「刈水庵」に次いで「karimizu dejima」がオープン
城谷耕生さんが選りすぐりの品を並べるショップの魅力

▲デザイナー城谷耕生さんの奥さまの陶芸家オクウンヒさんの作品。

長崎県雲仙市を拠点に活躍するデザイナーの城谷耕生さんが運営する地元、小浜地区の「刈水庵」については、2013年5月のWebマガジン「AXIS」の記事、そしてデザイン誌「AXIS」2015年vol.173の内田みえさんの取材に詳しいが、2017年8月には、長崎・出島に2店舗目となるkarimizu dejimaがオープン。そこで今回、刈水庵を“はしご”してきた。

まずはkarimizu dejima 。「List:」の入っているビル、と言ってわかる人もいるのではないだろうか。長崎のクラフトイベント「ナガサキリンネ」の中心人物である松井知子さんのお店「List:」は、外観を見ただけで思わず立ち止まる、風情溢れるビルの3階にあるが、松井さんから「1階が空いて、大家さんが貸す気になったようだから」と、誘いを受けて、城谷さんがオープンしたのが、karimizu dejimaだ。

▲karimizu dejimaから出てくる城谷さん。

普段、出島のお店はスタッフに任せており、城谷さんは小浜にいるのだが、今回は特別に館内をご本人の解説をそのまま掲載。行かれた方も、この解説を読んだら、もう一度、確認に行きたくなること必須。細部まで見逃せない、デザインミュージアムさながらの秀逸なラインナップだ。

城谷 私も企画に参加した2014年にソウルの東大門デザインプラザ(ザハ・ハディド設計)オープニング企画のエンツォ・マーリ展のポスター。韓国の大御所デザイナー、リ・サンチョル氏がデザインしたもので1963年にマーリがデザインした名作Uno, La mela(リンゴ)を使っています。

城谷 天井の照明はドイツ、インゴ・マウラー社の和紙を使ったペンダントライトZettel’z 。それぞれの紙に世界各国の言葉で愛についてのメッセージが書かれています。右の壁のカレンダーはイタリア、ダネーゼ社のエンツォ・マーリのデザインによるFormosa。1963年のデザインですが、いつみても飽きることのない普遍的なグラフィックです。奥の棚はドイツブルクハルト・ライトナー社の展示用システム棚Clic。軽く、美しく、組立方によりさまざまな形に変化する棚で照明や棚板なども多くのバリエーションがあります。日本ではほとんど見かけませんが、海外の展示会で見て気に入り是非使いたいと思っていました。

城谷 これはイタリア、フロス社のアントニオ・チッテリオのデザインによる照明Riga。廃盤になってしまいましたが、シンプルながら空間に強い印象を与える照明です。

使い勝手が悪いはずの変形した部屋だが、城谷さんによる変形や天井高をいかした空間づくりはさすがだ。販売されている品物のメインは城谷さんがデザインしたプロダクツ、奥様のオクウンヒさんの磁器だが、城谷さんの眼で選ばれた世界の名品プロダクツとのバランスが心地よい。ビルの歴史も一緒に味わえる、良質なデザインショップだ。

▲趣のある日新ビルは、出島のすぐ隣に位置している。

karimizu dejimaを堪能したわれわれは、城谷さんの車で小浜へ向かった。道すがら城谷さんの口から、しばしば「カスティリオーニさん」や「マーリさん」という名前が出てくる。私にとって本の中の存在だったカスティリオーニやエンツォ・マーリが生身の人間に感じられるこの一瞬がとても嬉しい。

城谷さんの血肉となっている巨匠たちの生の言葉。そのひとつに「デザインは人の生活に役立つものでなくてはいけない」という考えがある。ともすれば、見た目や、話題性が先行しがちなデザイン。だが、城谷さんは10年働いたイタリアで大理石やガラスなどの伝統産業に関わる仕事に携わり、「その職人たちが、この仕事でどのくらいの収入を得て、どんなくらしができるかも理解しながらデザインしなければ、伝統産業や手仕事に、“デザインが貢献”することが難しい」と考えるようになったそうだ。

