な人々の歩行補助や、決められた場所(病院、空港など)での業務の補助といった限定的な利用になると思うし、一般利用の普及は簡単には考えて欲しくない。こうした新技術のあり方こそ、モビリティとインフラとが一緒に考えるべき問題であろう。

次回は話題を変えて、公共空間の有効活用という視点から、街中の広告や案内誘導施設などの情報コミュニケーションのあり方と、景観への影響について議論したいと思う。(文/御代田和弘)

前回までのレポートはこちら