第8回(最終回)SCP創業者シェリダン・コークリー氏インタビュー

新たなブランドや若い才能が強い発信力を求めてミラノを目指すなか、ミラノでの展示が今年30回目というメーカーもある。今年創立30周年を迎えたロンドンの家具メーカー、SCPの創業者シェリダン・コークリー氏に話を聞いた。

文/長谷川香苗

▲ ミラノの自社ショップでの展示。SCPの製品をアンティーク家具のうえに置くことで、家具の新しい使い方、見え方のヒントにもなりそうだ。


1986年、ジャスパー・モリソンのデザインを初めて製品化したSCP。

30年前、SCPを立ち上げたシェリダン・コークリー氏は、もともと19世紀後半に起こったアーツ・アンド・クラフト運動の流れを汲む家具を取り扱ったり、1940年代のアンティーク家具のディーラーだったという経歴を持つ。ヴィンテージ家具に修復はつきものゆえ、家具のつくりは心得ていた。モリソンのデザインに出会ったとき、一から家具づくりに挑戦したのも、それまでの経験があったからだ。

しかし、ヴィンテージ家具を扱っていた彼が、なぜ現代のデザインを製品化しようと思ったのか。そのことについてコークリー氏は、「ジャスパーのデザインは、スチールパイプを曲げて脚にしただけのサイドテーブル。デザインされたのは1985年ですが、私が惹かれる1930年代の家具に通ずるモダニズム精神を感じたのです」と語る。

▲ ジャスパー・モリソンの最初の家具「Slide」(写真の左手)。オリジナルは1986年、2014年に復刻して登場。空間における線と面の構成が美しい彫刻のようなサイドテーブル。

▲ コンスタンティン・グルチッチのデザインのなかで最も初期のプロダクトの1つ「TOM TOM TAM TAM」。1992年デザイン。ビーチの角材が上下にスライドすることで高さ調整が可能なサイドテーブル。テーブルトップの丸いものが「TOM TOM」、四角が「TAM TAM」。


1980年代の英国で、コンテンポラリーデザインに対する目は冷ややかだった。なぜなら「当時、同時代の新しい家具を買うことに抵抗感を示す人が多かったのです。貴族出身者や有産階級の人々にとって、価値のある家具は先祖から受け継いだもの。新しい家具を買うことは、積み重ねてきた歴史がないことを意味するからです」と振り返る。

一方、SCPを立ち上げた翌年のミラノでは、好意的な反応が得られたと言う。「当時、イタリアやヨーロッパのメーカーが発表していた家具とは異なり、厳格なまでに簡素化された造形が関心を引き寄せたのかもしれません」とコークリー氏。その後も、ピアソン・ロイド、マシュー・ヒルトンをはじめ、英国とのつながりが深い20人以上のデザイナーとともに家具の新たなタイポロジーを追求し、可能なかぎり目の行き届く英国内でつくり続けてきた。

▲ 「The Arrangement of Furniture in a Room(家具の置き方)」の展示構成はマイケル・マリオットが担当。


30周年を記念した今年のミラノでは「The Arrangement of Furniture in a Room(家具の置き方)」と題し、これまでSCPから誕生した数々の家具と新作をミックスして展示。

テーブルの上にベッドマットレスが置かれている部屋を、「この30年で住まいは大きく変わり、家具という括りも人によって捉え方が異なってきているでしょう?」とコークリー氏。椅子、棚、テーブル、ブックスタンドという既存のタイポロジーを常に見直し、新たな家具のあり方を探求するSCPの世界観が体感できる展示構成だった。

現在については、「家具の生産地がどこで、どのようにつくられているかをジャーナリストだけでなく、ユーザーも知りたがる時代。多くの情報が行き交う時代だからこそ、正確な情報を自分たちから発信したい」と言う。

これからのユーザーはつくり手、素材、テクノロジーといった多くのストーリーを理解したうえで、新たなデザインを求めたいと思う。そうすることで、より深くデザインと会話できるのかもしれないと、コークリー氏の言葉は語っているように感じられた。

▲ 現在、木の家具は原料へのアクセスの良さ、人件費と木工技術の点からスロベニアで製造。ソファの張り込みはすべて英国北部ノーフォーク州の自社工場で行っている。内部クッション材は難燃性ウレタンフォームから、すべてホースヘア(馬の毛、馬巣織)といった天然繊維に切り替えるなど、環境に対する配慮も怠らない。

▲ SCPの創立者でありディレクターのシェリダン・コークリー。
SCPは石巻工房の家具を扱うセレクトショップでもある。