「興味あることしかやりたくない」を貫くふたり、ジョン・ウッド & ポール・ハリソン
「説明しにくいこともある」展

英国のアーティスト、ジョン・ウッドとポール・ハリソンによる個展「説明しにくいこともある」がNTTインターコミュニケーション・センター [ICC]で開催中だ。シンプルなアイデア、ユーモラスな映像やインスタレーション作品で高く評価されているふたり。日本で初めての大規模な回顧展であり、今回は映像作品を中心に紹介している。

▲ 右の映像《二人三脚》では、左がジョン・ウッド氏、右がポール・ハリソン氏


会場に入ると目の前に大きなスクリーンが置かれており、等身大よりひとまわり大きなジョン・ウッド氏とポール・ハリソン氏が、互いの脚を紐で縛って身を寄せあったり離れようとしている姿が映し出されている。よく見ると手前にテニスマシンが置かれ、ふたりをめがけて次々と発射されるボールから逃れようとしているのだ(《二人三脚》1997年)。別のスクリーンでは、ふたりが1枚の板を介して寄りかかったり寝そべったり延々ともつれ合っている(《板》1993年)――。

「パフォーマンス」と題されたこのセクションでは、狭い空間のなかでふたりの男が表情も変えずに黙々と動き続ける様子を固定アングルでとらえた映像を紹介している。美大を卒業したばかりのウッド氏とハリソン氏が「人間と建築空間の関係、空間のなかで人物がどう動くか」に興味を持ち、ひたすらアイデアを試していた初期のシリーズである。

▲ 会場は、4つのセクションに分けられている。「パフォーマンス」セクションでは、初期の空間と人間の動きをテーマにした映像が上映されている

▲「パフォーマンス」セクションより、《装置》(1996年)。椅子、ジョウロ、はしごなどの“装置”に人間が対峙する短い映像から成る


続く「アニメーション」セクションでは「三次元によるドローイング」をテーマに、さまざまな日用品を使ったヴィデオ作品を紹介。4チャンネルで構成される《ノート》(2004年)は、扇風機や皿、ペン、ボールなどありふれたモノが主役だ。これらを本来の用途とは異なる方法で使ってみるシリーズで、「こうなるだろう」という予想を裏切る結末と日用品が見せるおかしな動きに思わず吹き出してしまう鑑賞者も少なくない。

例えばスクリーンに、グリーンピースをたくさん載せた白い皿が映し出されている。次の瞬間、白い皿がその場で激しく回転し、その遠心力でグリーンピースが辺りに飛び散る。書くとたったこれだけなのだが、ごく普通の皿が突然高速で回り出すまでの絶妙な“間”と、不意を突く動きの結果として生じる“ありさま”が常識とかけ離れており、そのギャップにおかしみを感じずにはいられないのだ。

▲「アニメーション」セクションより、《ノート》(2004年)

▲《ノート》(2004年)より

▲《ノート》(2004年)より


扇風機の風で紙コップを1個ずつ落下させ、紙袋にホースで水を注いでみるなど、大人が見たら顔をしかめそうだが、本人たちはいたって真剣。好奇心が赴くままに、とりあえずやってみる子どものような態度である。

「自分でもおかしな活動(strange and useless activity)だと承知している」と来日したウッド氏は真面目な顔で話す。「だけど、これしかやりたくない。僕たちが興味を持ったものだけを盛り込んで、われわれが理解する世界とは何かを、百科事典やドキュメンタリーのように表現したい」。

彼らにとって重要なのは「自分たちの興味あること」であるため、表現もジャンルにとらわれない。ポップカルチャー、ファッション、建築、映画、写真などあらゆるフィールドで出会った要素を自在に取り込んでいる。


▲「物語」セクションより、《他にはこれしかないポイント》(2005年)
出来事がカメラとともに空間内を移動するトラッキング・ショットにより、あたかもワンカット撮影のように見せている。彼らは映像の「建築的側面」を深める技法と捉えている


絵画科出身のウッド氏と造形科出身のハリソン氏にとって、2D(平面)と3D(立体)の結びつきは大切なテーマだ。アイデアを紙にドローイングし(2D)、スタジオで実際にパフォーマンスし(3D)、それをヴィデオまたはフィルムに定着させ(2D)、展覧会の会場で建築的なインスタレーションとして展示する(3D)。2つの次元のフィルターを交互にかけることによって、余分な意味がはぎとられ、行為や動きそのものが純化されるというわけだ。

また、こうした複雑なプロセスの途中で「偶然に起きてしまうこと」にも期待するのだという。「人間が何かをつくるとき、まず頭のなかにアイデアがあって、それを行動によってかたちにするわけですが、そのアイデアと現実との間で生じるギャップやアクシデント、非論理的なことに本質があるのではないか」とウッド氏。あらかじめ結果を予想して制作を進めるが、それを鮮やかに裏切られたときこそ、ふたりは最も喜ぶ。

▲「映画」セクション

▲「映画」セクションより、《100回の落下》(2013年)
反復に関する映像。ポールの落下を繰り返すことによって、「(鑑賞者が)ときどき、そうでないとわかってはいても、本物の人間が落ちているかのように感じてしまうといいなと思っていた」(キャプションより)


種も仕掛けもないのに、不思議なトリックを見るような本展。「説明しにくいこともある」というユニークなタイトルをつけた理由について、ウッド氏はこう話した。「人は自分がそれを知っているから説明できると思っているけれど、実際に説明しようとするとほとんど知らないことに気づくものだ。もう1つは、僕らがなぜこんなものをつくっているかと聞かれても、全く論理的な理由がない、ということ。というわけで『説明しにくいこともある』」。

なんだか狐につままれたようでもあるが、何かしようとするたびにいちいち説明を求められるのが今日の社会でもある。あえてその真逆を真面目に突き進むふたりの姿は潔く、面白く、そしてなんだか羨ましい。(文・写真/今村玲子)



ジョン・ウッド & ポール・ハリソン
説明しにくいこともある

会 期:2015年11月21日(土)~2016年2月21日(日)

会 場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] ギャラリーA

開館時間:午前11時─午後6時(入館は閉館の30分前まで)

休館日:月曜日(月曜が祝日の場合翌日)、12月28日〜1月4日、2月14日

詳 細:http://www.ntticc.or.jp/Exhibition/2015/JohnWOOD_and_PaulHARRISON/



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。