インテリアとイベントを通じて検証する
「ジッケン オフィス」。
コラボレーションを生み出すオフィスのあり方とは?

▲「繋がる」スペースの「ソフトモジュラーソファ」(ジャスパー・モリソン)。「低い姿勢でカジュアルにコミュニケーションをとってもらう」ことが目的という。©︎ Nacása & Partners

ヤフーのオフィス内に設けられているオープンコラボレーションスペース「LODGE(ロッジ)」と、スイスの家具メーカー「Vitra(ヴィトラ)」による「ジッケン オフィス」がこの秋限定でスタートした(11月10日まで)。利用者同士のコミュニケーションやコラボレーションを活性化させることを目的にオフィス空間のインテリアをしつらえ、多ジャンルの人を呼び込むようなイベントを開催するというプロジェクトだ。

家具や空間レイアウトでコミュニケーションは活性化するのか

近年コワーキングスペースを有料で貸し出すサービスが増えているが、ヤフーでは2016年の本社移転を機に、オフィス1フロアの大半を「オープンコラボレーションスペース」として一般に無料で開放している。約1,330㎡のフロアにはネット環境や作業スペースはもちろん、プロジェクター、スタジオなどを備え、レストラン、キッチン、カフェテリアも併設する。話題の書籍が並ぶ本棚をはじめ、企業のミニ展示、名刺の掲示板など、ちょっとした交流のタネも散りばめられている。多くの人が思い思いの場所で作業したり、打ち合わせをしたり。オフィスらしからぬ、賑やかな雰囲気が印象的なスペースだ。

▲ジッケン オフィス前のLODGE。

「入りやすいオフィスをつくって、いろいろな人に来てもらうことで、ヤフーとしては新しいひらめきを得たいという思いがある」と話すのはLODGEのサービスマネージャー、植田裕司だ。「オープン以来、毎日260人くらいの方が利用しています。1年間運営してきて、ここに集まってくる人たちがもっとお互いにつながったり、コラボレーションしやすい環境にアップデートしたいと考えました。そこでヴィトラに『家具を使ってコミュニケーションを活性化することができないか』と相談したのがジッケン オフィスを始めたきっかけです」。

ヴィトラはこれを好機ととらえた。「デザイン家具として注目されることが多いのですが、オフィス家具やタスクチェアも多数のラインアップがあります。社内の専門家が最新のオフィスや働き方をリサーチし、その成果を踏まえて著名デザイナーと製品開発。家具とオフィス環境の双方を提案しています。そうした一面を紹介すると同時に、ユーザーの使い方を検証する機会を持ちたいと思いました」(ヴィトラ マーケティング&PR 金子尚子)。

コワーキングスペースで大切なのは可動性

こうしてLODGEの半分のスペースを使い、期間限定のジッケン オフィスがスタート。インテリアを担当したのは商業施設やオフィスデザインを手がけるFLOOAT(フロート)だ。昨年、LODGEのインテリアを手がけた際、アイコニックな家型の可動式家具を散りばめ、自由にレイアウトできる空間をつくった。

▲ジッケン オフィス前のLODGE。家型の家具や個人用ブースなどはオリジナル。

フロートのデザインディレクター吉田裕美佳は、「コミュニケーションのきっかけを生み出すために、周りで何をやっているのかが見え、聞き取れるくらいの距離感と動線を意識しました」と説明する。コワーキングスペースで想定される活動を分類し、「CREATE/創る」「Co-CREATE/共創する」「CONNECT/繋がる」という3つのキーワードを空間に落とし込んだ。

例えば、「創る」と「繋がる」が融合したスペースには、ヴィトラの「マップ テーブル」と「アルコーブ ソファ」を設置。「コワーキングスペースはさまざまな目的での使用が前提なので、可動性は重要なポイント。利用者が能動的に考え、ものを動かして最適な場所をつくるという意味で、軽量でキャスター付きのマップ テーブルは最適」と吉田。

マップ テーブルは、天板が台形のため隣の利用者との距離が短く、会話が生まれやすいとのこと。また適度にプライバシーを守る「アルコーブ ソファ」はパーテーションの役割も担い、オープンになりすぎるのを抑える。これもキャスター付きで移動が容易だ。配色については、仮に誰もいないときにひとりでも入りやすいような温かみのある、あるいはカジュアルに話をするのに向いているカラーバリエーションが選ばれた。

▲「創る」と「繋がる」を融合したスペースには、「マップ テーブル」(エドワード・バーバー&ジェイ・オズガビー)と「アルコーブ ソファ」(ロナン&エルワン・ブルレック)を配置。©︎ Nacása & Partners

多分野の人を呼び込む数々のイベント

コミュニケーションを生み出す実験は、インテリアデザインにとどまらない。期間中にはハッカソンやトークなどさまざまなイベントが開かれる。例えば、ヴィトラのオフィス家具開発を担うラファエル・ギールゲンによるワークハッカソンでは、「コラボレーションが最大化する未来のスペース」について参加者がアイデアをまとめ競い合ったり、「仕事とコミュニケーション」をテーマに田川欣哉(デザインエンジニア)や森永邦彦(ファッションデザイナー)がトークを繰り広げる予定だ。その他、ヤフーの名物社員のもてなしによって「スナック」と化す夜もあるという(いずれも参加は事前申込制。詳細や参加方法はこちらから)。

▲「共創する」スペースには、OSBパネルのシステムデスク「ハック」(コンスタンチン・グルチッチ)。天板を昇降させて個人やチームでの作業に対応でき、クッションを備えればソファにもなる。©︎ Nacása & Partners

植田は、「ヴィトラの家具に興味がある層は、普段私たちが出会う人とは違うかもしれない。今までヤフーとしてアートやデザインに対する支援があまりできていなかった」と言う。しかし今年、オフィス内で落合陽一(メディアアーティスト)を招いた展示が成功し、「オフラインの場所の可能性」を強く感じたそうだ。「もっといろいろな世界の人と一緒にアイデアを出し合ったり、今まで私たちがウェブやアプリで表現してきたものをオフラインで展開するとどうなるのか。LODGEを通じて、そうした事例をどんどん増やしていきたい」。

働き方が多様化するなかで、働く場所のかたちや求められる機能もどんどん変わっていく。コラボレーション、コミュニケーションという要素に着目することで、「オフィス」は今後どのように進化していくのだろうか。この秋、そんな実証実験的イベントの行方に期待したい。End

▲左から、吉田裕美佳(フロート デザインディレクター)、金子尚子(ヴィトラ マーケティング & PR)、植田裕司(ヤフー スマートデバイス本部 コワーク推進部 部長/LODGE サービスマネージャー)。

ジッケン オフィス

期間
2017年9月19日〜11月10日
開館時間
平日9:00~21:00 土日祝9:00~21:00 (最終受付は毎日20:30)
場所
ヤフー株式会社 紀尾井町オフィス(東京都千代田区紀尾井町1-3 東京ガーデンテラス紀尾井町 紀尾井タワー 17F)
詳細
https://lodge.yahoo.co.jp/jikken-office.html