藤本壮介さん×吉添裕人さんが語る
「LEXUS DESIGN AWARD」の魅力と挑戦する意義とは

2013年に創設され、今年で6回目を迎える「LEXUS DESIGN AWARD」。
受賞者にはミラノデザインウィークへの招待やメンター制度によるトップクリエイターたちとのセッション機会を与えられる国際デザインコンペティションで、今まさに応募期間中だ(締切は10月8日)。

9月1日にAXISギャラリーで行われたスペシャルパネルディスカッションでは、LEXUS DESIGN AWARD 2018のメンターを務める建築家の藤本壮介氏と、2017年のグランプリ受賞者・吉添裕人氏が登壇し、テーマのとらえ方や受賞後の変化、メンターとのやり取りなどについて語り合った。

過去の受賞作、理想的なテーマのとらえ方

ーー2016年と2017年のLEXUS DESIGN AWARD受賞作について振り返ってもらえますか。

吉添裕人氏 LEXUS DESIGN AWARD 2016のテーマ「Anticipation(予見)」を受けて、植木鉢の提案をしました。予見って、自分から能動的にあるものを見出していくような響きがあると思ったんです。僕が育てている植物の鉢がモルタル製で、そこから染み出す水の跡を見て「湿っている、乾いている」と判断しながら水やりしていることに気づいて。この水の跡に色という要素を加えたら、植物と人間の関係をよりゆたかにビジュアライズできるのではないかと考えました。

▲LEXUS DESIGN AWARD 2016のパネル受賞作品「PLANTS-SKIN」。「第二の植物の皮膚」をイメージし、湿り方によって鉢の色が変化する。特許出願中。

2017年はグランプリを受賞した「PIXEL」という作品です。もともと光を使った作品に興味があって自主制作していたもので、「く」の字に曲がった筒状のものをスタッキングすることで壁や構造体になっていくような建築資材です。「YET(二律双生)」というテーマに対して、身近にあるのに存在のわかりにくい光と影を強調して視覚化することを提案しました。

▲LEXUS DESIGN AWARD 2017・グランプリ受賞作品「PIXEL」。筒の中に入ってきた光が反射を繰り返して、光と影の現象が起きる。

ーーこうしたテーマのとらえ方や昇華の仕方についていかがですか。

藤本壮介氏 吉添さんはテーマに対する深い思索がある一方で、それにとらわれすぎず、むしろ日常生活や僕らの身の回りのなかで真摯にものを見ている感じがいいなと思います。「テーマがこうだから」というより、最初の小さなアイデアを大きなテーマにつなげようと考えるなかで、その意味をどんどん深めていくことが大切なのでは。直感と思考のあいだを行きつ戻りつしながら、どちらも高めていけるようなことがきっと、テーマとクリエーションの理想的な関係なんでしょうね。

いかに楽しんで受賞後の変化に巻き込まれるか

ーーLEXUS DESIGN AWARDのグランプリを受賞して変化したことはありますか。

吉添 こうした場で話すことも1つの変化ですし、受賞を知ってコンタクトしてくれた人とのやり取りが始まったり、実現できそうなプロジェクトの話もあります。ゆっくりですが、とても強い変化を実感しているところです。

ーー藤本さんもかつて国際的な建築アワードでグランプリを受賞されています。

藤本 僕が参加したのはイギリスの建築誌が主催するARアワードで、吉添さんと似ていて最初の年はグランプリじゃなかったんです。それで悔しい思いをして翌年に出した作品がグランプリを受賞しました。そこから少しずつネットワークが広がって、それに巻き込まれていくうちに仕事につながっていく感じでした。

ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013もそうしたつながりのひとつ。受賞したら衝撃的に何かが変わるというよりは、知らず知らずのうちに変化していて、気づくと「けっこう遠いところまで来たな」という感覚ですね。吉添さんも最初の年はグランプリではなかったじゃないですか。次の応募のときには何を考えて、何が変わったのですか。

▲サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013。「壁も窓も家具もすべてが溶け合っている空間。唯一、人間がそこにいて時間を過ごす場である、という建築の本質だけ残してそれ以外を全部考え直したプロジェクトです」(藤本氏)。Serpentine Gallery Pavilion 2013 (c) IWAN BAAN

吉添 2016年はテーマに基づいてつくった作品だったので、2017年も当初はテーマから始めなければ、と思っていました。ところがなかなか自分のなかで筋が通らなくて、アイデアが思い浮かばなかったんです。一方で、もともと光と影に興味があったので自主的にさまざまなプロトタイプをつくっていました。実はそれがテーマの「YET(二律双生)」なのかもしれないと、自分のなかで結びついたことが大きかったです。

藤本 テーマについて色々考えていくと「本当にいいのか」と不安になりますよね。でも「これがわからない審査員だったらいいや」くらいのところまで考えやアイデアを発展させていけば、もはや怖いものはない。結果はどうあれ今の自分にはこのアイデアがあって、きっとこの先自分を支えるものになる。そう自信を持って思えるところまでクリエイションを突き詰めていったとき、本当におもしろいものが生まれるように思います。

