【対談】デザイナーはエンジニアであり、エンジニアもまたデザイナーである。
Takram田川欣哉×ジェームズ・ダイソン

©高橋マナミ/Manami Takahashi

デザイン・イノベーションファームTakramの田川欣哉がナビゲーターとなり、ビジネス、テクノロジー、クリエイティブの3領域をつなぐトップランナーを迎える連載「BTCトークジャム」。今回のゲストは、ダイソン創業者/チーフエンジニアのジェームズ・ダイソンさんです。




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ダイソンのイノベーションプロセス

田川 近年のダイソンはアジア市場へと急速に接近しつつ、同時にクリエイティブなマインドを社内外で維持していますよね。デザインエンジニアやエンジニアが急速に増えるなかでも、イノベーティブな組織文化を継続させるために、どのような考え方を持っているのですか?

ダイソン 特に秘訣はありませんが、天井から飛行機を吊るすような姿勢でしょうか(笑)。私たちの会社にはキャンパスがあります。若々しい発想で、面白いことが常に起こっている場所です。常に変化し、向上し、既存のものへの不満を持つ。そういった態度の重要性をみんなが信じる場所です。キャンパスには若くて探究心にあふれる学生もいます。そのうちのふたりはまだ17歳で、彼らには失敗を恐れる気持ちがありません。エンジニアたちは試作品をつくり、テストすることを楽しんでいます。新しいテクノロジーへの愛にあふれる一方で、ハリアーのジェットエンジンのような過去の逸品に対する愛もある。私たちはそのような環境で生活し、呼吸しているのです。

田川 私がRCAのインダストリアル・デザイン・エンジニアリング(IDE)コースに在籍していた頃、あなたは定期的に学生と話して、若い世代を鼓舞していました。「オーケー、イノベーティブなことをしよう!」と言って。IDEの学生を対象にしたダイソンの奨学金制度があったほか、ダイソンの社員が学生をキャンパスに連れて行ってもくれました。実際、スタジオ内をふらっと歩いているあなたにも会いました。キャンパス内の1階に今おっしゃったような巨大な試作の環境と、世界中の住宅を再現したテスト設備があったのを覚えています。2階には明るくて広いフロアがあり、デザインエンジニアやエンジニアたちがCADの画面を広げながら実物大の模型をつくっていました。

ダイソン そう、重要なのはひとりひとりの距離がとても近いことです。ダイソンには個人のデスクというものがありません。あちこちに大小のカフェがあるので、若い社員はデスクで仕事はしないんです。

田川 そうした環境から生まれた「ダイソン サイクロン V10 コードレスクリーナー」(以下、V10)をこうして間近に見ると、力強い製品コンセプトだと感じます。




▲コードレススティッククリーナーの最上位機「ダイソン サイクロン V10」。ダイソン氏は発表会場で、コード付き掃除機の今後の開発予定がないことを告げた。2019年3月には「ダイソン V11 コードレスクリーナー」が発売されている。

▲「ダイソン デジタルモーター V10」。毎分最大12万5,000回転を実現した525W出力の小型デジタルモーターは、外部環境の情報を取得するセンサーも内蔵している。

ダイソン 私たちの掃除機の開発史に照らすと、このV10は最初の製品に比べると5倍パワフルでありながら、しかも軽い。私たちはこの地点を目指していました。
 ひじょうに強力で軽量なモーターをつくることができれば、大きくて重いモーターは必要ありません。さらに、電源コードや大きなホースからも自由になれるのです。

田川 ダイソンでは、イノベーティブなプロダクトをどのように定義していますか?

