TAKT PROJECTの自主企画展
「Office Exhibition vol.1」は、11月6日まで

デザインオフィス、TAKT PROJECTが文京・白山にオフィスを移し、新拠点のお披露目を兼ねた個展を11月6日(日)まで開催している。

新しいオフィスの場所は、文京区白山。地元の人々が行き来する商店街に面した築約50年のビルの4階で、開放的なスケルトン空間は現代アートのギャラリーのようだ。面積約95㎡をガラスパネルでゆるやかに仕切り、約半分をオフィスと資材ストックの場に、残りをフリースペースとしてミーティングやイベントに使用するという。

代表の吉泉 聡氏は「デザイナーの働き方、ビジネスのあり方として受注産業になっていることが多い。もっと自ら問題意識を見つけて提案することをできるだけ多くやりたいんです。フリースペースを広めにしたのも、自分たちで継続的に発信していきたいから」と話す。

青山や六本木といったエリアでは、彼らが希望するような広くて自由度の高い空間を見つけることは難しかった。「辿りついたのがこの北東エリアでした。この辺りは歴史があり、デザイナーが入りたいと思うようないい感じの旧い物件がわりとあるんです」。実際、別フロアには現代アート作家のアトリエが入居しているなど、クリエイティブな雰囲気がある。


「インダストリアルデザインとアートのあいだ」

そんな新オフィスで今回展示しているのが、TAKT PROJECTの自主制作作品「COMPOSITION」シリーズだ。昨年の東京デザインウィークで試作を展示し、今春のミラノサローネに出展したモデル10点のうち7点が展示されている。ミラノでは「有機的な作品」と評価され、「今すぐ売ってほしい」と声をかけられることも多かったとか。

アクリル樹脂の中に電子部品を封入した照明や懐中電灯は、傾きセンサーによるオン・オフ、非接触式の充電、Bluetoothチップによる通信、専用アプリを使ったUIが実装されている。TAKT創立メンバーのひとりである本多 敦氏は、「ランプの形状、光の反射の仕方などを考えながら形をつくりました。形によってパーツの配置を変えています」と説明する。


平面の基盤から開放された電子部品が立体的に浮遊する不思議さや、そのなかで通電したLEDが点灯するという驚きはアート表現のようだ。種を明かすと、各パーツは1本の極細の導線でつながり、それらを“骨”となるアクリル樹脂の上に貼り付けたものを、さらにアクリル樹脂で封入するというつくり方。同じアクリルであれば屈折率は変わらないとはいえ、均一な透明に仕上げるにはひじょうに高い技術が必要とされる。浜松にあるアクリル加工の工場に依頼したという。

TAKT PROJECTでは積極的にこうした自主提案に取り組んでいるが、主に「インダストリアルデザインとアートのあいだ」のような作品をつくることが多いという。「僕が学生だったときは、デザインとは課題に対してソリューションをつくっていくことだと教わりました。でも、今はそれだけではどうにもならない」と吉泉氏。「もう一歩踏み込んで、課題そのものを提案しないとデザインは面白くならないと思う。それがアートに近いのかはわかりません。僕らとしてはあくまで身の回りのことを取り上げて、社会とつなげたり、社会から引っ張り出すことにトライしていきたい。その出発点からアート的なものや非日常的なものに発展することもあります」。


家電デザインのオルタナティブとしての「COMPOSITION」

「COMPOSITION」シリーズで家電をテーマにしたのには、慣習的な家電デザインに対するオルタナティブな提案という意味合いがあった。ステートメントには、「木を削り、家具をつくる様に、粘土をこね、器をつくる様に、素材からシンプルに家電をつくる方法はないだろうか? 加飾をまとった虚像のような外装で覆われた家電ではなく、素材から立ち上がったようなピュアな存在」と記されている。

そうした問いかけからスタートしたプロジェクトは、プロダクトや素材の意味を見直す、コンセプチュアルな表現となった。「家電をデザインする仕事もありますが、その際は決められた前提条件のなかで何をつくるかといった議論になります。もしもそれらの前提条件を変えることができたなら、もっと面白いデザインが可能になるのでは。もちろんすべての家電がCOMPOSITIONのようになればいいというわけではありませんが、1つのオルタナティブとして視点を変えた家電デザインのあり方を提示してみたかったのです」(吉泉氏)。

今後も引き続き、展示をキュレーションしたり、自主制作による提案を続けながら、「社会のなかで実装するという段階に踏み込んでいきたい」と意気込みを語った。ある種の落ち着きと包容力のありそうな街と空間は、そんな彼らの展望をのびのびと実現していくのに申し分のない環境かもしれない。(文・写真/今村玲子)



TAKT PROJECT「Office Exhibition vol.1」

会期:2016年10月29日(土)〜11月6日(日)
   11:00〜20:00 ※11月6日(日)は18:00まで

会場:TAKT PROJECT 新オフィス
   〒113-0001 東京都文京区白山1-33-15 コンドウビル 4F
   Tel :03-6801-5463
   Fax:03-6801-5464
   都営三田線 白山駅A1出口 徒歩1分

詳細http://taktproject.com/
   https://www.facebook.com/taktproject



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。