REPORT | コンペ情報
2016.02.19 18:16
1月27日、東京ビジネスデザインアワード(TBDA)の最終審査会が東京ミッドタウンで開催された。昨年11月までに二次審査を通過しテーマ賞を受賞していた10組が公開プレゼンテーションを行い、その内容をもって上位3賞が決定された。
ビジネスの構築とチームづくりを重視するアワード
今回で4度目となった東京ビジネスデザインアワード(TBDA)。優れた技術や素材を持つ都内の中小企業とデザイナーの提案をマッチングし、新たなビジネスや市場を開拓することが目的だ。受賞すると東京都による商品化実現への支援や専門家によるサポートが受けられるのもTBDAの特徴。これまでの受賞提案のなかにはBtoBからBtoCへの展開に挑み、国内だけでなく海外進出にも成功した事例がある。
2015年度は4月に企業からの公募を行い、それに対するデザイナーからの提案を8月に募集。集まった157件の提案を11月の一次審査(書類審査)および二次審査で審査し、10組の企業とデザイナーをマッチングした。各チームは約1カ月でビジネスモデルの考案とプロトタイプ製作などを行い、最終審査会に臨んだという流れだ。審査の基準は、市場性、実現性、デザイン性、ビジネスモデルの完成度。5人の審査員がそれぞれにポイントを付与し、その合計点で最優秀賞1件、優秀賞2件を決めた。審査員長を務めたデザイナーの廣田尚子氏は最終審査会の冒頭で、「デザインの果たす役割が広がっている今日、TBDAでは3つのデザインに取り組んでいただきたい。(1)ビジネスそのものをつくる。(2)その根幹となる製品をつくる。(3)プロジェクトを遂行するチームをつくる。よいチームワークがなければプロジェクトは進まないし、伝わらない。現場のマネジメント力を含めた提案に期待している」と話した。
▲審査員長 廣田尚子氏
同アワードの“常連”デザイナー、小関隆一氏の視点
10組によるプレゼンテーションの後、別室で審査員による審査が行われ、最優秀賞および優秀賞が発表された。日高一樹審査員(デザイン・知的財産権戦略コンサルタント)が「過去最もレベルが高く、優劣付けがたい内容だった」と感想を述べたように、審査は難航したようだ。同じく服部滋樹審査員(デザイナー、クリエイティブディレクター)も「わずか1カ月でここまでクオリティの高いプレゼンはできないものだ。ポテンシャルがあってビジョンがはっきりしているからこその結果だと思う」と話した。
▲プレゼンテーションに対してコメントする審査員。
最優秀賞は「遠心力を活かした撹拌ツール」を提案した株式会社IPMSと小関隆一氏に贈られた。同氏は、株式会社IPMSの特許技術である遠心式撹拌技術「エムレボ」を活用して、BtoC向けに手動の攪拌器具を展開するアイデアを披露。エムレボは水のなかに入れて回転させると下の穴から水を吸い込んで横方向に吐き出す機構を持つ。プロペラ式とは異なり泡立たず、物質を傷めることなく均一に混ぜることができるという。「エムレボ自体が素晴らしい行為のデザインだと感動した」と振り返る小関氏。馴染みの薄い技術を認知させるため、まずは一般ユーザー向けの調理や塗料用のコンパクトな商材に落とし込み、将来的には現状IPMSが展開している業務用の市場までくまなく「取りにいく」という長期的なプランを紹介した。ブランディングやパッケージデザインなどにも説得力があり、川田誠一審査員(工学博士)は「一般には理解しにくい工学の仕組みをビジネスとして浸透させていくためにはデザイナーの力が必要」としてこのマッチングの可能性に期待を寄せた。
▲最優秀賞「遠心力を活かした撹拌ツール」
株式会社IPMS×小関隆一(RKDS)
▲BtoCからBtoBに向けた展開フェーズを説明する資料。
