東京ビジネスデザインアワード 2014年度 最優秀賞
カドミ光学工業×クラウドデザイン、進化を続ける「祈りのための道具」
商品化への道のりインタビュー

散骨や樹木葬、ロッカー式の納骨堂など、多様化する弔いのかたち。それに伴い、近年の「終活」、葬儀や埋葬に関連するエンディング産業において、身近に遺骨を残す手元供養や骨壷の小型化が広がりつつある。東京ビジネスデザインアワード 2014で最優秀賞に輝いた「祈りのための道具」は、光学ガラスの精密な接合加工技術により、手元供養のあたらしいかたちを提案したもの。受賞から4年、「FROM NOWHERE」ブランドとしてアイテムを増やしながら進化している。

光学効果を生かした新しい祈りのかたち

ーーカドミ光学工業は、どのような分野の光学ガラスを製造しているのでしょうか。

竹内広之氏(カドミ光学工業 代表取締役) 主に、医療機器、分析機器、半導体の製造装置などの産業機器分野に光学ガラス部品を納めています。例えば、血液や尿、水質などを分析するための「光学セル」と呼ばれるガラスの容器や、検査装置などで使われるレンズです。ものによっては、国内で数社だけの加工技術をもっています。

ーーなぜ、東京ビジネスデザインアワードに参加したのでしょうか。

竹内 7、8年くらい前から一般消費者向けに何かできないか、ということを考えて続けていました。レーザー加工を施した写真立てやトロフィーなどを目にしていたし、装飾関連の製品開発の話がないわけではなかった。しかし価格帯が安価なものでは、手仕事と先端技術の組み合わせという当社の特長が活かせず、どんな商材に取り組むべきか悩んでいたのです。そんな時、日野市からTBDAの紹介があり、よいアイデアに出会えるのではないかと参加することにしました。

▲左から、森脇大樹氏(カドミ光学工業 取締役 デザインプロジェクト プロジェクトリーダー)、竹内広之氏(カドミ光学工業 代表取締役)、三浦秀彦氏(クラウドデザイン デザイナー)、柴崎栄一氏(カドミ光学工業 FROM NOWHERE 営業担当)。

ーーデザイナーからいくつもの提案があったなかで、クラウドデザインの「祈りのための道具」という案を選んだ理由は。

柴崎栄一氏(カドミ光学工業 FROM NOWHERE 営業担当) 近年、地方でお墓を守る人がいなくなり、「墓じまい」をした方々が散骨や納骨堂を検討するようになりました。手元に遺骨遺灰を残すという考え方が広がりつつあり、今後もニーズは高まるだろうと考えました。

竹内 祈りのデザインという発想もとても新鮮でしたね。

ーー三浦さんはなぜ「祈り」というコンセプトを提案したのですか。

三浦秀彦氏(クラウドデザイン デザイナー) もともと光学ガラスやレンズなどが好きで、個人的に蒐集していたんです。カドミ光学工業の光学ガラスはひじょうに平滑で合理的、目的に合った精度を実現していると同時に、「ひじょうに神秘的なものだ」と感じました。そこから何か、精神的な、心のプロダクトのようなものをつくれるのではないかと考え、「祈りのための道具」という提案を立ち上げたのです。

▲受賞を経て、2016年に発売開始した「祈具(いのりぐ)」は、形見箱、分光枠、台座(チェリー、メープル、ウォルナット)から成る。

今まで見たことがないものを

ーーその結果、見事に最優秀賞を受賞。商品化に向けてどんな課題がありましたか。

森脇大樹氏(カドミ光学工業 取締役 デザインプロジェクト プロジェクトリーダー) 光学ガラスは加工に時間がかかります。デザイナーがモックアップをつくってできるというものでもなく、ちゃんとした加工や装置がなければ進まないので、まずはサンプルや廃材を三浦さんに提供して検討してもらいました。

三浦 いろいろなサンプルをいただいて、そこからどんなインスピレーションがあるか、可能性があるかを探っていきました。実物を見ながら感じ取るという作業が一番多かったです。


ーー特に大変だったことは?

森脇 形見箱は5つのガラスのパーツでできており、それを接合するためにオプティカルコンタクトという加工方法を用います。接着剤を使わずに、分子同士が引き合う力を利用するため、継ぎ目なく接着できるのですが、とにかく時間がかかる。普段はもっと小さなサイズのものを扱っており、今回は大きなサイズだったので苦労しました。

▲「形見箱」。オプティカルコンタクトは、精密な研磨をすることで、分子同士が“手をにぎりあう”というような現象を使って接着する方法。

ーー社内の反応は?