ダイソン まさに、あなたの目の前にある掃除機そのものですよ(笑)。例えば、今では皆さんが真似をしていますが、バッテリー、サイクロンシステム、モーター、フィルターなどの重い部分を手元に持ってくるというデザインは、私たちが初めてしたことです。この構造は人の直感に反していますよね。かつては重い部分が床にあり、それを引っ張ったり、押し出したりしなければいけなかった。でも向きを変えてみたら、とても軽く操作できることに気づいたのです。
 その気づきが掃除機のフォーマットを大きく変えました。私たちがつくりはじめた頃、それがどういうものなのか理解してもらえませんでしたから、きちんと説明しなければならなかったし、コード式掃除機と変わらないパワーがあることを実証する必要もありました。でも、そうしたことを通じて私たちのメッセージが伝わったんでしょう。昨年はコードレスクリーナーを1,800万台製造しましたから。しかも、今では他社のコピー品が68種類もある。

田川 なるほど(笑)。

ダイソン そうやってより快適なものへと形を変えてきました。これは小型でパワフルなモーターのおかげでできたことです。でも、他社の製品にはこのモーターがありません。形は真似できても、その中身は真似できません。同じもののふりをしているのです。

田川 これは真のイノベーションプロセスから生まれたプロダクトだと思います。構成要素から材料まで、さらにユーザーの行動や体験のようなものも含めて見ているのですね。

ダイソン その通りです。

▲ジェームズ・ダイソン/1947年英国ノース・ノーフォーク生まれ。セントラル・セント・マーチンズで
ファインアートを、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で家具とインテリアのデザインを学び、その後は工学に転向。74年に独自のガーデニング用手押し車「ボールバロー」をデザインし、80年代に紙パック不要のサイクロン掃除機を発明。93年ダイソン設立。2007年にナイトの称号を授与。©高橋マナミ/Manami Takahashi

他とは異なるアイデアを信じる

田川 デザインエンジニアやエンジニアたちは、どのようにチーム・ダイソンに集結し、こうした真のイノベーションプロセスを生み出すことができるのかということが知りたいです。

ダイソン これといった謎はないですよ。日々、自分自身が何をするかだと思います。私と息子(ジェイク・ダイソン)は会社に毎日出向いてエンジニアたちに会い、新しいテクノロジーや新製品について話し合って、あらゆるディテールの開発に取り組んでいます。ひとつ言えるとしたら、製品やテクノロジーに対しての情熱、あるいは意思決定することに対して熱意を持ち続けることでしょうか。

田川 素晴らしいことだと思います。

ダイソン 付け加えるなら、若いエンジニアたち、大半は修士レベルの彼らが失敗したり、新しいアイデアを試みたりすることを許容し、彼らのやることを信じることだと思います。ダイソンの推進力は、エンジニアたちのアイデアなのです。時には私自身もアイデアを思いつくことがあります。
 そうしたアイデアを信じることが大事です。それがまったく的外れなものであったとしても、私たちは他とは違う存在でありたい。それは顧客にとっては奇妙で違和感のあるものかもしれません。しかし、私たちはそうしたアイデアの重要性を信じているのです。

▲英国ダイソン社内のカフェの光景。「本社キャンパス正面玄関の近くにはハリアーの『ジャンプジェット』があります。これは駆動するジェットエンジンで世界最古のものです」(ダイソン氏)。

田川 一般的な大企業のものづくりでは「マーケティングとユーザーエクスペリエンスの部分をよく見てから、テクノロジーやソフトウェア、ハードウェアの開発に取り組む」といった手順がとられることがよくありますよね。ダイソンでは、そうしたビジネス側の人間とエンジニアたちはどのように協力し合っているのですか?

ダイソン 私たちの場合、エンジニアであるかどうかにかかわらず、みんな自分のやりたい仕事があるから集まってくるのです。だから、仕事にも愛情が持てます。ダイソンでビジネス面を回している多くの社員は、大学院生のときに私とともに事業を始めたエンジニアたちです。会社経営の一端を担っているからといって、彼らがエンジニアでなくなるわけではありません。計算や図面に関わる仕事はしないかもしれませんが、それでも彼らはエンジニアなのです。つまり「経営に取り組むエンジニア」ですね。社員全員がエンジニアというわけではありませんが、みんながエンジニアのような考え方ができるようにしています。

田川 デジタルからハードウェアまで、さまざまなスタートアップのCEOやソーシャルイノベーター、デザイナーなどにインタビューするのがこの連載です。彼らのようなイノベーティブな人々を見ていると、それぞれ3つの異なるスキルや側面、経験を持っているのがわかります。つまり、ビジネス、テクノロジー、クリエイティビティです。それらがバラバラではなくひとつのセットになっている。私はこのタイプの人物をBTCパーソンと呼んでいます。
 あなた自身も、ひじょうに強いビジネス経験とテクノロジーのバックグラウンド、そしてデザインのバックグラウンドを同時に持ち合わせていますよね。こうした異なるタイプのスキルや思考、姿勢といったものを、これまでどのように育んでこられたのですか?

