新大阪駅徒歩1分、屋外看板をデザインに取り入れた
平田晃久氏によるカプセルホテル9h nine hours

新大阪駅東出口徒歩1分の位置に、カプセルホテル9h nine hours(以下:ナインアワーズ)の大阪府内初の店舗が建築家平田晃久氏の設計によって誕生し、10月22日にオープンした。2009年に1店舗目を京都でスタートしたナインアワーズも新大阪駅店で10店舗目。睡眠7時間、その前後1時間のシャワーや身支度という一連の「トランジットサービス」を24時間提供することがその名前の由来となっている。

10店舗目だからこその広がりとおまけ

今や全国でナインアワーズが増加。平田氏が設計したものも東京では竹橋が2018年3月に、赤坂が2018年5月に、そして浅草が2018年9月に開業している。株式会社ナインアワーズ社代表取締役ファウンダーの油井啓祐氏曰く、今後も東京、名古屋、大阪、福岡といったエリアで2020年までに、さらに数店舗の展開を見込んでいる。「どのナインアワーズを使っていただいても同じ価値を体験していただけるように」と油井氏が説明する通り、新たなインフラの提案としてナインアワーズをとらえることができるだろう。

▲新大阪駅東出口からすぐ見えるナインアワーズのエントランス。Photos by Ai Takahashi

対して平田氏の「その場所ごとに全く違う特性を持った街が外側に広がっており、結果、全く異なるナインアワーズが生まれていくということに、ひじょうに興味深さを覚えます」という発言は、単に機能の面からだけでは語りつくせない魅力がそれぞれの店舗に備わっていることを設計者の視点から指摘している。

▲フロント。隣接敷地の緑がガラス面を通して目に入ってくる。

▲建物の駅側と逆の南側にカプセルが集められている。各フロア同一。

なお、宿泊のためのカプセルそのものは一軒目と同じくクリエイティブディレクターでありプロダクトデザイナーである柴田文江氏によるもの。2009年にナインアワーズ京都をオープンしてからすでに10年近く経つため、使用する設備などの更新は継続的に行っているようだが、睡眠とシャワーの2つに特化しているという点は当初から変わらない。

「カプセルはひじょうに面白い現代的なものだと思います。他の建物が建たないような狭い隙間であろうと、カプセルは人の体ぐらいのスケールですから、いくらでも増殖していくことができる。そういうたくましいカプセルと街とがどう出会うかを建築でデザインしています」(平田氏)。

▲8階のテラス。屋外看板と新幹線が見渡せる。

並行して、店舗数が増えていくにつれて「おまけ」が付随するようになった、という油井氏の発言も興味深い。新大阪駅店は「外に開かれている」ということが大きな付加価値であり、宿泊客がそれを享受するためのテラスやラウンジが各階につくられている。

男女によってフロアが違い、4、5、7、8階は女性、2、3、6階が男性。同じ性別の階同士が外階段でつながり、テラスを移動できる。他のナインアワーズでは水回りを1つの階に集中し、カプセル階を別の階に配置するという例もあるが、新大阪駅店では各階にシャワーや洗面が付いている。植物は平田氏と他店でも協業する温室の塚田有一氏。都市的だが緑もあってくつろげる環境が生まれている。

▲7階、テラスにつながるラウンジ。テーブルにはコンセントも備えられている。

▲7階、カプセル側からラウンジとテラスを見る。

▲7階、ラウンジからカプセル側に洗面所が置かれている。

▲シャワーは各階個室タイプのものとなっている。

メインストラクチャーにからまる「看板」

油井氏が「健康的」と表現するナインアワーズ新大阪駅店はガラス面の多い開放的なつくり。平田氏がテーマとする「からまりしろ」を象徴するかのように、水平垂直からなるラーメン構造によるメインストラクチャーに、パイプ構造によるサブストラクチャーによって複数の屋外看板が「からまる」ような特徴的な構造になっている。

▲メインストラクチャーにからまるサブストラクチャーのパイプ。

模型写真の段階から目を引く屋外看板を多く設置したデザインは、敷地の隣に位置するビルの屋上看板が印象的であるという地域特性を平田氏が読み解いたことから生まれている。建築デザインにおいては極力退けられる屋外看板という要素を積極的にデザインに取り入れ、路上、在来線、新幹線、どこからでも8台の屋外看板のどれかは見ることができるという配置だ。

▲隣接するビルの屋上看板のフレームが一望できる。

なお、このパイプの利用には、施工を担当したダイワハウスのキャリアが大きく関わっている。1955年に発表した、日本のプレハブ建築技術の先駆けと言われる「パイプハウス」がそれだ。22から27mm径のスチールパイプの柱とトラスによって組み立てられ、倉庫や仮設住宅に使用、のちの鋼管構造建築の礎となっている。ダイワハウスとの対話のなかで平田氏がこうした「強み」を知ったことから、サブストラクチャーにパイプが使われるに至ったそう。

「看板があることによって外側の視線から守られていて、茂みの中みたいな空間になっています。この茂みを通して外側の新幹線やJR、飛行機などが見れるようなテラスがある。アフリカでサファリを見ているように、ガラスを通して人間がいる世界を見ているような体験を提供できるのではないかと思っています」(平田氏)。

▲新幹線と在来線の交差を間近に見ることができる。

▲在来線ホームからもしっかりとナインアワーズの屋外看板が見える。

新大阪駅は新幹線と在来線との交差点であり、また1分に1回の頻度で上空を飛行機が通過するという、他の場所では体験できないような環境。平田氏が「サファリ」になぞらえるような、いわゆる都市のダイナミズムが楽しめる場所でもある。

▲6階、男性専用フロアを駅側から。

また、土地柄から新幹線の前泊、新大阪駅からオフィスまでの間の仮眠やシャワーといった使い方が可能。「24時間好きな時間を切り取って使っていただけるように」という油井氏の発言が象徴的な、都市的な体験を提供するインフラプロジェクトとしてとらえるべきだろう。End

▲8階、テラスとの間の扉。

▲8階と6階と4階では看板の背面へのプロジェクションが行われている。

▲新幹線側からも屋外看板を見ることができる。