工芸のこれからを産地で考える
「産地カンファレンス in 高山 2018」レポート

日本の工芸産地が自立し100年後も生き残るために産地同士が各地のモデルケースを共有し共に発展していくことを目的とする日本工芸産地協会。中川政七商店の代表取締役会長の中川政七氏が理事を務め、2017年に設立された。会員企業の産地で年に1回開催されるカンファレンスの第1回は富山県高岡市で開催。2018年5月18日に開催された第2回は岐阜県高山市が舞台となり、「工芸の工業の次」と題し工芸や産地の担い手が集まりこれからのものづくりのあり方を考える機会となった。

基調講演を行ったのはカンファレンスのホスト企業である飛騨産業の代表取締役、岡田贊三氏。飛騨高山の歴史や飛騨産業の成り立ちを語ったほか、同社が進める職人育成プログラム「飛騨職人学舎」を生徒とともに紹介した。

▲壇上では「職人心得30カ条」を元気よく唱和し、会場からは思わず拍手が。身の引き締まる思いがしたのは筆者だけではないはずだ。

18~20代前半の家具職人を目指す生徒が、2年間寝食をともにする共同生活(携帯・恋愛禁止)を通して職人としての生活習慣や考え方を学び、3年目〜4年目は飛騨産業工場勤務および特注家具の製作や後輩指導にあたる。5年目以降は独立も許されているなど、飛騨職人学舎における若手を育成する取り組みは、深刻な後継者問題に直面している家具産業全体の活性化につながっている。

▲1年目は家具の手加工を学び、2年目は機械加工を学ぶ。2年間は休みなく学び続けることとなるが、生徒たちはひた向きに手を動かし続ける。「人間性を学ぶためにここにやってきた」と話すのは、木工を4年間学んだ後に入学した生徒。

パネルッディスカッション①
赤木明登氏(塗師)×中川政七氏(中川政七商店)×鞍田 崇氏(哲学者)

パネルディスカッションでは赤木明登氏(漆作家・塗師)、中川政七氏(中川政七商店)、モデレーターとして鞍田 崇氏(哲学者・明治大学理工学部准教授)が登壇。「ポスト工業化社会の次の社会」に生まれる工芸を「工芸と工業のハイブリット」として捉え、これからのものづくりについて議論した。

冒頭では先の飛騨職人学舎の紹介を受けて、自身も輪島で親方のもと5年間の修行を経験している赤木氏が「修行のあいだ親方のことばかりを考えることで『我』が消え、親方が考え動くよりも早く動けるようになった。今は大変厳しいこともあるかと思いますがそれは必ず役に立つものなので頑張って」とエールを送った。

赤木氏は自身が独立した1994年頃は普段づかいの工芸が求められた「生活工芸」の時代であり、その時代性の特徴としてつくり手と産地が距離を置いていた「地域性の希薄さ」を例に挙げ、一方で現代に求められている工芸は地域性への回帰が見られることに着目。個々人がアイデンティティを求めている流れと重なるのではないかと指摘した。

また、中川氏は中川政七商店が掲げている「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、工芸をベースとしたSPA業態を確立してきた先駆者だ。工芸の伸びしろをどのように伸ばしてきたのかという問いかけに対し、「現代ではモノのもつ『意味』や『ストーリー』が伝わらなければ購買につながらない。エンドユーザーの目線に立ち、モノとお客様の間の翻訳係になることを心がけた」と経営者として全国に店舗を拡大していくなかで柱となる考えを語った。

パネルディスカッションではほかにも後継者問題に関して「今後は教育に纏わる仕事もしていきたい。最終的にはつくる『人』がものに表れてくる」(赤木氏)という発言や、「海外の市場に向けて工芸をどのように打ち出すべきか」という出席者からの質問に対し「文化・地域という文脈があってこその工芸なので海外の市場に適応させていく必要はないのでは」(中川氏)と回答すると会場からはさらなる質問が飛び交うなど、出席者が熱心に耳を傾け議論に参加する様子が窺えた。

パネルディスカッション②
平田オリザ氏(劇作家・演出家)×神山典士氏(作家)

このパネルディスカッションでは平田氏が芸術文化参与として関わっている兵庫県豊岡市や現在神山氏が住む長野県小布施町を例に挙げながら「地域で生きる地方で働く」をテーマに話が繰り広げられた。

平田氏が助言し14年に開設された「城崎国際アートセンター」(以下、KIAC)は「豊岡にいながら世界基準のアートに触れられる」日本最大級のアーティスト・イン・レジデンス施設で、国内外の一流のダンサーや俳優などアーティストが滞在。その間、地元の子どもたちはゲネプロを観る機会や、アーティストとコミュニーションをとる機会に恵まれる。豊岡市長の中貝宗治氏は「世界基準」を標榜することで豊岡市に暮らす価値の創造を目指し、人々を誘致している。また平田氏自身の劇団「青年団」も19年から20年を目処に豊岡市への移転を予定しているそうだ。

異なるアプローチとして神山氏が北斎と深いつながりをもつ小布施町を例に挙げながら、「これからはストーリー性、地域性なしには地方の観光業は成り立たない」と語る場面もあり、先の工芸をテーマに行われたパネルディスカッションでも強調されていた「地域性」「ストーリー性」がここでも共通のキーワードとして印象に残った。

工芸と工業の次

カンファレンスは基調講演とふたつのパネルディスカッションを通してどのように産地でのものづくりの特性を強め、価値を高めていけるかということが参加者を含めた会場全体で議論され閉幕した。最初に紹介された飛騨産業による飛騨職人学舎の取り組みをはじめとした技術・職人として大切な心構えを継承していくことのできる現場重視の教育が引き続き産地における重要課題であり、また地域性に今一度スポットライトを当て、モノがもつストーリーを地域の文脈のなかできちんと翻訳しエンドユーザーにまでつなげていくことが産地・地方を活性化していく鍵となる。

総勢で全国29都道府県から382名が出席した本カンファレンス。産地で開催されるとあって、都内近郊から近い場所ではないが、実際に産地を訪れて工場を見学したり街の様子に触れることができる貴重な機会だ。次の開催地は未定だが、来年も第3回産地カンファレンスの開催が予定されている。工芸と産地の活性化に関心があればあらゆる立場の参加者が歓迎されているので、次回はデザイナーの皆さんもいかがだろうか。End