若手起業家の登竜門
ジェームズ ダイソン アワード 2016
国際トップ20に選ばれた三枝友仁さん「コミュニケーションスティック」

ジェームズ ダイソン アワードは、デザインやエンジニアリングを専攻する学生と卒業4年以内の卒業生を対象にした国際エンジニアリングアワードで、今年で12回目の開催。昨年は、22カ国から約1,000点の作品が集まり、そのうち上位20位(国際トップ20)に日本人の作品が入りました。三枝友仁さんの「コミュニケーションスティック(Communication Stick)」です。介護施設への訪問を通じて「歩けるのに外出できない人」と出会い、杖を媒体とした高齢者と介護者が相互にコミュニケーションが取れるシステムを開発して、高齢者の外出に対する不安の解消に取り組んだもの。現在は製品化を目標に開発を進めているところです。「ジェームズ ダイソン アワードの入賞が製品化への気持ちを後押ししてくれた」と語る三枝さんに、開発の経緯や今後の展望について聞きました。

▲三枝友仁(さいぐさ ともひと)さん。

ジェームズ ダイソン アワードに応募した理由を教えてください。

自分の力を試したかったからです。応募したときにはデザイン会社に勤めていたのですが、会社の中で設計ばかりやっていると外部と関わることが少なく、自分の仕事がどう評価されているのかわかりにくい。日本企業ではひとりが一貫して製品開発に取り組む機会は少ないと思います。でも僕は、課題を見つけてどう対処するかを決めることがいちばん難しく、またデザイナーとしてやりがいのある部分だと思っています。 ジェームズ ダイソン アワードでは福祉機器や医療機器の提案も数多く入賞しています。これらは僕にとって関心のあるカテゴリーなので、応募するきっかけになりました。

▲「コミュニケーションスティック」は、高齢者と介護施設のスタッフをつなぐ歩行用の杖。「音声からテキストメッセージ送信」「受信したテキストメッセージの音声読み上げ」「転倒時の位置情報通知」の機能を搭載しており、高齢者の安全を守りながら、自立した暮らしを支援する。

ふたつのボタンだけでコミュニケーションできる杖

今回、三枝さんが解決したいと考えた課題について教えてください。

福祉機器の開発に関わった経験があり、「歩けるのに外出できない高齢者がいる」という課題については知っていました。そこでユーザーとして設定したのは、屋外歩行補助具があれば自力で歩くことのできる人たちです。福祉用具の基本的な思想は自立支援。完全に助けるのではなく、個人の残存能力を活かして、自立した生活を送れるようにすることです。歩行補助具としては歩行器や車椅子などもありますが、今回の課題に対する適切な道具として「杖」を選びました。

その杖に、なぜ通信機能を搭載したのでしょうか。

介護施設に入居している高齢者が外出できない理由として、高齢者自身と介護者の両者が「外出先で何かあったら怖い」と感じているということがあります。ヒアリングしていくと、特に「転倒」と「迷子」に対する不安が大きいとわかりました。そこで外出先で高齢者と介護者が相互に連絡を取り合う手段をつくり、いざというときに対応できる環境があればその不安が解消できるかもしれないと考え、杖に通信機能を実装しました。 65歳以上のスマートフォン所有率は約40%と言われていますが、介護施設に入居している高齢者が利用している姿を見たことがありません。そこで外出した高齢者が「誰にどんな連絡を取りたいのか」というニーズを絞っていき、最終的にはふたつのボタンだけで管理者(介護者)とやり取りできるシステムをつくりました。 具体的には、高齢者の声をテキストに自動変換して管理者にメールを送るほか、管理者からも外出中の高齢者に対して一斉にお知らせのメールを送ることができます。また加速度センサーで転倒を検知して管理者へ通知され、GPSである一定の距離を越えてしまったらアラートが出るなど、高齢者も介護者も安心できるような仕組みを考えました。

▲ジェームズ ダイソン アワードへの提出のために自ら制作したプレゼン動画。モデルは三枝さんのお父さん。動画はこちら

悩んだ後に頭を切り替え、粘った どのように設計していったのでしょうか。

最初は基盤や電子部品をなんとか1本の杖に収めようと苦労しました。しかし当時のチームの技術では、求める機能を収納しようとすると大きな箱が必要になってしまいました。一方で「杖に対するネガティブな印象を改善したい」という想いもありました。 あるとき、自分が描いたスケッチを見ながら「これはユーザーが求めるかたちではなく、現状これしかできないからこのかたちになっている」ということに気づきました。そこで頭を切り替えて、機能試作と、最終製品の仕様がわかるデザインモデルを2種類に分けてつくることにしたのです。機能試作では基盤や電子部品を取り付けて「実際にどう動くか」を検証し、デザインモデルではディティールやボタン、スピーカー、マイクの配置を検討して、利用シーンをプレゼンテーションできるものをつくりました。

