第3回
「伝えたいことが伝わる場所を」

今回は私が始めたことについて。照明の仕事をやってきて、最も強く印象に残っているのが飲食店の照明計画です。こだわりのある店づくりをしている飲食店からは学ぶことが多く、そんないろんな影響もあり、東京の東側、門前仲町に照明の提案の場でもある、現代の家庭料理をコンセプトにした飲食店、カウンター8席の「たにたや – TANITAYA –」 をこの秋にオープンしました。

飲食店の照明は、その店の空気や印象を最も左右する要素です。演出照明は空間を大きく包み込む舵取りのような役目。たにたやでは営業前、営業開始時、閉店1時間前と光の度合いを変えながら居心地を楽しんでもらっています。そして、その中にアクセントとして存在するのが意匠照明。テーブルランプやペンダントライトです。この両方のバランスが効果的に活かされていると、さらに居心地がよくなると考えています。たにたやでは安積朋子さんがデザインした「Twiggy Lamp」をディスプレイしています。高い位置にあると間接照明として感じることができます。

空間デザインは店の顔とも言えます。客席側はカウンターチェア「LightWood Chair 」(マルニ木工)のメープル素材のフレームと合わせるように、床やカウンタートップ、棚、収納の吊り戸までメープルの明るい色合い。壁はオフホワイトで、照明の反射との相性が良く、心地よい明るさになります。厨房側はダークグレーの壁と黒の床。あくまでも客席への提供の場でもあり、並べられたテーブルウェア「TIME & STYLE TABLE WARE COLLECTION」を引き立てる効果もあるマットなダークグレーの壁が空間を引き締めています。

照明やインテリアの効果は空間に人がいて、テーブルウェア1つ1つに料理が盛りつけられて初めて完成します。そうして美味しさやデザインの良さが伝わるのだと思います。お店を訪れる人たちは美味しい料理やお酒を楽しみながら、オーナーが1つ1つこだわってセレクトしたものを無意識に感じながら時間を過ごします。そんな想いの数々が人々に伝わる瞬間が見たくてこの場をつくりました。

以前に、照明計画をした南青山のレストラン「CICADA」では、本物のキャンドルをくり抜いてランプシェードにした照明を製作しました。そのときにご協力いただいた台東区三ノ輪のシスター照明と江東区東陽町の東洋工業にもう一度この照明をつくってほしいとお願いに行きました。快諾いただき、たにたやのシンボルになるような照明になりました。この照明をつくるときに、CICADAのオーナーに言われたのは、「美味しい料理を提供するのは当たり前で、お店がつくるライフスタイルをゲストに提供するのだ」ということ。とても心に響きました。店の設えの1つ1つが店主のライフスタイルを伝え続ける場になるということなのです。

Photos by Masaya Yoshimura

店というメディアに人が集い、店の提案するライフスタイルを実感してもらい、そこからまた何か新たなものが生まれる。このライブな場のクオリティを大事にしていきたいと思います。(文/谷田宏江、ライティングエディター)

たにたや – TANITAYA –
東京都江東区深川1-8-12-1F
Tel: 03-3630-9490
日・月・祝定休
18:00〜23:00(ラストオーダー22:00 )
インテリアデザイン : Bazik inc. 滝澤雄樹
施工 : きこりたち
グラフィックデザイン : suwa design studio スワミヤ