素材とデザイナーの出会い
「MATERIAL DESIGN EXHIBITION 」

マテリアルコネクション東京で「MATERIAL DESIGN EXHIBITON」が開催中だ。工業デザイン分野で活躍する5組のデザイナーと4種の素材を掛け合わせて制作したプロトタイプを展示。デザイナーのインスピレーションを通じて素材の新しい用途や製品化の道を探るという主旨だ。

ニューヨークを拠点に世界7カ国で展開するマテリアルコネクションはいわば素材のライブラリー。世界中から集められた素材のデータベースを管理し、会員向けに素材の紹介とコンサルティングを行っている。

テキスタイル、木材、石、金属、樹脂、特殊な加工技術など8ジャンル約7,500件にのぼり、毎月30〜40件のペースで新規登録されているという。一方、素材メーカーに対してはデータベース登録のほか、用途開発や海外進出に向けたサポートも実施している。

▲マテリアルコネクション東京のライブラリー。常時1,200件の素材サンプルを手にとって確認することができる

▲3Dプリンタ用のポリマー樹脂も豊富。素材の情報とサンプルはニューヨーク本社での審査を経て登録されている

マテリアルコネクション東京を運営する株式会社エムクロッシング代表取締役の吉川久美子氏は、「ライブラリーに訪れるデザイナーからは『つくるもののアイデアはあるが、どんな素材を使えばよいかわからない』、逆に『この新素材を使いたいのに制約があって諦めてしまった』といった声が多く聞かれる」と話す。日進月歩で開発される素材とデザイナー(製造メーカー)をマッチングし、革新的なものづくりを促進していくことがマテリアルコネクションのコンセプトだという。

本展覧会はこのマッチングのプロセスを実践した事例として見ることもできる。「このプロジェクトを通じて素材メーカー側も商品の新たな価値を見出していただく場面があった。展覧会を訪れた人がこのプロセスを共有することでいろいろな素材があることを知ってもらい、また使いこなしてもらいたい」(吉川氏)。

展覧会ディレクターを務めたデザイナーの鈴木啓太氏は「デザイナーの適性を見つつ素材をぶつけてみた」と話す。自身は参加デザイナーとメーカーの間に立ち、作品がよいものになるよう進行サポート役に徹したという。夏に企画がスタートしてからの短い制作期間にもかかわらず、どの作品も素材の魅力を掘り起こしつつプロダクトとしての完成度が高いのが印象的だ。

「本展を素材の実験やアートプロジェクトにはしたくなかった。あくまで『プロダクトデザインをきちんとやる』と強く意識したことが作品の精度につながっていると思う」と振り返った。

▲NBCメッシュテック×倉本仁「Phantom tray」

倉本 仁氏が取り組んだ「ポリエステルメッシュTB30」は浄水器や茶漉しフィルターなどに使用されている素材。「工場で初めて見たとき、この素材自体が既にきれいだった」(倉本氏)。「この美しさを損なわないように、1つだけ機能を足そう」と考え、熱で立体成型する技術を使ってメッシュにリブ構造を施した。柔らかく繊細な布が強度を持ち、内側に何かを止める容器に生まれ変わった。

▲NBCメッシュテック×北川大輔「Fasten」

北川大輔氏が興味を持ったのは「空気を通すけれど水は通さないメッシュ」。「本来メッシュでは透過させるものを止める技術を研究しているのが面白いと思った」(北川氏)。この素材は開発中のため使用することはできなかったが、「水を通さないメッシュ」というコンセプトを花器のかたちに落とし込んだ。

▲旭硝子×吉田真也「piece of flame」

「グラシーン」はプロジェクターと組み合わせて表面に画像や映像を投影できる透明ガラス。現在は間仕切りや情報を表示するスクリーンとして建築分野などに展開が期待されている。吉田真也氏はこれに映し出すものとしてガラスと縁の深い「火」を選択。面取りしたガラス片を立体的に組み合わせ、内側に小型プロジェクターを仕込むことで美しいライティングオブジェをつくった。

▲岐セン×小池和也「decresc series」

長年繊維の染色加工で培った技術を生かした染色ツキ板は、色ムラがなく木目が鮮明に残るのが特徴。小池和也氏は1枚のツキ板を6枚の短冊状に切り離し、それぞれ異なる色で染めた後、ふたたび1枚に貼り合わせるという工程を提案。そんな“無茶ぶり”をメーカー側も面白がって受け入れ、見事に実現。手間をかけたことで素材の特性が際立つ作品となった。

▲ダイワボウノイ×AZUCHI(福嶋賢二・橋本崇秀)「Japanese paper cord」

紙の糸「OJO+」はマニラ麻を原料としたフィラメント加工糸。主に衣料分野で活用されているが、AZUCHIのふたりが提案したのは家具への応用。ペーパーコードを使った椅子の傑作、ハンス・ウェグナーの「Yチェア」の座面に使用した。併せて、Yチェアの脚をモチーフにして糸巻き状に構成したかわいらしい照明も制作した。

▲10月30日には会場でデザイナーによる作品のプレゼンテーションが行われた。

素材というテーマへの関心も高いのか、連日多くの人が訪れている本展。鈴木氏は「実は、マテリアルコネクション東京ができた頃(2013年)は、自分にとっては少し敷居が高く感じられた」と明かす。「今回デザイナーと素材メーカーが一緒にものをつくる様子を見ながら、ここは世の中の広さを知るにはとてもいい場所だと実感した。このイベントがきっかけとなって、もっと多くの人に活用してもらえたら」と話した。(文・写真/今村玲子)

MATERIAL DESIGN EXHIBITION
マテリアルコネクション東京
http://jp.materialconnexion.com/
会期:10月24日(土)~12月25日(金) 、土・日・祝日休館