▲初期のアイデアスケッチ。

苦労した点は? 専攻がプロダクトデザインで、仕事ではメカエンジニアリングの経験も少しありました。しかしエレキとソフトウェア開発に関しては経験がなかったので困りました。もちろん自分でも勉強しましたが難しく、なんとかエレキとソフトができる学生を探して手伝ってもらったのです。しかし最初は技術仕様を伝えることすらままならず苦労しました。なんとか粘って、いろいろな人に尋ねながらようやくここまでたどり着きました。

▲最初のプロトタイプ。

人間的な成長もあった

トップ20の受賞後、プロジェクトはどのように進んでいるのでしょうか。

2018年の製品化を目指して動いています。ジェームズ ダイソン アワードの応募時には、課題を見つけて、それに対する仮説を立てて試作をつくりました。しかしそれは「解決策として可能性がある」というだけで実証されていない段階です。それを実証するところまでやりたい。製品化して、市場に出してユーザーに使ってもらい、しかもその人たちの生活が変わったということがわかって初めて「仮説が正しかった」と言える。それを僕はやってみたいのです。

受賞して終わりではなく、アイデアを実現したいという気持ちが強いのですね。

その背中を押してくれたのがジェームズ ダイソン アワードなのかもしれません。審査員のひとりである田川欣哉さんの講評の「お年寄りの行動範囲を広げ、家族の安心を確保し、いざというときに人命を救う」という一文は、僕が考えていることをわかりやすく言葉にしてくれています。やりたいことをきちんと評価してもらえたことが嬉しかった。 実は、提出時にはあまり自信がなかったのですが、講評をもらってはじめて「可能性のあるプロジェクトなのかな」と思うことができました。受賞があったからこそ、試作開発を続けて製品化を目指すことができています。

ジェームズ ダイソン アワードの参加以前と以後でご自身がどのように変わったと思いますか。

今回の受賞は、それまで自分ができなかったことに対して向き合った結果だと思っています。難しい課題に直面しても避けずに向き合ったことで、どんどん解決できていくという実感があった。そこには人間的な成長もあったのではないかと思います。

▲機能試作の完成形。

若いうちに挑戦を

今後の展望を教えてください。

大学時代に、ゼミ教授の工学博士・長谷川文雄先生に、エラスムス大学と一橋大学共著の「企業活力としてのデザイン」という論文を勧められて読んだことがあります。経営とデザインに関する論文で、デザインを最終製品の形を示すだけのものではなく、企業と消費者のコミュニケーションプロセスとしてとらえるべきだということが書かれていました。そのときから、経営者とデザイナーが近い関係性であることが製品開発を良い方向へ進めるのではないかと考えていました。自分がどういう立場になるかわかりませんが、そういう働き方をしてみたいと思っています。

最後に、これからジェームズ ダイソン アワードに応募してみたいという人に向けてアドバイスをお願いします。

僕にとってジェームズ ダイソン アワードとは、若いエンジニアに対して「もっと上にあがってこい、もっと頑張れ」と励ますコンペティションであるような気がします。そこでは、自分が專門としていない領域以外のことをかなりやらなければいけません。実際に手を動かさないにしても、必死に勉強しないと人に頼むことすらできない。でも、それは会社に入るとなかなか経験できないことでもあります。
もしも若いうちにそういった経験をして結果を出せたら、たぶんその人の製品開発への関わり方は全く変わってくると思います。作品をつくるためにいろんな人に協力してもらうことも勉強になるし、大きなチャンスだと思って挑戦してみてはどうでしょうか。

ありがとうございました。

三枝友仁(さいぐさ ともひと)/2013年明治大学国際日本学部卒業。15年桑沢デザイン研究所デザイン専攻科プロダクトデザインコース卒業。13年より都内デザイン事務所にて勤務後、16年8月独立。

「ジェームズ ダイソン アワードは、若きデザイナーやエンジニアにとってのオリンピックのような機会です。世界各地で行われる国別の予選、その上位入賞者達が競う世界戦。その中で披露されるコンセプトはイノベーションの力を感じさせるものばかり。社会から問題を発見し特定する力、問題に対して解決を発想する力、それを実際にプロトタイプし、検証し、磨き上げる力。それらを全て駆使して、あなたもこのアワードに参加してみませんか。世界の舞台で腕試しができる、またとない機会。それがジェームズ ダイソン アワードです」。(2013〜2016年ジェームズ ダイソン アワード国内審査員 田川欣也)


ジェームズ ダイソン アワード 2017は現在作品募集中です。
募集課題:問題を解決するアイデア
募集締切:2017年7月20日(木)*1
賞金:国際最優秀賞30,000ポンド(約435万円)*2 , 所属/卒業学部 5,000ポンド(約72.5万円) *2 国内最優秀賞者 2,000ポンド(約29万円)*2 *1 日本時間7月21日(金)13時59分締切 *2 参考金額1ポンド=145円 受賞発表時の為替相場に応じて換算予定 応募対象者:デザインやエンジニアリングを学ぶ学生や卒業して4年以内の方
応募方法:Webにて日英で応募
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