【ミラノサローネ2018】
リミテッドコレクションへの注目が高まるミラノ

ファストファッショントレンドに限らず家具やインテリア小物においても、大量生産による手頃な価格帯が流行を牽引する場面は珍しくなくなった。しかし一方で、リミテッドエディションやビンテージアンティークへの要望は着実に高まりつつある。「デザインマイアミ」(毎年6月にスイスのバーゼル、12月にアメリカのマイアミで開催)や「ノマドモナコ」(毎年4月にモナコで開催)といった、ハイエンドなデザイン見本市に参加するデザインギャラリーも、ミラノデザインウィークで独自の展示を行う。今年の注目を集めた、高い技術による限定生産のコレクションとインスタレーションのいくつかを振り返ってみたい。

Nilufar

ミラノのデザインギャラリーを代表するニルファーは、今年も2ヶ所で異なる展示を行った。市内にあるニルファー・ギャラリーでは「CHEZ NINA」と題し、創設者でオーナーのニナ・ヤシャールにちなんで名づけたナイトクラブ風のスペースを創出。空間デザインを手がけたのは、パリを拠点に活動するインテリアデザイナー、インディア・マダヴィだ。色とりどりのベルベット製ラウンジチェアとアシッドカラーが印象的なガラステーブルを組み合わせ、幾何学模様をあしらったシルク製の壁面装飾との対比によってユニークな雰囲気を演出していた。色使いに長けたマダヴィの個性が十分に発揮されながらも、アルネ・ヤコブセンやアンジェロ・レッリのランプ、ジオ・ポンティのアームチェアなど、希少なコレクションが贅沢に使われているのには驚くばかりだ。しかも、ラウンジスタイルに仕上げたこの部屋では実際に座ったり、テーブルで飲み物のサービスを楽しんだり、といった体験まで許されていた。この「CHEZ NINA」は、ファッションブランドのヴァレンティノが店舗で披露した2018年秋冬コレクションとコラボレートしたことでも話題となっている。

そして市内のギャラリーとは別に、15年にオープンしたニルファー・デポでは、ブラジル人建築家リナ・ボ・バルディとイタリア人建築家ジャンカルロ・パランティによる家具コレクションにフォーカスした展示を開催。数年前からニナ・ヤシャールが収集してきたコレクションが初めて一堂に会した。道端の木を組み合わせただけのような簡素な“腰掛け”から、教会で祈るための椅子や議会で使われるものまで、彼らのフィールドワークと素材への取り組みにも言及しながら紹介する特別企画だった。ボ・バルディとパランティが手がけた椅子の作品は、これまで体系的に発表されたことがなく、今回が初めての壮大な回顧展として記録されるはずだ。

Editions Milano

デザイナーとのコラボレーションで家具やインテリア小物を発表しているエディションズ・ミラノ。これまで市内の小さなギャラリーを借りて新作を披露してきたが、今年はヴェントゥーラプロジェクトへ参加し、過去の名作と合わせて展示を行った。

パトリシア・ウルキオラがデザインした新作「Piani」は、低めのサイドテーブル、コンソール、ブックシェルフで構成されるコレクションだ。籐編みの天板と虹色に塗装された金属部分の構造体という組み合わせは共通で、サイズ感を変えることでテーブルやシェルフの機能をもたせている。ウルキオラはこれまでに、大理石製の水差しとトレイのコレクション「Versi」、フェデリコ・ペペとの合作によるステンドガラスが特徴的なキャビネットとパネルスクリーン「Credenza」などをエディションズ・ミラノのためにデザインしてきた。いずれも職人技がなければ実現しない特別な製造方法で仕上げられている。

大理石を彫って着彩した円形または楕円形のプレートは、フェデリコ・ペペのグラフィック表現が際立っている。サービングプレートとして実際に使用することも可能で、壁かけの装飾としても提案されていた。各10点のリミテッドだ。また違うデザイナーとも組み、大理石を使ったティーセットやキャニスター類などをつくり出している。エディションズ・ミラノは、職人技を現代デザインと融合させるメーカーでもある。

