ナガオカケンメイさんインタビュー
「正しいデザインとは?」

首都大学東京 インダストリアルアート学域の授業「プロダクトデザイン特論D」において、学生の皆さんが3チームに分かれ、第一線で活躍するデザイナーの方々にインタビューを実施。インタビュー中の写真撮影、原稿のとりまとめまで自分たちの手で行いました。シリーズで各インタビュー記事をお届けします。最終回はナガオカケンメイさんです。

ナガオカケンメイさんインタビュー
正しいデザインとは?

ナガオカケンメイさんは、「ロングライフデザイン」を軸に活動するデザイナーであり、プロデューサーであり、経営者の顔を持つ“デザイン活動家”である。2000年からロングライフをテーマとした「D&DEPARTMENT PROJECT」を開始し、以来、正しいデザインとは何かを世に問い続けてきた。

ずっと続いているもの

どのようなきっかけで「ロングライフデザイン」に着目されるようになったのでしょうか。

ずっとグラフィックデザイナーをやっていて、正しいデザインというのは時間が証明してくれるものではないかと思ったんです。つくられてから何十年も経っているモノっていろいろあるけれど、ずっと続いているから、これはたぶん“正しい”のではないか?と。これをロングライフデザインって言うんですけど、それを正しいデザインと定義しようと。

デザイナーとしてモノをデザインしたいと思われたりはしないのですか?

したいですよ。最初に店を立ち上げたときに会員制にして商品は全部貸し出そうと思ったんです。売れ続けなきゃいけない、壊れたら買い換えるという商売のベースをいじりたいと思った。この仕組みを考えて浸透させてから、さあつくろうってなると、もうモノを自分自身がつくる時間ってないんじゃないかな(笑)

デザイナーが多すぎる

技術の発展によってデザイナー以外の一般の人たちもデザインができる時代になっていると思いますが、そこに関してはどのようにお考えですか?

今はグラフィックなんてまさに、みんな“グラフィックデザイナー”ですよね。パソコンで年賀状なんて自分で平気でつくるし。パソコンにデフォルトでカレンダーどころか出版物をつくるようなソフトも入っている。こうなってくるとプロがお手本を示さないといけないでんですが、プロも同じようなことやってますよね。
 デザイナーが多すぎるんですよ。この前もプロダクトデザイナーを国家資格を必要とする職業にしたらどうかと提案したんですけど、かなり、ブーイングを受けました(笑)。でも、とにかくつくれる人が多い。というかつくれちゃうし。
 僕は、大学ではなるべくデザイナーとして卒業しないように指導しています。その人たちが卒業したらまたデザイナーが増えちゃうじゃないですか。だから大学では、世の中にある正しい、いいデザインの何がいいのかを考えさせて、それをこれからどうやって展開していったらいいかを教えています。
 例えば、1つはシェアみたいなもの。自転車やクルマも街でシェアする。不動産はすでにそういう例がありますよね。これからは個人の小さい所有物、パソコンなどを他人に貸すということが起こっていくだろうから、そういう仕組みをみんなで考えたりとか。その仕組みに残るためのプロダクトを考えたり。プロダクトデザインはメーカーから量販店を経由して流れていくという仕組み自体をデザインし直さないといけない。
 あとは、“つくらない”ということも1つのデザイナーの仕事だということをある程度認識させないといけないと思います。形に直接関わらない、生産、流通、消費の生態系のような仕組みをデザインする人が増えるようにしたいんです。

今の若い人たちは消費意欲そのものが低くなっていると言われます。

モノを買わないですよね。買えないし。就職も難しいじゃないですか。20年前までは社会の問題なんかどうでもよかったんですよ。とにかく斬新なものをデザインすればよかったし、売れた。メーカーもそういう姿勢でいたけれど、今は家の中にモノが溢れている。世界的にも大量生産、大量消費とともに環境が悪化していますよね。それで地域の問題もいっぱい出てきて、その問題を解決するために何かつくらなきゃいけないというおかしな時代になっている。
 でも、いつの時代もそうですが、お金がないというのはすごくいいことなんです。お金があると余計なことするじゃないですか。お金がないと這い上がるためにクリエイティブなパワーが発揮されると思うんです。この低成長時代にこそ、なにかお金をかけずにつくったらいいですよね。

大企業でなくてもつくれる時代

昔のデザイナーと今のデザイナーで異なる点はありますか?

