第3回 WHAT IS HAPPENING IN SINGAPORE?(前編)
「3組のクリエイターによる活動紹介」

1月25日、シンガポールデザインの現在を探るトークイベント「WHAT IS HAPPENING IN SINGAPORE?」(主催:シンガポール政府観光局)がAXISギャラリーで開催された。現地を拠点とするデザイナーやキュレーター3組が、躍進するシンガポールのデザインにおいて今、何が起きているのかを語った。その模様を3組それぞれのプレゼンとトークセッションに分けて紹介する。

▲ 登壇者の作品が展示され、シンガポールのパティシエ、ジャニス・ウォンのチョコレートとTWGの紅茶を手にトーク開始までの時間を過ごした



「シンガポールのアイデンティティや文化を感じてもらうために」
 エドウィン・ロー Edwin Low(デザイナー、起業家)


僕の名前はエドウィン・ロー、プロダクトデザイナーです。シンガポールで「Supermama(スーパーママ)」というデザインギャラリー&ショップを経営しています。これは店のロゴです。3歳の娘が描きました。


皆さんに「これは象?それともカバ?」とよく聞かれますが、実は両方なんです。「象にもカバにも見えないけれど、そう感じるの」と娘は言いました。感じることが大切なんです。それはSupermamaのコンセプトとも同じで、ショップには何かを感じるような製品が多く、一言で定義するのは難しい。シンガポールの文化、デザイン、アイデンティティについても同じことが言えます。

Supermamaのオープンは5年前です。最初は海外で見つけた、さまざまな商品を集めたセレクトショップでした。シンガポール美術館の別館に移転後、「世界の素晴らしいミュージアムショップ」として紹介されたことをきっかけに本館に移転。この頃から日本のデザイナーと仕事をするようになり、しだいに僕自身がシンガポールのアイデンティティや文化について深く知りたいと思うようになりました。


2015年12月にエスプラネード・シアター・オン・ザ・ベイという芸術ホールの中にポップアップショップを設けました。ここではさまざまなシンガポールオリエンテッドの商品を出していきたいと思います。またアーティストが作品を発表するときに無料でスペースを提供するなど、彼らの活動をサポートしていきたいと考えています。

さて、Supermamaの商品について紹介しましょう。僕は観光客だけでなく、シンガポールの人が欲しいと思うようなものを揃えたいと考えました。そこで有田焼のキハラに相談して協業することに。シンガポールのアイデンティティを表すような製品をつくりたい、特にシンガポールでの日常生活を感じさせるようなものを追求したのです。

「Singapore Icons」というシリーズのこの皿に描かれたグラフィックは、公営住宅(HDB)がモチーフです。シンガポール人のグラフィックデザイナーが手がけました。HDBはシンガポール人が誇りとするある種の象徴。マーライオンだけがシンガポールではないのです(笑)。


その後、5人のシンガポール人イラストレーターやグラフィックデザイナーと仕事をしました。みんなで国立公文書館に行き独立以前の歴史や遺産を調べ、あるデザイナーはさまざまな地域を取材し、そこで出会ったさまざまな“アイコン”を器のデザインに採り入れました(「From Another Time」)。


松徳硝子とは“うすはり”のコップ「Aspects」コレクションをつくりました。デザイナーのワイさんは、教育をテーマにアルファベットをモチーフにしたグラフィックを描いてくれました。


「Archetypes(原型)」コレクションは、普段平面で考えるイラストレーターに立体作品を依頼したものです。これは富山の能作が製造したフックです。プロダクトデザイナーは機能を考えますが、イラストレーターはビジュアルを重視するため面白いアプローチの商品となりました。


ほかにも京都の刺繍加工メーカー、ドゥオモと製作したワッペンや、現地のスナック菓子をモチーフにした足袋ソックスなど、若い人にも喜んでもらえるような商品をつくりました。いずれもローカルデザインを重視し、シンガポールの文化を新鮮な目で見てもらえるように工夫したものです。

佐賀の家具メーカーとは少し変わったアプローチの家具をつくりました。僕の祖母が昔から使っているスツールにインスピレーションを得た椅子です。シンガポールの人なら誰もが知っていて親しみのある形をモチーフにしたのです。


昨年は新しいプロジェクト「Little Red Dot」に取り組みました。50人のデザイナーと協力し、国立公文書館に行き、歴史的なイメージやアイデアを探しました。小さな器の蓋をあけると内側に50のビジュアルが描かれています。それらは例えば昔の輸送手段といった歴史的遺産がモチーフです。


日本には素晴らしい日本的なものがあります。例えば弁当箱は日本独自のものです。たとえ蓋にマーライオンの絵を添えても、それは日本からの借り物にしかなりません。僕はシンガポールにも日本の弁当箱のような独自のものがあるのではないかと思っています。そうしたシンガポールのユニークなものを見つけ出して、手に届く価格の製品をつくりたい。その根本にはシンガポールの文化、アイデンティティ、独自性を感じてもらいたいという想いがあります。シンガポール人だけでなく、世界の多くの人たちに届けたいと思っています。



