受賞者が語る東京ビジネスデザインアワードの本質
「事業を生み出すためのデザインが求められている」

2016年度の東京ビジネスデザインアワード(TBDA)で優秀賞を受賞したメモバンド「wemo(ウェモ)」。発売から2年足らずで累計30万本を突破し、TBDA発のビジネスとして大きな成果を上げている。この事業を提案し、メーカーであるコスモテックをブランディングやデザインの面からサポートするのは、ビジネスデザインファームの「kenma(ケンマ)Inc.」。彼らは、2018年度TBDAに技光堂と提案した「METALFACE(メタルフェイス)」で最優秀賞を受賞した。なぜTBDAにおいて、kenmaは強いのか。代表の今井裕平さんに、このアワードの本質や参加の心構えなどを聞いた。

今井裕平(いまい・ゆうへい)/kenma代表・ビジネスデザイナー。1981年大阪府堺市生まれ。神戸大学大学院自然科学研究科修了。安井建築設計事務所、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)を経て、電通コンサルティングにて企業の成長戦略にフォーカスしたコンサルタント業務に従事。在籍中にkenmaを設立し、2016年11月より代表取締役に就任。kenma では主に戦略パートを担当 www.kenma.co

TBDA発のヒット商品が続々と

――2016年度TBDAで優秀賞を受賞した、身につけるメモ「wemo」が大ヒットしています。この成功をどのように分析していますか。

3つくらいの戦略があって、ひとつはPRです。潤沢な広告費がないなかでも、いかにメディアに取り上げられるかを研究し、実践しています。2つ目は商品展開。一発のアイデア商品というよりは、バンドに続くケースやパッドなどの新商品をテンポよく打ち出していくことで、ブランドとしての世界観を構築しています。3つ目は売り方。バンドはB to Cだけでなく、企業のノベルティグッズとしてB to Bでも展開しています。実はこの部分の売上が大きくなっています。

▲「wemo」は現在、バンド、パッド、ケースの3種類。量販店では「wemoフェア」が展開され、メディアでも取り上げられることが多いという。

――2018年度に最優秀賞を受賞した「METALFACE」は現在どういったフェーズでしょう。

今年5月に高機能素材の展示会に出展し、500社もの企業の担当者に来場いただきました。大手だけでも50社くらいは具体的に商談できる状況となり、想像以上の成果です。通常はいきなり一緒にビジネスできない相手でも、展示会に出展すると向こうから見つけてくれる。多いのは自動車と家電メーカーです。クルマは今、通信が前提となり、表示部分はどんどんデジタル化されています。金属的な表現で情報を表示したいというニーズが多いですね。

▲「METALFACE」のサンプル。特殊な印刷技術によって金属調の表面に光が透過する材料を、B to B向けに提案する。

――技光堂との役割分担は?

役割はアワード時から変わらず、技光堂は製造と営業で、僕らkenmaはマーケティングとブランディングを担当しています。ブランディングで大切なのは、素材の価値をどう表現し、分かりやすく伝えるか。METALFACEはB to B向けの商品なので、どういった業界の担当者がどういうものを望んでいるかをイメージし、ひたすらユースケース(使い方)のシーンを発信しました。
12月に高機能素材の展示が東京でもあるので、そこまでにMETALFACEを使った具体的な事例をつくれないかと考えています。

企業にとって本質的な成果を評価するアワード

――今井さんらが2013年に設立したkenmaは、企業のビジネスデザインをサポートする会社です。同社が得意とする「フラッグシップデザイン」について教えてください。

フラッグシップデザインとは、「企業の新しい看板商品をつくります」ということ。プロダクト、サービス、空間など何でもよいのですが、ひとつのフラッグシップをもって新しい事業の柱をつくる、というコンセプトです。売り上げが見込める新しい事業が立ち上がると、既存事業にもよい影響を与えます。例えば「wemoといえばコスモテック」という認知が広がれば、同社が得意なコーティング技術をほかのビジネスに使う話につながるかもしれない。またリクルーティングや、社員が自社を誇るインナーブランディングなど、フラッグシップをもつことのメリットはたくさんあります。

――そんなkenmaにとって、TBDAはどういう性質のアワードだと捉えていますか。

近年、国の政策でも「デザイン経営」が重視されています。ただ、大企業やメガベンチャーの事例が多く、中小企業の話はまだまだ少ない。また、「デザインの成果」とされるものが、“製品のかっこよさ”など、まだまだ企業の「アウトプット」の完成度になっている。僕は、デザイン経営において重要なのはアウトプットではなく「アウトカム」、つまり企業にとってより本質的な成果だと考えています。僕たちは、アウトカムの数字で成果を語れるデザインファームになるべく挑戦しているし、TBDAはまさにそれを評価してくれるアワードだと思うんです。

――当初からそういうアワードだと認識していたのでしょうか。

はい、まさに僕らのような会社のためにあるアワードだと思っていました。事業を生み出すためにデザインが求められているということ、また受賞して終わりではなくその後も事業化に関わっていくプロジェクトであること。それをよく認識した上で、参加してきました。

