岩手の地場産業と二人の世界的デザイナーがコラボレーションできた理由
iwatemo 発起人が語る「すべては数珠つなぎ」

地場産業には、“作り手とデザイナーのコラボレーション”商品を多く目にする。成功例は様々挙げられるが、残念なことにうまくいかないことも多い。それは、作り手とデザイナーとの意識の差があることが多いようだ。

▲株式会社モノラボンが立ち上げたブランド、iwatemo のケトル

失敗例も多く見ているため、岩手県工業技術センターの所員の方から、「フィンランドのハッリ・コスキネンとヴィッレ・コッコネンという世界的なデザイナー二人と岩手の地場産業がコラボレーションをすることになった」と聞いた時、期待半分、不安半分だった。この国境を超えたコラボレーション。直に話を聞かないことには、理解が出来ない…と、一路、盛岡に向かった。

iwatemo”と名付けられたブランドを立ち上げた株式会社モノラボンを訪ねると、生き生きとした魅力的な女性が、3名待ってくれていた。社長の工藤昌代さんはホームページ制作会社、HOPSの社長でもある。製造責任者の村上詩保さんはグラフィックデザイナーとして、ものづくりのバックアップやパッケージデザインなどを担当。コピーライターや広告プラニングが専門の佐藤利智子さんは情報面でのサポートをしている。「フィンランドのデザイナー二人はわたしたちのことをiwatemo girlsと呼び、われわれはフィンランドの二人をiwatemo boysと言いあっているのよ」という一言が、両者の間柄を表していた。

▲iwatemo girls の3名。それぞれ、別の仕事を持ちながら、iwatemoのプロジェクトに力と愛情を注いでいる。

発端は、工藤社長の好奇心旺盛かつ、即、行動に移す力。様々なところにアンテナを張っている工藤社長の元に、2011年の東日本大震災の後、フィンランドに拠点を持つ方から、「フィンランドで何かできれば手を差し伸べたい」という申し出を受ける。震災の痛手がまだ残るその時は何も生まれなかったが、「せっかくの縁。岩手のものづくりをフィンランドに何かのかたちで繋げたい」と、震災の痛手も癒えたころより、機会があると、フィンランドに足を運ぶようになった。

交流は続き、工藤社長曰く「すべては数珠つなぎ。一つのつながりも欠けたらここまで来なかった」というバトンタッチの連続で、ヘルシンキデザインウィークの総監督、カリ・コルクマンさんと縁を持つ。カリさんは、岩手の工芸をフィンランドのデザイナーに紹介する場もつくるなど、“数珠つなぎの数珠”の一人。のちにiwatemoのデザイナーとなるヴィッレ・コッコネンさんは、この場で興味を持った岩手の作り手に会いに、後日、自腹で来日をしている。

個人的な動きが「何か」になり始めた段階で、2016年より公的機関の岩手県工業技術センターがプロジェクトに関わることになり、フィンランドデザインを岩手のつくり手に関わってもらうセミナーとしてカリさんを招聘。しかし登壇予定だったカリさんの予定が立たず、「スペシャルなデザイナーを紹介する」と、言われて現れたのが、ハッリ・コスキネンヴィッレ・コッコネンだったという。

セミナーの後、二人は岩手の工房を回ることになる。四国とほぼ同じ広さという岩手県は、移動だけでも時間がかかる。二人が根を上げるほどの数の工房・工場を視察。疲れた、と言いながら、日本のものづくりに興味を持つ二人のデザイナーは鉄器、磁器、木工、漆、家具などの工房を回った。

中でも愛媛県の砥部焼で職人をしていた磁器工房「陶來」の大沢和義さんのろくろの仕事には尊敬の念すら感じたらしい。英語をほとんど話さない大沢さんではあるが、そんな気持ちをもつ二人と「しっかりと会話できている」らしい。お互い同士の尊敬の念があればこそのエピソードだ。

▲二人のデザイナーと「陶來」の大沢和義さんとの製品試作検討時の風景。
photo:monolabon

視察していくうちに、「岩手のものづくりを途絶えさせず繋いでいくことに貢献したい」という気持ちが生まれた。そんな彼らの口から「“HOME” というテーマでプロジェクトを立ち上げないか?」と、提案を受けることになる。嬉しい話ではあるが、どうやって運営するか。ものを作って終わりではない。“売り続ける”にはどうするか。そのためには、行政頼みではなく、自分たちが出資して、会社組織として運営するしかない、と起業を決意する。

会社運営は、通訳の小原ナオ子さんを含めた4人のiwatemo girlsが中心となり、作り手も出資をして、株式会社モノラボンが立ち上がった。

今回、リビング・モティーフで開催される「日本の道具」展に、iwatemoブランドのうち、鉄瓶を出展してもらうことになった。制作するのは一関に工場を持つ有限会社三協金属。OEMをメインとした鉄器工場だが、強みは「小回りの効き方」。大工場にはできない細かな指示にも対応できる柔軟さ。素材も工芸用、工業用など、用途に応じて何種かを使い分けている。今まで、目立った自社製品も無く、委託された型で鉄瓶を作ることはあっても、自社で鉄瓶の型を起こしたことがなかった同社にとって、今回のプロジェクトは、とにかくワクワクドキドキの連続だったそうだ。

伝統的なかたちの製造上の制限を知っている人間だと、この角度は厳しい…など、作る前に及び腰になるような図面でも、まずはやってみる、という精神で挑戦し続けた。形ができて、ほっとしたある日、外注で頼んでいた塗装屋さんが詫びを入れてきた。塗装中に蓋を落としたら、つまみが折れてしまった…と。だが、三協金属の小岩恵子社長は、怒るどころか感謝した。「蓋のつまみが弱かったのは工芸用の柔らかい鉄を使ったからとわかったから。蓋ならば強度の強い工業用の鉄を使えば、この弱点はクリアできる。モノが動き出す前にわかってよかった!」と。出会いに感謝し、作業中のアクシデントに感謝する。そして、今回、六本木に自社の製品が並ぶことを何よりも喜んでくれている。

▲三協金属の工場。前社長が考案した鉄の鋳造の機械。マジックハンドのようなアームの先に、鉄を流し込む柄杓が付いている。重労働と危険を伴う作業が、この機械を使うことにより、負担が軽減し、格段に効率がアップした。「誰にでも使ってほしい」と、見学者にはオープンにしている。

このプロジェクトは始まったばかりで、これからが勝負。デザイナー、作り手、コーディネイターの熱い信頼関係は、全国で様々な苦い例を聞いている身には「できすぎじゃないか」と思うほどだが、これこそ、本来のあるべき姿なのだろう。デザイナーと作り手のコラボレーションの成功例として、これからも、品数を増やして「HOME」が出来上がることが楽しみだ。End

前回のおまけ》

9月26日のトークショーにご出演の安田花織さんより「こんな風に一人ご飯を用意して、せいろで温めるだけで、贅沢にいただけるでしょう」と、提案をいただいた。当日は、安田さんから、いろいろなアイデアが聞けることが楽しみ。

「日本の道具」展 ひとてま上手の愛用品

会期
2019年9月13日(金)〜10月15日(火)
会場
東京都港区六本木5-17-1 リビング・モティーフ1F
詳細
https://www.livingmotif.com/news/190904_01

トークイベント
「楽しくなる、ひとてま調理の始め方」
日野明子×ヤスダ屋(安田花織)

日時
2019年9月26日(木) 19:30〜21:00
会場
リビング・モティーフ
東京都港区六本木5-17-1 AXISビル 1F
定員
30名 事前予約制
参加費
2,000円
申し込み
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