「質問そのものに答えが潜んでいる」
 ウェンディ・チュア Wendy Chua(アウトオブストック Outofstock代表)


私たちはシンガポール出身のガブリエル・タン(Gabriel Tan)と私、ブエノスアイレスのグスタヴォ・マッジョ(Gustavo Maggio)、そして本日は不在ですがバルセロナのセバスチャン・アルベルディ(Sebastian Alberdi)の4人によるデザインスタジオで、ヨーロッパおよびアジア、北米、南米と広く活動しています。

仕事を紹介しますと、まず家具ですが、フランスのリーン・ロゼ(写真「Vanity」)、デンマークのボリア、シンガポールのスキャンティークなどのデザインを手がけています。


これは中牟田洋一氏が手がけるレーベル「industry+(インダストリープラス)」で製作した照明「Luna」です。紙をしわくちゃにしてつくるというアイデアから生まれました。私たちは素材で遊ぶことが大好きです。


フランスのエコボというメーカーとは竹繊維を使った玩具シリーズ「Animo」をつくりました。


私たちは空間デザインも手がけます。これはレストランのインテリア。キッチンでの作業の流れを観察し、空間やディスプレイを検討しました。アルゼンチンのメーカーとともにディスプレイ用のケーキスタンドも製作しています。

昨年はシンガポールで開催された柳 宗理氏の生誕100周年を記念する回顧展のキュレーションを共同で担当しました。

クライアントワークだけでなく、自分たちの子供心や探求心を充たすためのプロジェクトも手がけています。13年にはドイツ・バイエルンにある約450年続くガラス工場に滞在して作品をつくりました。シンガポールでつくった銅リングを持ち込み、ガラスと融合させたのです。ガラスにコバルトを加えていき、透明から濃い青のグラデーションをつくります。熱しているときはコバルトが見えないので、職人は重さで色を確かめるのです。そこで「青の重さ」というタイトルの作品になりました。


ほかにもさまざまな素材を使って、ガラスがどう反応するかを楽しみながら考察しました。ガラス繊維の袋に熱したガラスを注いで質感豊かなオブジェをつくったり、川岸から持ち帰った木の枝をガラスで包むといった実験もしました。アウトオブストックのメンバーはよく旅をします。最終的にシンガポールに戻ってくるのですが、旅先で得た新しい視点によって自分たちの原点を見つめ直すことができるのです。

過去3年間、デザイナーの阿部雅世さんと一緒に子供向けのデザインワークショップをしています。ワークショップは、公園で触れた自然を通して驚きを発見するという内容です。ご存知の通りシンガポールには冬がなく、四季はありません。森の風景は年中同じように見えますが、深く覗き込めば、実にさまざまな質感の発見があるのです。季節によってシダの葉の裏側に胞子が見えたり、花も触感的な体験を与えてくれます。

私たちは森からたくさんの色や形を持ち帰って並べ、虫眼鏡を使ってさらに詳しく観察しました。何百枚もの写真を拡大したり切り抜いて、それをサンプルにしてラグをつくりました。ウールをはじめ竹繊維や絹などの糸を13色に染め、カービングやシアリングといった技法を織り交ぜながら、約2年をかけて6枚のラグができ上がりました。


普段、表には出ない工業パーツにも興味があります。それらは「仕上げを待っている状態」、つまり第二の役目を待っているように感じます。オートバイの排気部分に用いるセラミック製フィルターを使い、アロマディフューザー「Aura Tropicale」をつくりました。小さな三角形と五角形の編み目から成り、色と香りを吸収します。より有効に香りを発散するように、まるみを帯びた形にしました。


私たちは目に見えない可能性を発見することが大好きです。それは自ら問いかける心によって生まれます。以前、アルゼンチンに行ったときには、「町は犬をどれだけ愛せるか」と問いかけました。アルゼンチンの人は犬が大好きで、何匹も飼っていたりするんですね。では買い主はどういう人なのだろう、何人の人が話し相手としての犬を求めているのかといったことを調べました。あるいはヨーロッパの人は真剣に休暇を取りますが、彼らにとって健康や幸福、ビジネスとはどういう意味を持っているのか。さあ、どう思われますか。このような問いそのものに答えが潜んでいる場合があると考えています。



「シンガポールデザインを世界に広める」
 中牟田洋一(デザインエディター、ギャラリーオーナー)


僕がシンガポールに移住したのは2012年のこと。1985年にE&Yを設立して若いデザイナーの作品をインキュベーションする活動を30年ほど続けてきました。その活動をシンガポールで続けられないかと、何も知らずに飛び込んだのです。

13年に現地法人のデザインブランド「industry+」を立ち上げました。この写真は14年のシンガポールデザインウィークでの展示です。3月にシンガポールのナショナルデザインセンターがオープンし、そこでシンガポール人デザイナーのコレクションを発表してもらいたいという依頼がありました。実は、シンガポールにとってナショナルデザインセンターの設立は2回目なんですね。1988年に最初のデザインセンターができましたがうまくいかず、再度トライしたわけです。これは14年の展示の写真ですが、町工場に残っていた道具箱を借りてインスタレーションしました。今、シンガポールの町工場は消えかかっている状況です。


