「石巻工房の家具 2011-2017」展のワークショップで、
“セルフビルドの精神”を体験する

▲Photo by Masaki Ogawa

石巻工房は、2011年の東日本大震災後に宮城県石巻市に設立された「ものづくり工房」。国内外のデザイナーや建築家、家具メーカーらが支援し、被災した地域の住民が暮らしを取り戻すための一助となることを目指して誕生した。現在は法人化され、「DIY(Do it Yourself)とデザイン」をテーマにした数々の製品を製造・販売している。

▲石巻工房のプロダクト第1号「石巻ベンチ」(デザイン:芦沢啓治、2011年)。2011年8月に開かれた夏祭りの野外客席用に設計。工房長である千葉隆博が石巻工業高校の高校生とともに約40台のベンチを完成させた。

「厳しい制約」をどう楽しむか

DESIGN小石川で7月16日まで開催中の「石巻工房の家具 2011−2017」は、石巻工房がこれまでつくってきた60点以上の家具を紹介する展覧会だ。主に2☓4(ツー・バイ・フォー)と呼ばれる規格材を用い、特殊な工具なしにユーザーが容易に組み立てて使う家具というのが設立当初からのルール。これは家具をデザインする側にとっては厳しい制約であり、ある意味、デザイナーの筋トレのような取り組みとも言えるかもしれない。

本展では、ドリルデザインやトラフ建築設計事務所といった17組のデザイナーが考案した家具とともに、背景にある彼らの問題意識やストーリーを紹介する。

例えば、「スカイデッキ」(デザイン:トラフ建築設計事務所)は、ベランダの手すりに掛けて使う小さなテーブル。庭のないマンション住まいでも、屋外の時間を楽しむことのできる家具として人気を集めた。また「MAセット」(デザイン:トマス・アロンソ)は都市部の狭い住宅事情を考慮した、細長いテーブルにスツールとベンチが収納できるダイニングセットだ。

▲トラフ建築設計事務所「スカイデッキ」(2012年)。

▲トマス・アロンソ「MAセット」(2014年)。

どちらも震災の経験を背景に、屋外でも室内でも使えるコンパクトな「スモールアウトドア家具」としての提案だ。シンプルなデザインにこそ製作時の精度が求められるため、工房では木材の選定や仕上げに注力したという。

▲「ハピネステーブル」「ハピネスベンチ」(デザイン:ファビエン・カッペロ、2014年)。石巻工房では2014年以降、海外デザイナーとのコラボレーションが増えた。入り組んだ脚の構造は加工が困難だったため、デザイナーの提案後に工房が再設計したという。

▲「イセ・ハイテーブル」「イセ・ハイスツール」(デザイン:ドリルデザイン、2015年)。小さなワンルームでもカウンターを設置できるようにと考案された。

セルフビルドの精神を体感

石巻工房のもうひとつの大きな特徴は、コミュニケーションの仕方にある。同工房では、ユーザーが自らものづくりに参加する「セルフビルド」の意義や楽しさを、ワークショップを通じて直接伝えることを心がけてきた。

筆者も6月下旬に開催されたワークショップに参加し、安積朋子がデザインした「キャリースツール」を製作。スタッキングができる小型のスツールで、裏返せばトレイとして使える優れものだ。

▲「キャリースツール」(デザイン:安積朋子、2013年)。トレイや小物入れ、プランター用ディスプレイなど使い方は自由。

土曜日の午前中、DESIGN小石川に約10名の参加者が集合。半数以上が「電動ドライバーを使ったことがない」というDIYビギナーである。まず、講師(芦沢啓治建築設計事務所のスタッフ)が、おおまかな組み立て方をレクチャー。「意外に簡単そう」とたかをくくったが、いざ電動ドライバーを手にすると予想外にズッシリくる重さにうろたえてしまった。

▲DESIGN小石川で6月末に行われたワークショップより。

▲生まれて初めて手にする電動ドライバーにおっかなびっくり。

その後も、「木ネジがうまく固定できない」だの「どのスイッチを押せば正しく回転するのかわからない」だの、講師や慣れている参加者の方々にひとつひとつ助けを乞いながら、たった5枚の板を30分以上もかけてなんとかつなぎ合わせた。

▲板同士をしっかり押さえながら木ネジを打たなければならない。

▲なんとか立体になった!

全体にサンドペーパーをかけて表面を滑らかにし、最後に「石巻工房」の焼印をおそるおそる押して完成。義務教育以来の木工作業はなんとも刺激的で、自分でものをつくる喜びや楽しさを改めて味わうことができた。

▲サンドペーパーを全体にかけた途端、まるで売り物(?)のように。

▲焼印を押して完成。

細部を見ると荒けずりもいいところだが、「それが個性」と愛着もひとしお。家に持ち帰るやいなや家族に引っ張りだこで、「ちょっと腰掛けるための椅子」「蚊取り線香置き場」「執筆作業の際のオットマン」など、さまざまに活用している。まさに石巻工房が訴求してきた、「必要なものは自分でつくる」というDIYの価値を実際に体感しているところだ。今後もDESIGN小石川では同様のワークショップを実施していくとのことなので、参加してみてはいかがだろうか。End

石巻工房の家具 2011−2017

会期
2017年6月16日(金)〜7月16日(日)11:00〜19:00 水曜休
会場
DESIGN 小石川
詳細
http://designkoishikawa.com

クロージングトークイベント

日時
7月14日(金)19:30〜
テーマ
石巻工房のデザインが持つ可能性
モデレータ
長岡 勉
パネリスト
トラフ建築設計事務所・鈴野浩一、ドリルデザイン、藤森泰司、芦沢啓治