女性4人の個性が生きるものづくり。
クリエイティブチーム
「heso」

▲創業150年の歴史を持つ大分県「太田旗店」とのコラボレーションによる新作バッグ。

女性4人によるクリエイティブチーム「heso」は、プロダクトの企画開発、空間のプロデュースやスタイリング、販促物のグラフィックやアートディレクション、そのプロモーションといった多彩な活動を展開している。会社設立から今年で5年という節目を迎え、これまでを振り返り、今後の進むべき道について改めて考えているところだという。メンバーの中から、須藤千賀氏と浅井晶木氏にお話を伺った。

▲2013年に手がけた、UR × heso × ecocoloによる「コクバン・ペーパーバッグ」。紙のバッグに黒板塗料を施したもので、チョークで絵やメッセージを描ける。

大学時代に、深く「考える」ことを学んだ

hesoの4人は、2007年に武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科のファッションデザインコースを卒業した同級生だ。在学中は、同コースを開設したクリエイティブディレクターの小池一子氏のゼミで学び、貴重な経験を積んだという。

ファッションデザインという名称のコースだが、服づくりの技術ではなく、主に物事についてさまざまな見地から深く「考える」ことを学んだ。服や着ることとは何か、何のためにつくるのか、自分はどういうふうに生きていきたいのか、というように物事の核となる部分まで掘り下げて考え、そこからすくい上げたことをもとに作品をつくった。

自分がつくりたいものを表現するのに、今まで手がけたことのない技法が必要だとしたら臆することなく挑戦する一方で、各自でテキスタイル、パターン、グラフィックなど、自分の好きなデザイン手法も学んでいった。卒業してから3年後、みな就職して毎日を忙しく過ごしていたある日のこと、須藤氏はふと思い立って現在のメンバーに一緒に展示をしないかと声をかけた。

▲hesoの原点でもある「HEY SO NO! OH!(ヘ-ソ-ノ-オ)」展で制作したアートブックのページより。

チームを組んで、共同でものづくりをする

須藤氏は言う。「私は大学の研究室で素材の研究をしていました。服を形にするときに自分がすべてをやる必要はない、一部を担えばいいんだと気づき、その瞬間に心が解放され、だとしたらチームを組んで、他の人と一緒にものづくりをしてみたいという気持ちになったんです」。そのときに大学時代に手がけた作品とともに思い浮かんだ顔が、現在のメンバーだった。

久しぶりに集まった4人は、個人で、あるいはコラボレーションしてシャツやバッグ、アクセサリーなどをデザインし製作も手がけ、2010年に中目黒のhappaで「HEY SO NO! OH!(ヘ-ソ-ノ-オ)」展を開催。展示した商品の販売も行い、ビジュアル構成を自分たちで考えたアートブックもつくった。

この体験を通して、4人の力を合わせて互いの感性を響き合わせることで、自分ひとりで考えてつくるものとは違う、新しい表現形態を生み出せることをみなが実感した。展示で発表した服を衣装として使用したいという話や、その後、プロデュースしたイベントに参加した人から結婚式のパーティのディレクションを任されるなど、ひとつの仕事からまた新しい仕事へとつながっていった。

▲東京・町田市が発行するフリーペーパーのアートディレクションとデザインを手がけている。

子育て中の母親の視点や発想を生かして

「HEY SO NO! OH!」展から3年後の2013年に、hesoは法人化した。最近、ようやく「自分たちらしさ」のようなことが見えてきたという。

最大の特徴は、女性4人のチームということだ。女性ならではの視点や細やかな気配り、また、メンバーのうち3人に子どもがいて、母親としてのやさしい包容力のある目線や子育てをしながら働くひとりの女性としての発想が生きる仕事も増えている。東京・町田市のPR誌「母がつくるまちだから」もそのひとつだ。

このプロジェクトには、1歳の子どもを持つメンバーがアートディレクターを務めている。誌面デザインだけでなく、冊子として伝えたいメッセージを編集者とともに考えたり、母子にお薦めの店を10軒紹介するのに180人にアンケートを行ったり、自分の子どもに食べさせたいという思いから興味を持った「重ね煮」について調べて誌面で紹介するという、実生活から生まれた発想を取り入れることもある。