昔のデザイナーは世の中にこういうものがないとダメだから、と考えてつくっていたと思う。実際、そういうことがデザイナーに求められていたし、メーカーもデザイナーはそういう仕事をする人だと認識していたので、工場のラインからすべてデザイナーが設計していた。今のデザイナーは、メーカーのデータに基づいて短時間でモノを仕上げる職業ですよね。それを仕事でやらないと食べていけないし。
 実は、過去に携帯電話を2機種つくったことがあるんです。なぜ短命の象徴みたいな携帯電話の仕事を受けたのかというと、ロングライフ携帯ってつくれるんですかという疑問に対して、何かやってみたかったんです。それで、剣持勇デザイン研究所と一緒につくったんですが、1カ月後には0円携帯になってばらまかれていましたね(苦笑)。
 そこで改めて認識したんですが、携帯電話にはもうデザイナーが入る余地がほとんどない。大手の通信会社と筐体をつくるメーカーが、この時代に出す機種はこういう機能を持った、これくらいの画面の大きさでとか、そういう規制を決めるんです。それに基づいて、つくれるものもあるし、つくっちゃいけないものもあって。それがデザイナーにぽんと渡されるんです。最初からもう出来上がっているんです。メーカーのその希望を聞いていくともうこれしかないじゃん!となる。で、その色をどうするかとか、表面をどうするかの話でしかない。だから、メーカーの都合を聞かずに携帯がつくれない限り、短命なサイクルを繰り返してしまう。それを自分で体験してみて、悪夢のようでした(笑)。やってみて良かったとは思うけど、ものすごくむなしい作業でした。
 僕はプロダクトの人間じゃないからわからないですけど。とは言いながら、何となく思っているのは、もう大手のメーカーじゃ、ちゃんとデザイナーのメッセージがこめられた新しいものはつくれないんじゃないでしょうか。それを言っちゃうと夢も希望も無いんですけど。
 僕みたいなところにも大手家電メーカーがヒアリングにやってきます。そこで、逆につくりたい家電は何ですか?と聞くと、ロングライフな家電だと平気で言いますが、つくれるわけないんですよ。何社かのヒアリングをしましたが、みんな同じことを言う。これからの家電の方向性は長く経年変化が楽しめる家電だと。そういうことに対して大手メーカーや消費者も興味があるということなんだろうけど、逆に、ベンチャーで小さい企業なんかがつくっちゃえばいいんですよ。
 今、自動車業界が変わりつつあります。今まではエンジン開発はすごく大変だから、ベンチャーでは難かしかったけれと、でもそれが電気モーターになった途端に、パーツを組み立てるだけでクルマができちゃう。大企業じゃなくても自動車がつくれるようになってきてる。それと同じような発想で家電とかもつくれると思うんです。

“メディア”としての売り場

これから世の中が多様に変化していくなかで、ナガオカさんはどのように対応していくのですか?

いろんな答えの出し方はあると思うんですが、1つの答えとしてやっぱり売り場はしっかりしないといけないと思っています。ちゃんと意志のある売り場をつくることによってモノも変わっていくだろうと。正しいものが世の中に出ていくことに、影響を与える店ができない限り、正しいものが世の中に出ていかないと思うんです。
 小学生のときに雑誌『idea』を親にせがんで買ってもらったことが、自分の人生にすごく影響を与えていると思う。店もそうだけど、あの時代はメディアも売り場の人もちゃんとしていたんですよ。ブログにもいろいろ書いていますが、1960年70年代は、ヒットさせるよりも、ちゃんとしたスタイルを提示しようという意識があったんです。でも今は、ちゃんとした場所やちゃんとした記事を書く人がいなくなっている。だから最近の専門誌は信用できなくなっている。ライターが原稿を書いて、編集長がそれをチェックして、その陰にスポンサーがいる。かなり企業の圧力を受けている。だから僕は、専門誌って業界の都合のいいようにしか書いてないと思っているんです。そうなってくると自分で確かめるしかない。

ナガオカさんはトラベル誌も発刊されていますよね。

『d design travel』というトラベル誌をつくっています。誰が取材して、どんな人がそれを評価しているのかを伝えられるような専門誌をつくりたいと。世の中のトラベル誌の編集長は、ほとんど現地に行っていない。ライターも地元の人。昔、某旅行専門雑誌でバイトをしていたのですが、大体1ページレイアウトして3000円で、ライターに支払われるのが2000円。2000円だったら現地にも行けない。だからネットで調べる。現地のカメラマンに「写真撮っといて」と指示をして、ネットを見て原稿を書いてそれらをくっつける。誰も現地に行っていない。その情報を満載にして、あなたの行きたいところを選んでねという構造。その状況を知ってから、もう自分で現地に行って、自分のカメラで撮って、自分でレイアウトをしないと、何が本物で本当かが伝わらないと感じたんです。
 結局は、自分でその土地に行って、自分で“あーそういうことか”と感じるしかないというのが極論ですよね。

伝統工芸はむやみに露出しないほうがいい
 
最近、伝統工芸が廃れる現状があり、地場産業とデザイナーがコラボレーションして商品をつくるという仕組みがあります。でもそれは一時的な起爆剤でしかなく、うまく回るような仕組みではないと感じます。ナガオカさん自身はどうお考えですか?

