2015年度グッドデザイン賞受賞展レポート “かたちのないデザイン”が主役に

2015年度グッドデザイン賞受賞展が東京ミッドタウンで開催され(10月30日〜11月4日)、最終日にはグッドデザイン大賞が選出された。

今年で59回目を迎えたグッドデザイン賞。審査対象3,658点から選ばれた1,337点がグッドデザイン賞を受賞し(9月29日発表)、ここから絞り込まれた「ベスト100」を会場で展示した。会期初日には、ベスト100のうち金賞19点を含む特別賞および大賞候補作品を発表。来場者による投票と大賞候補者によるプレゼンテーション、審査委員会による審議を経てグッドデザイン大賞を決定した。

2015年グッドデザイン大賞
パーソナルモビリティ「WHILL Model A」(WHILL株式会社)

デザイナーの杉江 理らが長期にわたって取り組んでいるプロジェクト。「健常者も高齢者、障がい者含めてすべての人が乗れる、乗りたいと思えるデザイン」を目指し、狭小スペースでも小回りのきくタイヤやスマホアプリを活用した操作など、ユーザー目線のアイデアと細やかなつくり込みが評価された。

今年審査委員長を務めた永井一史氏は「新しい試みとしてフォーカス・イシューという視点を導入した。社会全体やひとりひとりが向き合って解決すべきさまざまな課題に対してデザインがどのようなソリューションやイノベーションを提供できるか。そういう視点で審査した」と総括した。

フォーカス・イシューは、「1.地域社会・ローカリティ」「2.社会基盤・モビリティ」「3.地域環境・エネルギー」「4.防災・減災・震災復興」「5.医療・福祉」「6.安心・安全・セキュリティ」「7.情報・コミュニケーション」「8.先端技術」「9.ソーシャルキャピタル・オープンアーキテクチャー」「10.教育・伝承」「11.ビジネスモデル・働き方」「12.生活文化・様式」という12の視点で構成され、各分野の専門家が理論的な観点での審査と提言に関わった。この分類を見る限り、「デザイン」が世の中のあらゆるフィールドや課題に及んでいることがわかる。

永井氏は「ベスト100の発表のときに『ここで選ばれたものはこれからの社会の見取り図だ』と話したが、特別賞に関しても同様。社会変化の際(きわ)に常にデザインは存在している。デザインは新しい芽吹きのための土であり、水であり、太陽であり、そして種そのもの。特別賞を通じて、デザインが担う役割や個々のデザインの先にある社会や暮らしの未来を感じていただければと思う」と話した。

今年度の傾向として、審査副委員長を務めた柴田文江氏は「(つくり手が)1つのプロジェクトに対して客観的に関わるのではなく、より内側に入り込んでそこにある課題を深く掘り下げていったものが多い」と印象を語った。

例えば、大賞を受賞した「WHILL Model A」(WHILL株式会社)について「車椅子の概念を踏み込んで追求し、健常者も使っていけるパーソナルモビリティとしての可能性や発展性につなげた。問題や当事者の内側に入って丁寧にひも解いていった成果だと思う」と説明。また、「それぞれのプロジェクトのつくり込みにおいても、人間味のある手触りを大事にし、社会に対して本当の意味で浸透させていきたいという想いを感じた」とも話した。

特別賞は金賞(経済産業大臣賞)19点のほか、未来づくりデザイン賞(経済産業省商務情報政策局長賞)17点、ものづくりデザイン賞(中小企業庁長官賞)9点、地域づくりデザイン賞(日本商工会議所会頭賞)4点、復興デザイン賞(日本デザイン振興会会長賞)1点が選ばれた。

全結果については、グッドデザイン賞のウェブサイト(http://www.g-mark.org/)を参照していただきたい。ここでは、会場で特に印象に残った“かたち”のないデザイン活動、コミュニティや仕組みづくりといった受賞作をいくつか紹介する。大賞候補となった8点のうち半数がこうした“かたちのないデザイン”であったことも本年のトピックと言えるだろう。

金賞
道の駅 ソレーネ周南」(一般社団法人周南ツーリズム協議会)

直売所に野菜を持ち込むことのできない高齢の農家のために、ヤマト運輸のネットワークを活用して野菜を集荷し道の駅に搬入する仕組みを整えた。(大賞候補)

金賞
道の駅 FARMUS 木島平」(一級建築士事務所スターパイロッツ+長野県木島平村)

閉鎖した旧デルモンテ工場を改装し「農の拠点+道の駅」として3月にオープン。マルシェやワークショップも盛んで、地域住民や市民にとって開かれた公共施設を目指す。(大賞候補)

金賞
和食給食推進事業 和食給食応援団」(合同会社五穀豊穣)

和食の継承に意欲的な約30名の料理人が集まり設立された組織。全国の小中学校を訪問し、学校の栄養職員と連携しながら和食の魅力を子供たちに伝えている。(大賞候補)

金賞
ビッグデータビジュアライザー 地域経済ビッグデータビジュアライゼーションのプロトタイピングシステム」(株式会社タクラム・デザイン・エンジニアリング)

4月に公開された経済産業省の地域経済分析システム「RESAS」のプロトタイプとして開発。日本経済にまつわる膨大なビッグデータを分かりやすく美しく可視化し、「右脳的な把握と左脳的な理解の間を高速に行き来できる」という。(大賞候補)

未来づくりデザイン賞
iphone アプリ ハイブリッド黒板アプリ『Kocri(コクリ)』」(株式会社サカワ+株式会社カヤック)

今ある黒板の環境を生かしながら、スマホやプロジェクターを活用して動画や画像を映し出すことができる。

未来づくりデザイン賞
オープンイノベーション活動 OLYNPUS OPC Hack & Make Project」(オリンパス株式会社)

カメラのハードウェア・ソフトウェアを一部オープン化し、ユーザーや開発者らと共創しながら新しい写真体験やビジネスを生み出していく活動。

未来づくりデザイン賞
地域産材で作る自分で組み立てるつくえ」(Re:吉野と暮らす会+藤森泰司アトリエ+パワープレイス株式会社+株式会社内田洋行)

地域産業とのつながりを実感してもらいたいと始まった奈良県吉野中学校でのプロジェクト。脚部はスチール、天板は吉野ヒノキで製作し、生徒が入学時に組み立て卒業時には天板をはずして持ち帰る。

(文/今村玲子)