日本のメディアアートの“今”を紹介する
「New Style New Artist――アーティストたちの新たな流儀」展

東京・初台のNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)で、11月6日まで「New Style New Artist――アーティストたちの新たな流儀」展が開催中だ。「文化庁メディア芸術祭20周年企画展――変える力」の企画展示であり、テクノロジーを駆使しながら領域横断的に表現活動する4組のスタジオを紹介している。

▲ plaplax「KAGE 2016」

1997年の開催以来、文化庁メディア芸術祭はアート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門における優れた作品を紹介してきた。メイン会場のアーツ千代田3331では、20年の歩みを受賞作品とともに振り返り、サテライト会場の1つであるICCでは「新たな流儀」をテーマに、日本のメディアアートの最先端で活躍する4組に焦点を当てる。WOW、Takram、plaplax、Rhizomatiks Reserchは、それぞれプロダクションとして自主制作の作品からプロダクト、企業広告までの幅広い表現領域で活動しているのが特徴だ。

ビジュアルデザインスタジオのWOWは来年設立20周年を迎えるにあたり、社内プロジェクト「Beyond Motion Graphics」(http://wowlab.net/research/beyond-motiongraphics)を立ち上げた。同社のクリエイターが集って現在や未来のモーショングラフィックスについて議論し、自分たちのアイデアをまとめて作品をつくるというものだ。100案近くのアイデアのなかから本展のために制作したのが、全天球オリジナル映像作品「Tokyo Light Odyssey」。象徴的な東京の夜の街並みから構成した映像を、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)と直径6メートルのドーム型スクリーンの2種類のディスプレイで視聴し、ここでの展示が初となる。

▲ WOW「Tokyo Light Odyssey」

▲ WOW「Tokyo Light Odyssey」 https://www.youtube.com/watch?v=fnIApgU4hQg&vq=highres


「VR技術で360°の映像をつくる時代に投入した。自分たちがつくったモーショングラフィックスのなかに入ってみたい、という好奇心が制作の動機となった」と話すのは、WOWの工藤 薫氏。

オリジナル作品として取り組んだ初めてのVR映像制作は、通常のCGの10倍以上もの労力がかかり、特に「VR酔い」を避けながらいかに没入感を演出するかという点で試行錯誤したという。ドーム型スクリーンではスピード感を出すためカメラワークをつけるが、同じことをHMDでやってしまうと気分が悪くなる。

「同じ映像でもディスプレイによって見え方が全く変わるので面白かった」と話すのは森脇大輔氏だ。「今回の経験値を生かして、ほかのアイデアにも挑戦していきたい。異なる技術やインターフェースを組み合わせてインタラクティブなVR映像もつくれるはず」と展望を語った。

また、Takramは、デザインとエンジニアリングを組み合わせてUIやプロダクト、テレビ番組のアートディレクションから和菓子まで、幅広いプロジェクトを手がけているクリエイティブスタジオだ。東京とロンドンに拠点を持ち、今年9月に開催されたロンドンデザインフェアの展覧会「Scenes Unseen」で発表した10作品のうち7作品をICCで展示している。

ビッグデータをビジュアライズするソフト「Theodolite(セオドライト)」や、穴の空いたカードをテーブルの上に置くと穴の位置を認識して映像を浮かび上がらせる「On The Fly」などは、すでにさまざまな場所で活用されている。 月面無人探査コンテスト「Google Lunar XPRIZE」に参加する日本のHAKUTO(http://team-hakuto.jp)のパートナーとして、ローバーのデザインにも関わっているという。

あわせて、日本人と外国人の英語コミュニケーションを支援する「Omotenashi Mask」や、子ども向けの電動義手プロジェクト「Playful Hands」など、今ある問題の解決ではなく、未来のビジョンを提起するスペキュラティブ・デザインのプロジェクトも紹介。Takramの緒方壽人氏は、「われわれが主に取り組んでいるフィールドはデザインだが、デザインとアートはどんどん領域があいまいになっている。今回メディアアートというなかで展示できることは光栄だ」と話した。

▲ Takram「Theodolite」
「Theodolite」は地理情報を持つビッグデータを俯瞰的にビジュアライズするためのプラットフォーム。本展では、日本の空港に離発着する航空機のリアルタイムデータなどを展示

▲ Takram「On The Fly」
穴の空いた紙カードをテーブルに置くと画像認識アルゴリズムによって関連の映像を映し出す。紙を置くというアナログなインタラクションとデジタルコンテンツの組み合わせ

▲ Takram「Omotenashi Mask」
2020年東京オリンピックに向けて、異文化コミュニケーションの可能性を探るプロジェクト。「タクシー運転手と外国人観光客」という設定で、顔交換アルゴリズムやテキスト読み上げ機能を使って「おもてなし」を試みる


そのほか、第1回メディア芸術祭デジタルアート部門の大賞を受賞したインタラクティブ作品「KAGE」の2016年版として、大型化した「KAGE 2016」を展示した近森 基氏率いるplaplax、メディアアーティストの真鍋大度氏と石橋 素氏が率いるRhizomatiks Researchによる過去の受賞作品などが展示されている。テクノロジーにインスパイアされ、その発展とともに変化し、表現領域を拡張させていくメディアアートの様相を捉えることができるだろう。(文・写真/今村玲子)

▲ plaplax「KAGE 2016」
20年前の受賞作は「Power Mac 8500」でフロッピーディスク1枚のデータに収まっていた。「CPUのセンサーも解像度も驚くほど高くなった。今回は今の技術で3倍の大きさにし、面積も4倍にした」と近森氏

▲ 真鍋大度「Face visualizer, instrument, and copy」2009年
筋電位センサー、電気刺激装置、ソフトウェアを用いて、顔の表情を他人にコピーできるのかチャレンジし、その過程と結果をドキュメント映像およびパフォーマンスとして発表

▲ 右から、関口敦仁氏(美術家/愛知県立芸術大学教授/元アート部門審査委員)、近森 基氏(plaplax)、工藤 薫氏(WOW)、森脇大輔氏(WOW)、緒方壽人氏(Takram)


「文化庁メディア芸術祭20周年企画展——変える力」
企画展示「New Style New Artist—アーティストたちの新たな流儀」

会 期:2016年10月15日(土)〜11月6日(日)

会 場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] ギャラリーA

開 館:11:00〜18:00 *月曜休館

入 場:無料

詳 細:http://www.ntticc.or.jp/ja/exhibitions/2016/



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。