▲松戸市立総合医療センターの小児科。かつては海だったという松戸の歴史や自然を背景にしたストーリーをもとにグラフィックデザインを考えた。

四季の移り変わりや光のうつろいを取り入れて

千葉県の松戸市立総合医療センターの小児科のプロジェクトは、フィールドフォー・デザインオフィスという、インテリア会社との協働による空間のグラフィックデザインを手がけた。

医療センター側からの要望は、長期入院する子どもたちのために、また付き添う家族にもやすらぎを与え、兄弟がお見舞いに訪れた際に気づきや発見があるような面白い仕掛けや遊び道具を取り入れたいということ。

建物の中にいても、子どもたちが四季の移り変わりや光のうつろいなどを感じられるような色彩やデザインを取り入れ、メンバーの子どもたちが好み、夢中になりそうなこともアイデアの参考にした。壁面には子どもの低い目線に合わせて海の生き物を、天井には風にそよぐ木の葉を描いたり、小さな入り口をつくったり、レバーを回すとカラカラと音がして、毎回、異なる模様が現れる五感を刺激する木製遊具などもデザインした。

▲2017年に三越伊勢丹で開催された「菊池亜希子とデニム四姉妹」のポップアップショップ。

深く考え、話し合いを重ねて世界観を考える

子育ての視点だけでなく、ファッションや美容といった、自分たちが好きな、また女性としての強みを生かせる分野の仕事の依頼も多い。昨年には、モデルで女優の菊池亜希子氏と三越伊勢丹のコラボレーションによる「菊池亜希子とデニム四姉妹」期間限定ショップのプロジェクトを手がけた。

このときはメンバーはもちろん、菊池氏とも多くの話し合いを重ねて世界観を綿密に考えていった。そして、菊池氏がデザインした4種のデニムをもとに、長女はしっかり者、二女はボーイッシュというように、4姉妹のキャラクター付けをしてストーリーを考え、グラフィックや空間構成、販促物やプロモーション用の動画の演出も含めて、総合的なディレクションを手がけた。

従来、こうしたプロジェクトでは、アートディレクターやグラフィックデザイナー、コピーライター、インテリアデザイナーなどが集まり、協働するものだが、hesoはそのほとんどを総合的に担っている。

▲「太田旗店」との第一弾製品。黒糸を用いた刺し子の生地にオリジナルのグラフィックをプリントしたクッション。黒糸がドット柄に浮かんでモダンで面白い模様に仕上がる。

5年目を迎えて、これまでとこれからを考える

法人化した当初は、手がけるジャンルを定めないと仕事の依頼を受けにくいのではと危惧していた。だが、それが結果として既存の概念やデザイン分野の枠を超えて、毎回、新しいものづくりのかたちを生み出すことにつながっている。彼女たちに仕事を依頼する人も、そこに期待しているのだろう。

この4月には、大型展示会に出展する。これまで手がけたプロジェクトは人の紹介や、仕事を見て共感した同じ価値観を持つ人からの依頼だったが、初めて自分たちから営業を仕掛けてみようと考えた。

そのときに「どういうふうに自分たちのことを人に伝えたらいいか」が課題だと、須藤氏は言う。「私たちの手がける仕事は多岐にわたるので、言葉で伝えるのが難しいと感じています。この機会に、自分たちにしかできない、自分たちだからこそできる仕事、得意な仕事とは何かということを改めて見つめ直して考えたいと思います」。

何ものにもとらわれず、新しいことに果敢に挑戦していく彼女たちのものづくりの姿勢から、デザインの未来が拓かれる可能性を感じた。今後は自分たちが暮らし働く地域の仕事にも取り組んでみたいという。hesoの活動領域は、今後もますます多彩に豊かな広がりをみせていくだろう。End


heso/2007年武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科を卒業。2010年に「heso」を結成。2013年7月株式会社ヘソとして法人化。領域を定めず、柔軟な発想でストーリーを持ったものづくりを行い、 企画から制作、プロモーションまでトータルに提案する。写真左から、須藤千賀、浅井晶木、澤田美野里、尾野由佳。尾野がデザインを手がける「SOAK」というバッグブランドも展開。http://heso-cha.com

SOAK http://heso-cha.com/soak

太田旗店 http://www.ootaflag.co.jp