その業界に片足突っ込んでいて感じるのはその流れも終わりつつあるということです。地方の職人さんは、おじいちゃんが物を流通させてお父さんとその息子がつくり続けて食べていくというのが1つのかたちとしてあるんですが、それが今は失われつつあります。いろいろなコラボ企画で、なんとかという伝統工芸士があるモノをつくったということが話題にありますが、そんなことが次から次に投下されるので、メディアやデザインプロデューサーも次に何か面白いことはないかと探すばかりです。そこに職人さんが食べていけるシステムを定着させようという想いはないんです。一時的にクローズアップされてもあっという間に注目されなくなる。長いサイクルで考えると職人自身が商品を開発しないといけない。今はすごい技術を持つ人たちが食べていける時代ではなくて、そういう人たちは海外に出て、iPodの裏を磨いたりというような、全く違うことをして生活するようになっているんです。

消費者側が伝統工芸のような時間をかけてつくられたモノの良さを理解する感性を養えば、市場が成り立つと思うのですが、それはあり得ますか?

例えば、日本酒は酒蔵があって、問屋さんがあって、酒屋さんがあって、地域それぞれにチェーンじゃないちゃんと意志のある居酒屋があって、というふうに、この中で流通するお酒の量は決まっているんです。これってすごく良いことです。爆発的に市場が伸びるわけじゃないけれど停滞もしない。ワインもそうですね。それが今崩壊しつつある。陶芸なんかも量産しつつあるけれど、その原因にはメディアがあります。そのメディアが取り上げて焚き付けると売るために量産できる体制をつくっちゃう。そうすると限られた中での生産が崩壊する。で、ブームが終わって、欲しい人がいなくなると当然メディアも取り上げなくなって、残るのは量産体制だけ。日本の地方産業はそれで打撃をうけている。やはりつくる人、流通させる人、それを使う人たちで小さいコミュニティみたいなものがつくれたら良いと思いますね。
 日本なんか特に伝統工芸がやみくもにメディアに取り上げられちゃうのは本当にまずいと思います。関心がない人も話題だから買うし、今までずっと支えてきたユーザーがそれを見て“やーめた”ってなるかもしれないし。一方でそういう自由な流れが良いという風潮はあっていいと思うんですが、何かを守っているかというと守っていないと思います。だから伝統工芸はあまりむやみに露出していかないほうが良いんでしょうね。

今後の展望を教えてください。

 2015年3月には国内10店舗目にあたる富山店がオープンします。47都道府県全部に店をつくると公言しているのですが、僕が生きている間には絶対できないので、それを引き継いで死ぬという感じじゃないですか(笑)。
 トラベル誌については、あと11年くらいかかる予定なので、たぶん生きている間には出来ると思います。他には、商品を独占するという意味ではない長く続く販売体制を確立させたい。例えば、D&DEPARTMENTだけで買える家電みたいなものができたらいいなと思います。こういうお店が増えることでデザイナーのスタンスも変わっていくと思うので。そのような店づくりと体制を構築したい。
 今、大学でデザインを教えながら、可哀想なくらい難しい時代だなと感じます。教えるほうもどうやって教えたらいいかわからない状況です。専門的な内容ならば、下手したら家でもできますよね。CADなどのソフトの使い方であれば人から教わらなくても学習できてしまう。そうすると、何のためにデザイナーがいるのか?という根本的なことを学生には教える必要があると感じています。でも、教育機関もそのコアな部分に答えを出せていないよ。だから、誰かが次世代の若者に伝える起爆剤にならないといけない。この混沌とした時代をどうにかしなきゃですよ。(インタビュー・文・写真/首都大学東京大学院システムデザイン研究科インダストリアルアート学域 藤原和輝、松岡湧紀、梯絵利奈、山本さき)

ナガオカケンメイ/1965年北海道生まれ。日本デザインセンター 原デザイン研究所を経て、97年デザインスタジオ「drawing and manual」を設立。2000年デザイナーが考える消費の場を追求すべく東京・世田谷にデザインとリサイクルを融合した新事業「D&DEPARTMENT PROJECT」を開始。02年大阪南堀江に2号店を展開すると同時に、同年より日本のものづくりの原点商品、企業だけが集まる場所としてのブランド「60VISION」を開始。日本のデザインを正しく購入できるストアインフラをイメージした「NIPPON PROJECT」を47都道府県に展開中であるとともに、09年よりデザインの視点で日本を紹介するガイドブックd design travelを創刊。12年渋谷ヒカリエに47都道府県の個性を発信するミュージアム「d47 MUSEUM」を開館。主な著書に『ナガオカケンメイの考え』(アスペクト/新潮文庫)、『ナガオカケンメイとニッポン』(創美社)、『60VISION 企業の原点を売り続けるブランディング』(美術出版社)など。
http://www.d-department.com

前回までの記事はこちら