▲中東のショッピングセンターの計画案。アーチの形状を積み上げた自然換気のタワーがランドマークにもなる。「1.2キロ四方の巨大な敷地のなかで一体何をつくるのか、自分に対する好奇心があって取り組んだ。実施には至らなかったが、すべてが初めての体験のなかで、今まで使っていない脳細胞が刺激されました」(藤本氏)。Souk Mirage Particles of Light (c) Sou Fujimoto Architects

メンターとのセッションについて

ーーLEXUS DESIGN AWARDの大きな特長の1つが、世界で活躍するクリエイターたちとセッションできるメンター制度です。2017年度の、吉添さんとメンターとのやり取りについて教えてください。

吉添 私のメンターは、ニューヨーク拠点の建築家とアーティストによるユニット「スナーキテクチャー(Snarkitecture)」でした。ふたりは最初に会ったときから、私の提案に対して「建築資材としての可能性を感じる」と言ってくれました。当初自分のなかでは建築に使うことは想定していなかったので、それが大きな起点となりました。

その後、提案の方向性から、素材やディテール、さらにはミラノデザインウィークでの展示やプレゼンの一言一句まで3人で議論して詰めていきました。ふたりは私が大切にしていた軸を尊重しつつ、常に先を見てメンタリングしてくれて、そのことが受賞につながったと思います。

ーーでは、藤本さんが今回メンターを引き受けた理由を教えてください。

藤本 メンター制度も一種のコラボレーションなんだろうなと思うんですけど、若いクリエイターと一緒につくったり、アイデアを育てていけるのは楽しそうだなと思って引き受けました。僕自身も、人と話しているときのほうが気づきがあったり、相手の言葉によってアイデアのポテンシャルに気づくことがけっこうあるんです。メンタリングって何かを伝えるとか導くというよりは、いい意味での聞き役になることなんじゃないかな。むしろ一緒に楽しむなかでおもしろいものが生まれてくるといいですよね。

実は建築家も話を聞くのが仕事なんですよ。クライアントの話を聞いていくうちに見えてくるものがある。聞くということは問うことでもあるので、いい問いを発しつつ僕自身も刺激を受けたいと思っています。

LEXUS DESIGN AWARDのならではの魅力と意義

ーー吉添さんが受賞経験を通じて感じるLEXUS DESIGN AWARDの魅力とは。

吉添 まずはミラノデザインウィークの大舞台で展示できる機会が与えられること。そして普段の仕事では知り合えないような著名クリエイターの方々から意見をもらえることは、若手にとってはとても貴重な経験です。さらに、各国から集まった受賞者の皆さんと交流してデザインの話をしたり、刺激を受けられる。コミュニティの場としての大きさも感じます。

ーー応募時から英語を使用することについてはいかがでしたか。

吉添 最初はとても心配でした。日常会話くらいはできても、技術的なことやコンセプトの説明は難しいので、僕の場合は英語のできる知人に助けてもらいました。ニューヨークでのメンタリングの際も、もちろん自分でできることは頑張りますが、難しいところは通訳の方を通してやり取りできました。英語が得意でなくてもグランプリを受賞できたので(笑)、気負わず応募してほしいと思います。

ーー最後に、LEXUS DESIGN AWARDに挑戦する意義を教えてください。

吉添 2年とも共通して、最初はちょっとしたアイデアからはじまりました。2017年の作品も「構造体」などと言っている時点でふわっとしているじゃないですか、ただ、この提案を拾ってくれる方がいる。つまり完成度よりも、そのクリエイターの可能性を見てくれるアワードだということです。それこそがLEXUS DESIGN AWARDに挑戦する最大の意義ではないでしょうか。

藤本 僕もARアワードで1年目は悔しい思いをした。でも、その場にいてそこで見たことはちゃんと蓄積されていくような気がするんです。

応募することも場数です。3回応募した人は1回も応募しない人よりも間違いなく何かを得ているわけで、プレゼンパネルをつくってみてわかることもたくさんある。場数を踏んでいることは強いんですよ。ならば、できるだけ早めに踏み出すのがいいのではないかと思います。

ーーありがとうございました。

Photos by Junya Igarashi End

LEXUS DESIGN AWARDについて

LEXUSは、デザインを単に造形ではなく課題解決のプロセスであり、豊かな社会とよりよい未来を創造するためのソリューションだととらえている。LEXUS DESIGN AWARDは、そんな革新的なデザインを生み出す気鋭のクリエイターの育成と支援を目的に2013年に創設された。

全応募作品のうち入賞12作品のクリエイターをミラノデザインウィーク2018に招待。さらに4作品には最大300万円を制作費として支援し、メンターと共に2018年1月〜3月にかけてプロトタイプを制作する予定。このメンター制度こそ、LEXUS DESIGN AWARDの特長となっている。

「LEXUS DESIGN AWARD 2018」の作品テーマは「CO-(共)」。
CO-とは、「複数の要素を融合させ、その相乗効果により、既成概念や限界を越えて新しい価値を生み出す」というLEXUSの思想そのものでもある。建築、ファション、プロダクトなどアウトプットのかたちは問わず、よりよい未来をつくる創造性豊かなアイデアの提案が期待されている。

応募締切
2017年10月8日(日)まで
応募方法
https://lexus.jp/brand/lexus-design/design_award/