シンガポールのデザイン活動はひじょうに活発ですが、輸出となると難しい点もあります。デザインシンガポールカウンシルから自国のデザインを世界に広めてほしいと期待されているので、われわれはロンドンやパリ、ミラノなどのイベントに積極的に出ていきます。これはロンドンのデザインフェスティバルに参加したときの様子です。大勢のデザイナーの存在を伝えました。

これは昨年のメゾン・エ・オブジェ・アジアでnendoが「Tokyo Tribal Collection」を発表したときの写真です。シンガポールは天然資源に乏しいですが、東南アジアの生産地域にとても近いことがメリット。nendoが希望していた技術がフィリピンで手に入る。材料として手に入らないものはないというくらい素晴らしい立地です。


昨年のミラノデザインウィークではシンガポール人デザイナーだけの展覧会をプロデュースしました。「The Alchemists」というタイトルは、イタリアで70年~80年代におきたアルキミア・ムーブメントにヒントを得ています。シンガポール人はアイデアが豊富で、お題を与えるとさっとクリエイションが出てくる。このときは学生からプロまで40人ほどのデザイナーとワークショップを行い、その中から選んだ15作品をミラノで展示しました。大きな評判になり、200を超えるメディアに取材され、約23,000人が来場しました。1月末までシンガポール美術館で巡回展を開催していました。


これはウェンディさんのお話にもありましたが、柳 宗理さんの生誕100周年記念展を企画し、共同キュレーターをアウトオブストックにお願いしたときのものです。展覧会はその後、香港や台北にも巡回しています。


3月に開かれるメゾン・エ・オブジェ・アジアでは、industry+の新作として、WOHAというシンガポールの建築家グループによる家具を発表します。

industry+は始まってまだ2年ですが、少しずつ名前が知られてきたので、今年は一気に拡大しようとミラノデザインウィークに参加します。シンガポール人デザイナーのものだけでなく、台湾や日本人の作品も出していく予定です。

最後に、私が最初にシンガポールに行った際、人々が驚いたときにマレー語で「alamak(アラマ)!」と言うことがひじょうに印象に残りまして、新たなプロジェクトを立ち上げました。日本人も驚いたときに「あらまあ!」と言いますが、同じように“オーマイゴッド”の意味なんです。「alamak!」プロジェクトでは、シンガポールをはじめアジア10カ国の「あらまあ!」と言わせるような、見た瞬間に驚くようなデザインをキュレーションして、ミラノトリエンナーレ美術館で今年展覧会を開く予定にしています。(文/今村玲子)



Edwin Low エドウィン・ロー/デザイナー、起業家。シンガポール国立大学大学院修了。プロダクトデザイナーとして活動する一方、2011年デザインギャラリーショップSupermamaを立ち上げる。シンガポール文化をビジュアル化した「お土産」シリーズ「Artefacts by supermama」をプロデュース。シンガポール人デザイナーと日本各地の職人との恊働により、自国のブランディングとものづくりの再興を目指す。また、シンガポール工科大学、デザイン学校SODEで教鞭をとり、デザイン教育にも力を注いでいる。2013年、シンガポールで最も権威のあるプレジデント デザインアワードにおいて有田焼とコラボレーションした「シンガポールアイコン」がデザインオブザイヤーに選出。


Outofstock アウトオブストック/ガブリエル・タン、ウェンディ・チュア、グスタヴォ・マッジョ、セバスチャン・アルベルディの4人によるデザインスタジオ。2006年よりシンガポール、バルセロナ、ブエノスアイレスの3拠点で活動を続ける。プロダクト、家具、照明、スペースデザインを手がけ、そのデザインは、シンプルで詩的、サスティナブルであり、そして職人による手仕事を大切にしている。エルデコスペインのヤングタレントオブザイヤー(2009)、プレジデント デザインアワード(2010)、メゾンエオブジェ ライジング アジアン タレント アワード(2015)などを受賞。2015年「Beauty born not made(柳宗理展)」の会場デザインを手がけた(シンガポール、香港、台北を巡回)。


中牟田洋一 なかむたよういち/福岡市出身・シンガポール在住。デザインエディター、アートギャラリーオーナー。1985年E&Yを設立、トム・ディクソンをはじめ時代をリードするデザイナーたちと数々のコレクションを発表する。2007年CLEAR GALLERYを設立。2012年拠点をシンガポールに移す。2013年シンガポールの現地法人デザインブランド industry+を創業。2015年シンガポールのデザイナー15人の企画展「シンガポールデザイン:アルキミスト展」、「Beauty born not made(柳宗理展)」をプロデュース。また、ミラノにてアジア10カ国のデザイナーの作品をキュレーションするプロジェクト、ALAMAK! を始動。アジアのクリエーションを世界へ発信する活動を行う。



*後編では、3組のトークセッションの模様をレポートします。

*2015年のシンガポールデザインのレポート、および2016年のバックナンバーは、こちらをご覧ください。

*シンガポール政府観光局 http://www.yoursingapore.com