イタリアに10年暮らしても、やはり外国の社会全体は完全には把握できない。だが、日本なら解るし、日本独自の技術、伝統産業、手仕事がある。「歳が近い、自国の職人と仕事・暮らし・地域について一緒に考えながら仕事をしたい」と考え、2002年に帰国。東京ではなく、生まれ故郷に事務所を構えたのは「地方の技術を活かす仕事になるなら、東京から地方に飛ぶ生活より、最初から地方に住んでいいんじゃないかと思ったのと、生まれ故郷のほうがお金がかからず生活できると思ったから(笑)」ということだが、その「地方」を生かしたデザインワークショップを具現化したのが雲仙の「刈水庵」だ(前述の2015年vol.173にこの経緯は詳しい)。

▲細い道に「刈水庵」への道標、発見。

車を降りた途端に温泉の湯気に囲まれる雲仙・小浜の温泉街。そこから山のほうへ向かうと、だんだん、道が細くなっていく。途中から、車は通れなくなる。道標を頼りに、急坂を進むと、大工の元お屋敷を改装したという刈水庵に到着。城谷さんが「どの地方にでもあるだろう懐かしい日本の風景」という場所に建つ日本家屋にも、城谷さんのデザインしたものと、城谷さんの目で選ばれた海外の秀作が並ぶ。秀作と言っても決して高いもの、歴史的に価値のあるものだけでなく、韓国のスポンジやベトナムのおもちゃなどの雑貨も、同じ土俵に乗せているバランス感覚が素晴らしい。

選ばれた品物だけでなく、坂の町に建った建物の2階からの眺めもまた格別だ。細く、急な坂を登ったご褒美のように広がる景色はいつまでも眺めていたくなる。

▲諫早湾を高台から望むこの風景を見るだけでも、坂を上って来る価値がある。

古いが、手入れの行き届いた空間に、城谷さんのアンテナの広さが十分に生かされた家具や生活道具が並ぶ心地の良い場所。訪れてワクワクする店が少なく感じる、どこかで見たものばかりが店に並ぶ昨今。古今東西の品が城谷さんの感覚によって生き生きと並ぶこの店、そして、小浜の町は、ひとりでも多くの人にお勧めしたい。

▲1階は畳に洋のプロダクツのバランスが落ち着く。要所要所に、奥様のふるさとの韓国の生活道具などが置いてあり、これが、デザインと実用を兼ね備えたいいものばかり。

こちらの店も、城谷さんの解説でお楽しみいただきたい。

城谷 手前の赤い照明はイタリア、フロス社のアッキーレ・カスティリオーニによるデザインのペンダントライトRelemme。1962年デザインで当時ヨーロッパで広く普及していたドイツ製照明をカスティリオーニ流に改良デザインした名作。残念ながら数十年前に廃盤になってしまっています。置いてある椅子はコンパクトながら座り心地が良く(意外とないんです)、この空間に合うなと思い、地元小浜温泉の旅館が閉館する際に頼んで譲ってもらったソファ。

城谷 手前のペンダントライトは陶芸家、中里 隆氏による波佐見の光を透かす磁器素材を使ったもの。中里氏からは店のBGM用にと氏が造詣が深いバロック音楽集も頂いた。
※日野注:要所要所に置かれる李朝家具のバランスも抜群。

城谷 左側の2つ並ぶ椅子は昔の天童木工のソファ。デザイナー不明。これもコンパクトさと座り心地が気に入って購入。奥、右のグレーの座面の椅子は天童木工のブルーノ・マットソンのデザインによるイージーチェア。高さが低めで天井の低い日本家屋に置いても圧迫感がない。

城谷さんはここを拠点に、地域の活性化も考えている。だが、ややこしいことを考えず、単純に、ここの居心地の良さは、すばらしい。「また、行きたい」そう思わせたら、店主の勝ちだ。もしかしたら、そこから「住みたい」に発展することもあるだろう。

そう思わせる、城谷さんのセンスと熱意に脱帽する。

刈水庵

住所
〒 854-0514 長崎県雲仙市小浜町北本町1011
TEL
0957-74-2010

karimizu dejima

住所
〒850-0862 長崎県長崎市出島町10-15 日新ビル102号室
TEL
095-801-1115

以前の記事を振り返りひとこと》

「ひねる・まわす」が「押す」行為に移行しているという話を書いたが、いまは「スワイプ」だった。「スワイプ」について書き損ねた時点で、頭が古くなっている、と反省している。