TBDA事務局による充実のサポート

――2度の受賞および事業化を経験してわかったことはありますか。

外からはほとんど見えない部分かもしれませんが、TBDA事務局による「土台づくり」がすばらしいです。

――「土台づくり」とは。

TBDAに参加するテーマ企業のマインドセットです(※)。デザイナーと組んで事業化していくにあたって、向かうべき方向性やモチベーション、投資していく覚悟など、参加企業としての姿勢がマッチングの時点ですっかり整っているんですよ。それは事前に事務局が参加企業との良い関係性を築いて、コミュニケーションしてくれているから。おかげで僕らデザイナーとマッチングしてからの流れがスムーズで、乗りやすいんです。

※「テーマ企業のマインドセット」
TBDA事務局は、書類の審査と面談を通じてテーマ企業を決定する。面談ではアワードの目的や定義を認識してもらい、企業としてどう考えるかを話し合う。今年度はそれ加えて、テーマ企業の内定が決まった時点で、これから出会うデザイナーに自社の概要や技術をわかりやすく紹介するためのワークショップを実施している。

――企業とデザイナーが出会う前の準備が大切ということですね。

デザイナーが提案を出す前に、各テーマ企業が自社を紹介したり技術を説明する機会があります。うちはできるだけメンバー全員で行くようにしていて、内容はもちろん、プレゼンする方の人柄や熱意も含めて参考にしています。実は「wemo」は、説明会のときには「事業化するのが難しそうだな」という印象でした。でも進めていくなかで、事務局による土台づくりがあり、企業の積極的な姿勢にも助けられて、スムーズな流れで今の成功にたどり着くことができました。

――ほかにどんなサポートがありましたか。

マッチングすると、企業とデザイナーが一緒に講習を受けるんです。そこではパートナーシップの重要性や知的財産権について学びます。特に大事なのは契約書。覚書のテンプレート(※)を渡されて、「いつまでに企業とちゃんと交わすように」と言われる。それはデザイナーにとってもいい機会となります。

僕自身も、商標、意匠、特許のさわりは勉強していたけれど、TBDAのおかげで深く理解できるようになりました。さらに事業戦略や事業計画のなかでこれらの要素を入れこみ、わからないことがあれば、今でも事務局に駆け込んでいます。心理的、物理的にとても応援してくれています。

※「覚書のテンプレート」
TBDA事務局は、企業とデザイナーがマッチングした日から最終審査会までの覚書のテンプレートを用意し、両者間でそれを交わす。そこから先の事業化の段階では、プロジェクトによって内容や立場、関与する範囲などが異なるため、審査員でもある専門家にアレンジしてもらい、イチから契約書をつくる。

TBDAは僕らにとってのビジネスチャンス

――TBDAに応募する際の、メンバーの役割分担は。

僕以外はデザイナーです。みんなで説明会を聞きに行ってから、各自アイデアを持ち寄って議論し、提案を絞っていきます。その後、デザイナーは提案に対してどんなビジュアルが必要かを考えてデザインし、僕はビジネスプランを描いて、両者の整合性をとっていく。プランを組み立てていくなかでデザインが変わることも、またその逆もあります。

――kenma流のTBDA必勝方法があれば、教えてください。

デザイナーがいきなりビジネスの視点でものづくりを考えることは難しいと思うので、デザイナーだけで応募しないこと。コンサルティングやプランナー、マーケティングをやっている人と一緒に取り組んだり、アドバイスをもらうのがよいかもしれません。

応募用紙は3枚あり、2枚は自分たちのプロフィールや実績など、1枚は事業展開・販売方法の仕組みを説明、その後に5枚の企画書をつけて、製品やサービスのデザイン、ビジネスモデル、販路販促などを提案することになっています。デザイナーのみが応募するとデザインの説明に3、4枚使いたくなると思うのですが、僕らは逆。3、4枚をビジネスの説明にあてて、デザインの説明はその残りでいいと思っているんです。

――今年は応募しますか。

したいですね! TBDAはビジネスチャンスだと思っているんです。提案書を書いたり、工数もかかるけれど、いい企業と出会えるのはありがたい。入賞して事業化の機会をもらえたら、本当にハッピーです。

――ありがとうございました。(Photos by Aki Kaibuchi)End

2019年度 東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集について

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

選ばれた提案は「テーマ賞」として、企業とデザイナーをマッチングし、その後のビジネス展開を東京都が支援します。さらに最終審査会で「テーマ賞」の受賞デザイナーから「最優秀賞」と「優秀賞」を決定、副賞として賞金を贈ります。東京から「心を豊かにする新しいビジネス」が生まれるよう、たくさんのご応募をお待ちしております。

提案募集
2019年8月20日(火)〜10月27日(日)
提出物
規定の応募用紙+デザイン・事業提案企画書5枚
応募者
日本国内に在住で、中小企業との協働に意欲のあるデザイナー、プロデューサー、プランナー等の個人またはグループ
応募者
最優秀賞(1組)賞金50万円
優秀賞(2組)各賞金10万円
主催
東京都
企画・運営
公益財団法人日本デザイン振興会

<デザイナー向け応募説明会開催>

応募を検討しているデザイナーを対象に、今年度のテーマ企業に選ばれた9社がプレゼンテーションを実施する説明会を開催します。

日時
2019年9月4日(水)17:00~19:30
会場
インターナショナル・デザイン・リエゾンセンター
東京都港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー5F デザインハブ内
詳細
https://www.tokyo-design.ne.jp/award.html