ところで小関氏はTBDA受賞の“常連”でもある。第1回(2012年)からすべての回で最終審査に残り、テーマ賞や優秀賞を受賞してきた経歴の持ち主。最優秀賞の受賞は今回で2度目となる。第1回のテーマ賞に輝いた「マスキングカラー」(大洋塗料株式会社)は海外進出を遂げるなどビジネスとしても成功している。山田遊審査員(バイヤー・クリエイティブディレクター)は「小関氏による今回の提案は最後の“売っていく”ところにリアリティがあった。それはマスキングカラーで実際にその体験をくぐりぬけたデザイナーとして一日の長があったということ」と講評した。
受賞について「アワードとの相性がよいということはあると思う」と小関氏。「ただものをつくるだけでは仕方がないという思いが根底にあって、どうしたら売れるのか、そこにないものは何か、つまり何をつくるべきか、ということをいつも突き詰めて考えている」。協業を成功させる秘訣については「企業がいちばん迷いそうなこと、つまりお金や労力の話をきちんと“ぶっちゃける”。またTBDAにはデザイナーとの付き合いのない企業が集まることが多いので、まず僕らの仕事を理解してもらうことが大切。そこには時間をかけるようにしている」と話した。
▲東京都産業局労働局 山本隆局長から表彰される小関氏。
他の主な受賞提案は以下のとおり。
優秀賞「天然素材を使用した多機能ワックス」
佐藤油脂工業株式会社×サワノ エミ(CUMONOS)
キャンドル原料のほかタイヤや化粧品、食料品などにも利用されるワックスの性能と国内製造にこだわる同社のものづくりを活かして、BtoC向けのアロマワックス商品を提案。チューブからひねり出すタイプで、トラベルキャンドルやボディケア、革・木製品のケアなどさまざまな用途に使用できる。ネットショップやセレクトショップでの販売のほか、オリジナルワックスをつくるワークショップの開催なども構想中だ。
優秀賞「高輝度反射材を使ったファッションリメイクブランド」
八欧産業株式会社×三浦慎也、本田新、良知耕平(株式会社電通)
反射材をレーザープリント技術で高精細に出力できる技術を使い、古着のリメイクブランドを立ち上げるというプラン。パーカーやTシャツの上に6種類のデザインパターンをプリントし、夜間にもアクティブな若者のファッションとして訴求していく。年間20億着も廃棄されるという日本の衣服リサイクル率の低さに着目し、新しい方法でそれらを再生させたいという社会的なメッセージを盛り込んだ提案でもある。
テーマ賞「カシメる技術を活用したアルミ集成材の提案」
株式会社丸三電機×佐藤宏尚(株式会社佐藤宏尚建築デザイン事務所)
パソコンなどに使用される放熱装置「ヒートシンク」をつくるための独自のカシメ技術により大型サイズ(従来の2倍)のヒートシンクを製造することができる。これを「アルミの集成材」ととらえ、建築や家具の材料としてハウスメーカーなどに訴求したいという建築家ならではの提案だ。素材の強さや穴のある構造といった特性を広く伝えるため、ベンチやパーティションなどの受注生産から事業を始めていくという。
テーマ賞「家庭のエネルギーを管理する総合的なIoT機器」
地域エネルギー株式会社×山岸隼人(株式会社HYT-DESIGN)
消費電力を可視化し、電化製品との通信や遠隔制御を中心としたエネルギー環境の最適化を行うデマンドレスポンスのサービスを家庭向けに提供するという提案。プロダクトとしてはベースユニット、1口~4口タップ、コントローラーなどから成るが、一般のユーザーにとってわかりやすく使いやすいUIデザインがポイントだ。将来的にはエネルギーだけでなくペット、介護、セキュリティ分野への拡張性も考慮したビジネスモデル。今春からスタートする電力自由化を見据え、タイムリーな提案として注目を集めた。(文/今村玲子)
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