ダイソン ビジネスにもいろいろありますが、私たちが従事しているのはプロダクト事業です。テクノロジーを生み出して開発し、それらを組み合わせてプロダクトをつくります。私たちのエンジニアはそのことをよく理解しています。クレバーなマーケティング活動にはあまり興味がありません。私たちはテクノロジーを開発して、そこからプロダクトを生み出す。それをありのまま伝えているだけです。「この素晴らしいモデルの背景についてしっかりお伝えします」といったコミュニケーションのために、ビジネスやマーケティングの専門家になる必要はないのです。 

田川 それはそうですね。

ダイソン おそらく私たちがごく普通のプロダクトをつくっていたら、クレバーなビジネス計画やマーケティングが必要になるのでしょう。でも、ダイソンがやろうとしていることはひじょうにわかりやすい。成功させるために百戦錬磨のビジネスマンは必要ないのだと思っています。

▲次世代エンジニアを育成するべく2017年9月に設立された大学機関「ダイソン・インスティテュート・オブ・エンジニアリング・アンド・テクノロジー」(英国ウィルトシャー州)。

ダイソンが定義するデザイン価値とは

田川 さらに製品と歴史について質問です。時としてテクノロジー企業はデザイン面を軽んじるところがあります。それに対して、ダイソン製品のコアバリューのひとつはもちろんそのデザインにあると思うのですが、そうですよね?

ダイソン ええ。

田川 あなた自身はRCA出身で、もちろんデザイナーです。ダイソンのデザインは生粋のテクノロジーとデザインの相互的なハイブリッドであると思うのです。ダイソン製品のデザイン価値については、どのように定義していますか?

ダイソン いい質問ですね。私がロンドンのRCAに在学していた60年代には、みんなコンサルタントデザイナーになるためデザインを学んでいました。既存の製品を手にして「これをかっこよくするにはどうしたらいいか」と言っていたのです。でも、それはダメなアイデアだと思っていました。デザインは見せかけの殻として使われるべきではない、つまりマーケティングツールとして使われるべきではないと思ったのです。
 私は、デザインは工学と一体化すべきだと考えました。デザイナーはエンジニアであり、エンジニアもまたデザイナーであるべきだと。

田川 ええ、デザインエンジニアリングですね。

ダイソン そう。それが最も効果的なのだと思います。私たちはプロダクトをスタイルに合わせません。プロダクトがどのような形になるかはゼロから考えはじめることであり、そこに一貫しているのはテクノロジーです。私たちが讃えたいのは工学部分であって、それを囲む容れものでも、殻でもありません。
 私たちはこれまでも現在も、プロダクトの性能を表現し、そのテクノロジーを示すデザインを目指しています。製品を見て、それが何か。それで何ができるか。それが私たちと共生すると、どう作用するのかを感じてもらいたいのです。私たちが目指しているデザインの価値とはそういうことです。End


▲田川欣哉(たがわ・きんや)/1976年生まれ。Takram代表。東京大学機械情報工学科卒業。ハードウェア、ソフトウェアからインタラクティブアートまで、幅広い分野に精通するデザインエンジニア。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員教授・名誉フェロー。©高橋マナミ/Manami Takahashi

ーージェームズと最初に会ったのは15年ほど前。以来、デザインエンジニアのロールモデルであるジェームズは、会うたびに新しいチャレンジのことを嬉しそうに語ってくれる。プロダクトに正面から向き合い「良いものをつくる」ことに徹する、イノベーションが生まれるお手本のような企業のダイソン。創業者であるジェームズの遺伝子はその隅々にまで浸透している。(田川)




本記事はデザイン誌「AXIS」194号「クリエイティブ・ワークスタイル」(2018年8月号)からの転載です。

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