【書評】養老孟司、宮崎駿 著「虫眼とアニ眼」
子どもと虫が現代の自然を物語る

「虫眼とアニ眼」
養老孟司、宮崎駿 著 (新潮社文庫)

子どもと虫ともののけの話
評者 青木俊介 (ユカイ工学代表)

本書は、昆虫採集でも有名な解剖学者の養老孟司と、アニメ監督の宮崎駿の3回にわたる対談をまとめたもの。養老先生といえば「唯脳論」の頃から、現代社会は意識に都合の悪いものを排除した「脳化社会」であり、排除されたものの代表が「死体」と「排泄物」であって、脳化社会に残された数少ない自然が「子ども」である、という話が一貫している。一方、宮崎 駿は、徹底的に子ども向けのエンターテインメントでありながら、大人にも強いメッセージのある作品をつくり続けてきた稀有な作家だ。このふたりの対談が面白くないわけがないのだけれど、なにせふたりとも膨大な知識の持ち主だから、対談なのに話が脱線しっぱなしである。どのページを開いても違う話をしているが、通奏低音のように「子ども」「虫」「もののけ」といったテーマが顔を出し、そのひとつひとつがどれもハッとさせられて面白い。宝石箱みたいな本なので時々眺めている。

僕がこの本を読んだのは、ちょうど現在の会社であるユカイ工学の創業期で、震災直後だった。会社の立ち上げや製品のアイデア出しに必死なとき、身体のあるロボットは、子どもを喜ばせるのにピッタリだなぁと考え、現在の製品「BOCCO」も強く影響を受けている。

冒頭のカラーイラストは、宮崎 駿が友人の建築家である荒川修作と考えた空想の町「イーハトーブ町」を描いたものだという。床が凸凹で土だらけの保育園と高齢者ホスピスを中心に広がる町は、後の作品「ポニョ」にも影響を与えていたりして、「雑想ノート」以来の宮崎ファンにはたまらない。End

ーーデザイン誌「AXIS」187号より