マルニ木工「MARUNI COLLECTION」は7年目で世界の大舞台へ。
深澤直人さんに聞く「HIROSHIMA」シリーズの躍進の秘密。

前回のジャスパーモリソンさんへのインタビューに続き、今回のインタビュイーは、マルニ木工が展開するブランド「MARUNI COLLECTION」のアートディレクションを務めるデザイナーの深澤直人さん。深澤さんがデザインした「HIROSHIMA」は2008年の発表以来、世界の市場で大きく成長してきた。ナチュラルな木肌を生かし、あらゆる場所でずっと長く使えることを想定したシリーズは、今や同社の「顔」だ。その開発背景には、販売を支える世界のディストリビューターたちとのコミュニケーションがあるという。7年目を迎えた今年4月のミラノサローネ出展について話を聞いた。

※MARUNI COLLECTION:マルニ木工がつくるべきもの、その原点を探るため、2008年に立ち上げたブランド。2010年に深澤直人をアートディレクターに迎え、2011年からジャスパー・モリソンが参加し、「100 年経っても「世界の定番」として認められる木工家具をつくり続ける」ことを打ち出している。

HIROSHIMAシリーズの新作で挑戦したことを教えてください。

HIROSHIMAはこの1年で数千脚もの数が販売されました。その分、世界中のディストリビューターからさまざまな要望が来ています。今年はファミリーを拡大するという要望に応えるため、スタッキングとスツールをデザインしました。

▲「HIROSHIMA アームチェア(スタッキング・張座)」
デザイン:深澤直人
素材・仕上げ:オーク ウレタン塗装;ステンレススチール ブラッシュ仕上げ/粉体塗装仕上げ ブラック
張座:MAYA/マルニスムース ブラック

▲「HIROSHIMA スツール High」
デザイン:深澤直人
素材・仕上げ・色:オーク ウレタン仕上げ ナチュラルブラック;ステンレススチール 粉体塗装仕上げブラック

デザイン開発において、ディストリビューターの存在は重要ですか。

どのディストリビューターと組むかによって市場が決まるので大変重要です。マルニ木工はよいディストリビューターをこつこつと開拓してきたので、真面目なフィードバックがあるんですよ。例えば「金属を磨いてピカピカ光っている脚は売れない」という声があったので、今年はブラッシュ仕上げのマットな脚をつくりました。ブラックバージョンをつくったのも同じ理由です。ミラノサローネのスタンドでは、お祭りというよりは、必要な椅子や樹種、材質などについて割と硬い会話をしているんです。

今回新たな試みとしてイタリア・FIDIVI社による張座が登場しました。

マルニのエンジニアや関係者たちが、FIDIVI社のオレンジ色のファブリックを張った試作をつくっていて。彼らは僕がどう反応するかわからなかったようだけれど、僕はそれを見てすぐに「いいな」と思いました。50’S、60’Sの昔懐かしい感じがしてかわいい。それでこのファブリックを選びました。ミラノサローネではジャスパーの新作テーブルと一緒にその椅子を置いたんです。そうしたら、ジャスパーがやってきて「とてもよく合っている」と言ってくれました。

木、金属、布といった異素材の組み合わせについてはどのように考えていますか。

HIROSHIMAはもう有名になったので、だからこそ今は木にこだわっているように見えすぎないといいな、と思っています。無垢材だけではなくプライウッドも使っているし、金属や布だって合うものがあればやりたい。そしてこの会社にはそれを受け入れる技術やキャパシティが十分にあるんです。マルニ木工という社名ながら、鉄も使うしね。
木にこだわらないことで、様ざまな人とのコラボレーションが生まれ、ファンも意見を言ってきてくれるので、よい相乗効果が生まれています。

毎年ミラノサローネで発表していますが、今年の出展をどのようにご覧になりましたか。

マルニ木工はずっとチャレンジャーなんです。ミラノサローネという世界のステージに乗って、そこで認められるように階段を登りながら、昨年やっと見本市会場の“本丸”である16号館に乗り込んでいった。それまでの6号館に比べて、人の通りも注目度においてもグレードアップしているんですよ。

※ 16号館:ミラノサローネのメインの見本市会場(フィエア)の中でも有名デザイナーの話題作などが揃う、最も注目されるホール。出展場所を決定するのは主催者のコズミット。

▲ミラノサローネでのマルニ木工のスタンド。昨年からフォトスタジオのホリゾントを使い、すっきりとシンプルな見せ方を意識した。

16号館の隣には20号館があります。そこではヴィトラなどが巨大なスタンドを構え、製品の数も圧倒的です。でも僕らは、主催者から「来年はもっと広いスペースをあげる」と言われたとしても、簡単には喜べません。広いということはそれだけ製品も必要ですし。もしもこれから先、もっと高いステージに上がっていっても、あるところでブレーキをかけると思う。その意識はジャスパーのなかにもあります。僕らはあまり加速しないし、きらびやかなところには行かないタイプだから。

ジャスパーさんと作品について議論することはありますか。

いっさいありません。「同じコレクションのなかにいるんだけれど、違うことをやっていこう」という感じです。選ぶ樹種も違いますね。僕は家具街道まっしぐらで来ているから、よく樹種を変えるんです。例えば日本ではオークとビーチが人気ですが、ヨーロッパはそうではない。一方、ジャスパーは独自の感性に則ってアッシュを選んだりする。それぞれ生きてきた世界が異なるし、パーソナリティが表れていると思います。

ところで、7月に国内で初めての個展を開催する予定ですね。「AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲展」はどのような展覧会になりそうですか。

僕はものに集中する、ものづくりの大好きな人間なんだけれども、HIROSHIMAも含めてデザインの最終目的というのは、ものによって生まれる「いい雰囲気」みたいなものをつくることではないか、と思っているんです。展覧会では、ものを紹介するというよりは、それが置かれる周囲の空気、つまり「アンビエント」を感じられるような見せ方にします。

HIROSHIMAの特徴はマルニ木工の3D削り出し技術を駆使したフォルムであり、またどのような異素材やインテリアにも馴染む懐の深さ。HIROSHIMAが世界で売れている理由は、それがどんな場所に置かれても「いい雰囲気」を生み出すアンビエントデザインであるからと言えるでしょう。どうもありがとうございました。End