森脇 分光枠をつくって試しに組み立てたとき、現場から「感動した」という声を聞きました。今まで見たことがないものをつくった、と。

三浦 これは、遺影の代わりに亡くなった人への想いをそこに投影するようなコンセプチュアルなフレームです。断面が三角で、直射日光が当たるとプリズムのように室内に虹色の光を投射します。存在しているような、していないような不思議な感覚を表現したいと思いました。

▲想いを投影するための立体フレーム「分光枠」。

ーー用途もコンセプトも特殊な商品だと思いますが、販路開拓についてはどうしたのですか。

柴崎 「終活」やエンディング産業がどのように動いているのかをリサーチし、さまざまなセミナーやイベントに参加したり、「商品を見てもらえないか」とあちこちに電話しました。また、販売店やユーザーの意見を拾うため、国内外の展示会に出展してきました。

ーー2016年にはメゾン・エ・オブジェ・パリにも出展しました。海外の反応はいかがでしたか

三浦 日本独特の弔いの文化をベースにした発想が、文化の異なる人たちにどれだけ伝わるのか不安もありましたが、アーティストやデザイナーなどをはじめ、先進的な考え方の人たちから高い評価をいただきました。

▲「映箱」(2017年)。光学ガラスと透過性のある鏡面、真鍮のケースで構成。鏡面部分は反射と透過のバランスにこだわり、色の濃さを調整するために何度も試作した。

ブランドの世界観を補完する新アイテム

ーーその後、2017年は「映箱(うつしばこ)」、2018年2月には新たに2点のアイテムをリリースしました。

森脇 最初の「祈具」が最高級の価格帯なので、もう少しコストを下げた小型骨壷の提案として「映箱」をつくりました。

柴崎 「FROM NOWHERE」ブランドは無宗教の方に向けた祈りの道具ですが、その延長線上にはやはり供養という考え方を持つ人が多い。つまり骨壷を中心に、少しずつお鈴や位牌などが増え、結局仏壇に近づいていってしまうのです。「映箱だけではブランドの世界観を表現しきれない」という声もあり、セットとして使えるようなアイテム2点を開発しました。

▲「水平鈴」(2018年)。透き通った伸びやかな音が長く響く。六面の断面で、プリズムの効果をもつ。光学ガラスを紐で支える方法は、楽器のチャイムと同じつくり方。

ーー新アイテムのひとつ、「水平鈴(すいへいれい)」は光学ガラスのお鈴ですね。

三浦 音に関しては個人的なライフワークでもあり、いつかつくってみたいと思っていました。光学ガラスを叩くと独特の響きがあり、その響きを生かしながら、台座にガラスを固定することが難しかったです。できるだけコンパクトで、使いやすいかたちを試行錯誤しました。

ーーもうひとつの「射映枠(しゃえいわく)」は、光学ガラスのフォトフレームです。

柴崎 オーダーで好きな画像を直接印刷し、像を見ていただく商品になります。下に思い出の風景写真などを敷き、その上に射映枠を置いて見ると、目線の角度によって像が切り替わります。

三浦 ただ写真をプリントアウトして枠に納めるのでは、光の神秘性や光学ガラスのおもしろさが感じられない。時空を超えて覗き込む「窓」のような印象をつくるために、光学ガラスならではの効果を生かせないかと考えてたどりついたかたちです。

▲「射映枠」(2018年)

今後も「日本の新しい手仕事」を着実に

ーー「FROM NOWHERE」というブランドをどのように発展させていきたいですか。

三浦 このプロジェクトが始まるとき、「ブランドをつくるのはとにかく時間がかかります」とお話しました。今、エンディング産業は過渡期で落ち着くまでに時間がかかるだろうし、短期決戦で人と費用をつぎ込めばいいというものではない。当初から掲げている「光の神秘性」「日本の新しい手仕事」というコンセプトに基づいたものづくりを着実に実行していくことが、長い持続につながっていくと思います。

竹内 他社ではできないことに取り組んでいる自負があるし、エンディング産業についても大きな可能性があると思っていますので、年に1、2アイテムの開発を続けながら、お互いに無理をせずに進めていけたら。時間をかけて、新しい価値を創造していきたいと思います。

ーーありがとうございました。End

▲カドミ光学工業の工場にて。

FROM NOWHERE http://fromnowhere.jp

カドミ光学工業 http://www.kadomikk.com

クラウドデザイン http://www.clouddesign.com

東京ビジネスデザインアワード https://www.tokyo-design.ne.jp