Six Gallery

シックス・ギャラリーはデザインギャラリーでありコンセプトショップ。昨年、ミラノの古い修道院を改修して誕生した。建築家であるダヴィド・ロペス・キンコセスとファニー・バウアー・グルングがキュレーションに携わり、創業者を含む6名が中心となって独自の審美眼が冴えわたるスペースを創出している。今年は同じ建物内にビストロとインドアグリーンショップもオープンし、家具やインテリア小物に限定しない世界観を深化させているように感じられた。

シックス・ギャラリーとして提案しているのは、ジオ・ポンティやイグナチオ・ガルデラ、コーア・クリントらが自ら手がけた頃のヴィンテージ家具と、1930年代頃にまで遡るアノニマスなデザインアイテムだ。竹細工製の椅子、無垢の木製テーブル、メタル製のフロアランプ、陶製の花器、ウール製の絨毯、といったコレクションは、イタリアだけでなくインドのものもあれば、アルタイの遊牧民によるものもある。時代の幅も広く、既存の様式にとらわれないセレクトは、古い建物のレンガや石を残して改装されたギャラリーと驚くほど自然に調和して見える。イタリアのデザインに遠く離れた土地の感性を持ち込むという意味では、新しいコロニアル様式と呼べるかもしれない。

今年は「シックス・プロジェクト」と題して、建築およびデザインスタジオであるキンコセスードラゴによる新作を発表した。大理石のベンチや照明など16点からなるインテリアアイテムだ。ギャラリー内に大量の小麦の穂を使ったディスプレイは、ヴィンテージコレクションとの組み合わせも新鮮に見せる効果を生み、会期中の話題を呼んだ。コレクションはすべて販売されるため、自邸のインテリアの相談に訪れる顧客も多い。シックス・ギャラリーは、いくつかあるデザインギャラリーのなかでも独自のスタイルを主張している。

Giustini/Stagetti

Photo by OmarGolli

ジュスティーニ/スタジェッティは、ロベルト・ジュスティーニとステファノ・スタジェッティによって09年にローマで設立されたデザインギャラリー。主に1930年代から70年代までのイタリアのデザインと、それを支えるメーカーの仕事に焦点をあてたコレクションを中心に扱っている。デザインマイアミやノマドモナコに参加する他に、美術館や公的機関と協力して、アーティストやデザイナーのサポートとプロモーションを行うことが多い。さらに、昨年のミラノデザインウィークではフォルマファンタズマの実験的な照明デザインを披露した「Fondation」展をサポートし、同じく昨年、ローマで開催されたコンスタンティン・グルチッチの「Magliana Project」のプロデュースを担うなど、現代デザインに関しても積極的だ。

Photo by OmarGolli

今回、ジュスティーニ/スタジェッティは、建築家でありデザイナーのウンベルト・リーバと、若手デザイナーで注目株のひとりジャコモ・ムーアのふたり展を主催した。会場となったのはミラノ市内で、フォルマファンタズマやマイケル・アナスタシアデスなどの作品をつくっている美術工房。年代も方向性も異なるふたりのデザイナーが、木という共通の材料を用いて、建築とデザインを融合させる新作に取り組んだ。

そのなかで特に目を引いたのは、ジャコモ・ムーアのデザインアプローチだった。テーブルの脚とブックシェルフの棚を支える構造体が、切り込みを入れた1本の木材に異なる種類の木を楔として打ち込むことでアーチを描いている。これは典型的なローマ式橋脚からヒントを得たものだが、鉄やコンクリートではなく、木材で仕上げる挑戦に見事に成功していた。均等な間隔で打ち込まれた楔が装飾的効果にもつながっている。木工技術を身につけ、ミラノに構えるスタジオではコミッションワークと並行して、オリジナル作品を木工で制作するムーアの真髄が表出していたと言える。

デザインギャラリーの多大な影響力

こうしたデザインギャラリーの存在は、日本ではまだ馴染みが薄いかもしれないが、現代デザイン全般を俯瞰するとすでに欠かせないポジションを占めている。一部の収集家に好まれるという理由以上に、彼らのコレクションが持つ影響力は大きい。挑戦的なデザインが多くの人の目に触れ、次の潮流を生み出す背景には、こうしたデザインギャラリーの活躍は不可欠だろう。