第3回 カルテル、クラウディオ・ルーティ社長インタビュー

ミラノサローネ国際家具見本市では、2,100社以上の家具関連企業が最新の製品を発表。そのなかでも毎年、多くの業界関係者が訪れるのがカルテル社のブースだろう。常にデザイン界をけん引する同社の魅力、そしてデザイナーとの関係について、クラウディオ・ルーティ社長に話を聞いた。

文/長谷川香苗

ピエロ・リッソーニのデザインによる「 Piuma」チェア
デザインをかたちにし強度と軽量化を両立させるため、ポリプロピレンにカーボンファイバーを含んだいくつかの繊維を含有させた。その解決策に辿り着くまでの開発期間は2年を要し、カーボンファイバーが射出一体成型に用いられたのは初めてという。しかし、この新しい複合材によって厚さ2mm、重さ2.2kgという華奢なシルエットを実現。屋外使用にも耐え得る。


カルテルは今年、1,100㎡を使って展示をした。プラスチック製の家具ブランドとして、シーティングファーニチャーからテーブル、照明、棚といったシェルビングユニット、テーブルウェアまでとその製品構成は幅広い。新作と既存製品とを区別することなく展示していたのが印象的だった。

展示ブースの広さは、そのまま出展料に反映する。サローネ会場では新作に絞り、既存のプロダクトは市内の自社ショールームで展示する企業が多いが、ルーティ社長は「新作だけでは伝えきれないカルテルの世界観を感じてもらいたかったからです。カルテルのプロダクトは個性的で1つでも存在感がありますが、約45年前にデザインされたComponibiliと新作を並べてもしっくりきます。それはカルテルのスタイルが、特定の時代に依拠したものではなく、さまざまな時代の要素を感じる折衷スタイルだからです。カルテルのプロダクトでつくり上げるリビング、ダイニング、ベッドルーム、オフィス空間の豊かさを、世界から集まるバイヤーのみなさんに感じてもらいたかったのです」と語った。

左:フェルッチョ・ラヴィアーニによる「Kabuki」フロアランプ
17世紀の古典的なランプを思わせるデザインは、射出成型によるポリプロピレン製。レース編みのような繊細なピアシングは、職人による手仕事のように映るが、実は工場での量産品である。
右:吉岡徳仁による照明コレクション「PLANET」
透明なポリプロピレンに施した複雑なファセットが生み出すレンズ効果によって、光がランダムに拡散し、周囲に幻想的な影を落とす。


パトリシア・ウルキオラによるテーブルウェアコレクション「JELLIES FAMILY」
クリスタルの輝きを放ち、エレガントさを与えつつも、ポリプロピレンによって扱いやすさを可能にしている。


ヨーロッパの重厚な古典的家具のシルエットを質量も素材感も消してしまうような透明のポリカーボネイトでつくるなど、遊び心を感じさせる家具の数々。しかし、いずれの製品も長年の研究とトライアンドエラーの連続から生まれたものであり、高品質のプラスチックこそ同社の代名詞と言える。

今年発表された新作も、開発に数年を要したものが多いという。ともにものづくりに取り組むデザイナーを選ぶのも慎重だ。「製品のなかには何十年もつくり続けているデザインがあり、使い続けることができるように、耐久性を持たせています。デザイナーにはそうした視野を持ってもらう必要があります。そして何よりもカルテルはすべて工場で生産しています。そのためのインダストリアルデザインでなくてはいけない。1つのデザインが製品として世に送り出されると、それは世界130カ国、2,500を超える販売店に並ぶことになるのですから、デザイナーを選ぶのも、デザイナーと製品を開発するのにも時間をかけています」とルーティ氏。

それでも「世界の見本市を訪れる際にはアンテナを張って若い才能を探し、マスコミの評価も参考にします」と付け加えた。プラスチックの家具を大使館のディナーの席で使用されるほどのステータスにまで高めたのがカルテル。イタリア家具メーカーでは経営者の若返りが進んでいるという声が聞こえるなか、来年70歳を迎えるルーティ社長の存在は頼もしいかぎりだ。

ユージェニ・キトレによる「CLOUD-IO」
ポリカーボネイトの水滴がつながったかのような椅子は、職人が1つ1つつくったようなクラフトのような印象を抱かせるが、これらも量産品。ベースにも展開している。


クラウディオ・ルーティ社長。©Francesco_Brigida