秋田・大館に新たにできた「わっぱビルヂング」
柴田慶信商店が中心となり曲げ物の文化を発信
フィンランドの「ヴァッカ」の展示・販売も。

▲柴田慶信商店の白木の曲げわっぱが並ぶ。

2018年11月28日に、秋田県・能代市の友人に会うために秋田に行ってきた。空港まで迎えに来てくれた友人を誘って、大館の曲げわっぱの柴田慶信商店さんが建てたという「わっぱビルヂング」 に立ち寄ることにした。

降り立ったのは大館能代空港。空港を出ると、秋田犬が2匹、お出迎えしてくれた。秋田犬である忠犬ハチ公が大館から渋谷に向かったことに因んで、8のつく日の午前着便は空港でお出迎えをしてくれるそうだ。犬好きはこの日を狙うと旅の楽しみが増える。(犬と戯れていて、またしても写真を撮り損ねました……残念!)

さて、秋田犬とのスキンシップののち、大館駅に向かう。地方の映画館事情に詳しい方ならご存知の映画館「御成座」を少し、行ったところに「わっぱビルヂング」が見える。

▲元は大手生命保険が入っていたというビル。

わっぱビルヂングは2018年8月に誕生した小洒落たつくりのリノベーションビル。ビル内には柴田慶信商店の品物と曲げわっぱの体験ができるワークショップスペース、そして、現会長で創業者の柴田慶信さんが世界各国から集めてきたわっぱの仲間が並んでいる。現社長の柴田昌正さんに、このビルの入手のきっかけを尋ねた。

「元々、保険会社が入っていたビルなんですけれど、そこが撤退してしまった。こんな駅前(大館駅から徒歩5分ほど)に空きビルができてしまい、町中が寂しくなってしまうことに耐えられなくて、ちょっと頑張ってみました」と昌正さんは話す。それと共にあったのは父親・慶信さんへの想い。慶信さんは営林署に勤めたのち、手に職の仕事がしたいと退職。ほぼ独学で曲げわっぱの技術を修得。高度経済成長で、汚れがつかないように木にクリア塗装が奨励された時代に白木は業界でも常識外だったが、「お米の水分を吸収してくれる塗装無しの白木の良さ」を、百貨店の物産展でお客様ひとりひとりに説き続けた父への畏敬の念もある。

慶信さんが「曲げ物の本質を教える師匠」として世界中で買い集めた曲げ物は、元々「世界の曲げ物・小さな展示館」として、工房の片隅で展示されていた。それをもっと多くの人にお披露目したいという想いが、この場所を入手するきっかけともなったそうだ。

▲前は「世界の曲げ物・小さな展示館」という名前だったが、わっぱビルヂングに移ってきて「世界の曲げ物ミュージアム」に昇格した。

▲ミース・ファン・デル・ローエのバルセロナチェアが場を引き締めている。

ビル入手と改装費は大きな負担だったが、このビルが担う街の活性化、伝統工芸を広める意味合いを汲んでくれた市役所員、商工会議所の職員が補助金とテナントを紹介してくれた。1階にあるカフェは、地元での起業を考えていた大館出身の姉妹が入った。

▲「S.witch café」(スイッチ カフェ)
わっぱに入ったティラミス。(残念ながら持ち帰りは不可)

2階には、大館に来たビジネスマンが自由に使えるようなコワーキングスペース「マルーワ」が入っている。

聞けばこちらのビル、リノベーション大賞にもノミネートされ、最終選考に残っているとのこと。社長のこだわりを設計会社が具現化した内装は、細部に遊び心と技術が隠れていて、興味深い。

▲曲げ輪の技術をふんだんに使ったトイレは必見。カフェからも入れる。

▲待ち合わせしていなかったのに、レジェンド・慶信さんがたまたまビルに現れた。「このビルが建ったのは、息子と嫁さんのおかげ」と、感謝していた。

さて、わっぱビルヂングでは、クリスマスまでの期間、フィンランドの曲げ物「ヴァッカ」の特別展示・販売をしている。国が違っても、年が違っても、言葉が分からなくても、「心で通じ合える」と、仲良くなる人懐っこい慶信さん。2014年に銀座の百貨店で行われた、ヴァッカというフィンランドの曲げ輪の当時では唯一の職人だったオーケさんとの実演をきっかけに交流が始まり、今回の企画展につながったという。

▲ヴァッカを一堂に見られるチャンス。一部は販売もしている。(以上3枚の写真は柴田慶信商店より)

▲ヴァッカの作者であるボー・オーケ・リュンガルス(Bo-Åke Ljungars)さんの焼印が入っている。

貴重なヴァッカを手に取るだけでなく、一部、入手もできるというこの機会。見逃せない。

ヴァッカで迎えるクリスマス

■ヴァッカとは
「ヴァッカ」とはフィンランドにおけるシェーカーボックスの名称。シェーカーボックスは元々イタリアで発生したキリスト教の一派「シェーカー教」の信者がつくる工芸品として文化が営まれ、現在も世界各国で製作が続けられている。「美は有用性に宿る」というシェーカー教の教理は、シェーカーボックスに体現されていると言っても過言ではない。

フィンランドでは、中世の終わり頃にウーシカウプンキ付近でヴァッカがつくられ始めた。かつてヴァッカには食品、裁縫道具、装身具が保管された。キルッコヴァッカと呼ばれる大型のヴァッカには一家の女性たちが教会で着る衣類を保管して運び、教会のある丘に着いてからそれらを身に付けていた。

ヴァッカに使っている素材は以下。
蓋と本体の側板:ゴート・ウィロー(ヤナギ科)
蓋と底板:カーリーバーチ(カバノキ科)
綴じ部分:樺の木の根

■ボー・オーケ・リュンガルス Bo-Åke Ljungars
フィンランド、マラーハティ出身。1994年よりハンドメイドによる木製のシェーカーボックスやバターボックスの製作を開始する。これまでにフィンランド国内での展覧会やワークショップ歴多数。2014年には、国内工芸団体「タイト」の一員として、オストロボスニア地 方ハンディクラフト起業家賞を受賞。同年、柴田慶信ととも に銀座三越の企画「秋田・大館曲げわっぱ 柴田慶信商店 JAPAN SENSES ~日本のわっぱ、北欧のヴァッカ~」に出展し、会場で製作の実演をした。

会期
2018年12月1日(土)〜12月24日(月・祝)火曜定休
*臨時休業あり 開店時間 10:30〜17:00
会場
柴田慶信商店わっぱビルヂング店(秋田県大館市御成町一丁目12-27)
TEL:0186-59-7123
詳細
「わっぱビルヂング」Facebookページより

前回のおまけ》

▲大分県・竹田市の駅前の住所「会々」(あいあい)。「またいらっしゃい」、と言われているようで、嬉しい住所だ。