オラファー・エリアソンのベルリンスタジオ訪問。
100名のスタッフがともに食事をしキッチンに立つ理由

▲ Photo by María del Pilar García Ayensa / ©Studio Olafur Eliasson

現在発売中の「AXIS」187号では、アーティストのオラファー・エリアソンが手がけたソーラーライト「リトルサン」を取り上げた。地球温暖化防止を目的とした黄色い花の形をしたリトルサンについては本誌に詳しいが、インタビュー中にエリアソンから誘いを受け、後日、彼のベルリンにあるスタジオを訪れた。

▲ Photo by Andrew Draper

エリアソンの自宅はデンマーク・コペンハーゲン郊外にあるが、ベルリンのスタジオで週の半分を過ごすという。とはいえ、世界各地を飛び回る売れっ子のエリアソン。訪れる日はニューヨーク出張と聞いていたが、元ビール工場を改装したというスタジオを訪れると、出張が当日になってキャンセルになったというエリアソンが迎えてくれた。
 
スタジオ・エリアソンのスタッフは約100名、その大半は建築家だ。エリアソンは2014年に建築家のセバスチャン・ベーマンと「スタジオ・アザー・スペース」という別組織を立ち上げ、エチオピアの図書館兼メディアセンターといった大規模な建築プロジェクトも手がけている。オフィス3階の約半分のスペースは、建築モデルやドローイング、マテリアルのサンプルなどが所狭しと並ぶ建築部門だ。

階段の踊り場にはエリアソンのミラーの作品が置かれ、まるで階段を行き来する自分を見つめ直すような気持ちにさせられる。

2階は、建築以外の作品を設計するスペース。部屋の真ん中に大きな通路があり、両側にデスクとワークスペース。いくつもの幾何学的な球体の模型が、天井、棚、テーブルといったところに溢れている。バックミンスター・フラーを思い出すが、それもそのはず、エリアソンは幾何学建築の大家でフラーの友人として知られるアイナー・トルスタインと若き日に協業し、影響を受けているのだ。

▲ ©Studio Olafur Eliasson

▲ ©Studio Olafur Eliasson

1階のオフィスをシェアしているのはガラス工房。この日は職人が黙々とガラス作品を磨いていた。デンマーク製のヴィンテージ家具が並ぶ一角にエリアソンのデスクがあり、カイ・ボイスンの木製玩具「モンキー」がデスクライトから下がっている。エリアソンの思想は両親の出身地であるアイスランドの影響が強いが、美学は生まれ育った北欧デンマークにルーツがあるようだ。

また、本館につながる別棟は、作品を美術館などに輸送する前に組み立ててチェックする巨大スペース。DJ設備の整った小さなバーもあり、プロジェクトの完成をスタッフ皆で祝うのだそうだ。

隣接する鉄の工房では、大音量のロックミュージックが流れるなかで職人たちが作業する。その上階がリトルサン社のオフィスである。

▲ リトルサンの欧米のショップでの展示・販売例。Photo of below by Audrée Anid ©Studio Olafur Eliasson

2012年、エリアソンとエンジニアのフレデリック・オッテセンが設立したリトルサン社は、現在スタッフ23名。若き社長のフェリックス・ホールワックスもやはり建築家だ。

当初、リトルサンを認めてもらえなかったというホールワックス社長は、「ビル・ゲイツに投資を要請したとき、製品をつまみ上げて『このビジネスモデルは成功しない』と言われた。僕は『あなたの説は間違っている、いつかそれを証明してみせる』と啖呵を切ったのを今も覚えている」と語った。

ホールワックスは、後にニューヨークの実業家マイケル・ブルームバーグに話を持ち掛け、500万ドルの投資を受けることに成功した。

▲ リトルサンのオフィスの写真パネルには、ブルームバーグ氏との対話シーンも。

▲ リトルサンの試作品と製造のための金型。

リトルサンのパッケージや製品にエリアソンの名前は記されていないが、彼のアーティストとしてのネットワークが製品の普及に大きく貢献しているとホールワックスは言う。MITやMoMA、アーティストであればアイ・ウェイウェイらがリトルサンのプロジェクトに賛同している。

▲ 右がリトルサンのフェリックス・ホールワックス社長、左がスタジオ・エリアソンのPAのアナ・クレッツラガー。

最後に、本館3階にあるキッチンへ。2016年、エリアソンはファイドンから「The Kitchen」という本を刊行した。以前は有名シェフがキッチンに立って料理を振る舞っていたそうだが、現在は料理講習会に参加したスタッフが担当。100名のスタッフにランチが出るのは、市場から食材の届く火曜日から金曜日。屋上ではハーブを育てているそうだ。

「外に食べに行くより仕事の生産性が高くなる」という理由もあるが、「いちばんの利点は長テーブルを囲んで同じ食事をとることで、違う職種や担当のスタッフが交流し、意見交換ができる」とエリアソンのパーソナルアシスタントであるアナ・クレッツラガーは語った。

▲ Photo by María del Pilar García Ayensa / ©Studio Olafur Eliasson

ランチはテーブルに3種類の大皿が並び、取り分けるスタイル。この日のメニューは、パスタサラダ、グリーンサラダ、ニンジンのサラダ。

ヘルシーこのうえないが、どれも美味しく、ついお代わりしながら、スタッフに話しかけると、スイスからのインターン、ヒューストン出身のアメリカ人、オーストリアに留学経験のあるドイツ人と、全員が建築家。ドイツ人建築家はエンジニアリングに長け、重要なプロジェクトを任されていると話していたが、突如「今日は僕が洗い物当番なんだ」と席を立った。

ロンドンでもペンタグラムがランチを支給し、アッセンブルは調理自体が当番制だったと記憶している。グーグルでは、食事やビールさえ無料だそうだが、エプロンをして当たり前のように洗い物を始める建築家の姿を見てスタジオ・エリアソンはどこか違うと感じた。

「私たちは、皆、しょせん同じだ」とエリアソンがインタビューで語ったことを思い出し、リトルサンがこのスタジオで育まれた理由に合点のいくスタジオ訪問だった。(文/中島恭子)