なぜパナソニックは京都に拠点をつくったのか。

「Panasonic Design Kyoto」訪問記(施設編)

パナソニックがこれまで大阪と滋賀に分散していたデザイン部門を統合し、京都の中心部に新たな拠点となる「Panasonic Design Kyoto(パナソニック デザイン 京都)」を設立した。その当初のお披露目は4月のミラノデザインウィークと時期が重なっていたため、先日、改めて見学会が開かれた。その際に見聞きしたものを施設編と作品編の2回に分けてお届けする。

拠点を京都に統合したのは、世界的にも有名な古都であり、優れた工芸技術にも恵まれたこの地で、「日本らしいパナソニックデザインのアイデンティティ」を再構築するという決意の表れであることがひとつ。そして、「伝統工芸は日本のものづくりの原点である」という創業者の松下幸之助の言葉の下に、同社のデザイン活動の原点に戻るという意味合いも込められている。

今どき京都の中心地に、それなりの規模を誇る施設を設けることは難しいと思われたが、幸いにも四条烏丸近くの近代的なビルの4階から9階までを借り受けることができたという。フロアごとの面積は限られるものの、それを逆手に取って、上層階ほどオープンにして情報のインプットを行い、そこから下るにつれて機密性を高めるとともに最終的なデザインのアウトプットにつなげる、ファネル(じょうご)のようなワークフローを実現している。情報から価値へと変換する作業が、縦長の建物の構造に巧く落とし込まれていた。

今回、メインのプレゼンテーションやパネルディスカッションが行われた9階は、カフェ付きのホールや、遠くに京都タワーを望むテラスからなり、照明や調度類もこだわりを持って選択されている。


また、棚にはミラノデザインアワードのトロフィーにあたる木馬が受賞した製品群と一緒に並べられているが、2017年に「ベスト・ストーリーテリング賞」を受賞して緑の木馬を持ち帰ったときには、その大胆かつ素朴なデザインに周囲が驚いたとのこと。しかし、2018年の「ベスト・テクノロジー賞」の受賞により再び赤いそれを持ち帰ったことで、やっとその正統性が理解されるようになったという笑い話も披露された。

今回の見学会は、京都の伝統に根ざしつつ、その枠にとらわれない活動を展開する地元の工芸企業6社のクリエイティブユニット「GO ON」と、パナソニック株式会社アプライアンス社デザインセンターとの共創により、新たな道具と家電の体験を生み出している「京都家電ラボ」の第2期作品群(次回、作品編で詳述)の体験会も兼ねていた。それと関連して、「GO ON」から4名の工芸家とパナソニックのデザイナーとのパネルディスカッションも和気藹々とした雰囲気のなかで行われ、開発秘話なども披露された。

それによると、初めのうちは技術と工芸の融合を直裁的に捉えすぎ、パナソニックが得意とするリニアモーターと茶筅を組み合わせて、短時間で超クリーミーな泡の立つハイテク茶筅的なものもつくってみたという。しかし、効率や結果を重視して単純にふたつのものを組み合わせることがプロジェクト本来の目的ではないことに気がつき、より体験を重視する現在の方向性が固まっていった。

しかし、いざ市販するとなれば、コストや生産性の問題を無視することはできない。その難関をクリアして2019年の春をめどに商品化が進められている「響筒(きょうづつ)」も、アプライアンス社デザインセンター所長の臼井重雄から披露された。

「京都家電ラボ」の第1期作品として開発された「響筒」は、蓋が自重で閉まる茶筒で知られる「開化堂」が製作する外装にブルートゥーススピーカーを組み込んだもので、精密な金属筒の質感や表情を楽しみつつ、掌で振動を愛でる感覚で音楽を聴くような使われ方を想定している。

業務の性質上、撮影不可のフロアも存在したが、撮影が許された場所で印象に残ったのはスタッフが打ち合わせや思索などに自由に使えるエリアだ。ソファが置かれたサロンのようなスペースもあれば、スタンディングデスクで立ったまま会議を行う部屋や、床に座る感覚で利用できるウッド&カーペットで構成されたゾーンも用意されており、好みの環境で作業が行える。



そして、建物内のサインデザインも凝っており、場所ごとの機能を示すイラストのシルエットが、スリットを通して浮かび上がるようなつくりになっていた。

総じて、既存の建物を利用するという制約のなかで巧みに作業域を分け、その間を上下の僅かな移動で往き来できる構造は、デザイン開発過程を最適化するに相応しく、新たなデザインの創出を予感させるものだった。

次回の作品編では、「京都家電ラボ」の第2期作品群とその展示風景を紹介する。End

ーー「京都家電ラボ」の取り組みについては、デザイン誌「AXIS」vol.193の特集「工芸未来。」でレポートしています。

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