廃棄物を素材として、普通に使うことのできる社会とは?

私たち、ナカダイが関わった廃棄物という素材がたくさん使われている空間をふたつ紹介します。ひとつは、虎ノ門ヒルズの近くに2020年3月まで長期間設営されている「新虎ビレッジ」。サスティナブルをテーマにした空間で、私たちの素材をふんだんに使っています。オランダ人デザイナー、エヴァ・デ・クラーク氏の目利きはなかなか刺激的です。何度か工場を案内しましたが、彼女が反応する素材は日本人とは違っていました。どちらが良い悪いではなく、好みの問題でしょう。結果、普段は企業の鉄スクラップを回収する「ナカダイ」とかかれた鉄箱が虎ノ門に行くことになったのです。ナカダイが廃棄物を選別するために区切っているコンクリートの壁も発注し、私たちがフォークリフトを運転して設置しました。

ここでは、サスティナブルな取り組みをしている企業が、さまざまなイベントを行う予定だそうですが、私たちは素材を提供しただけではなく、ここからビジネスを生み出そうと考えています。この空間はひじょうにわかりやすく、楽しく、一見して廃棄物とはわからないデザインで素材の可能性を表現しています。しかし、実はいくつもの素材が使用を却下されたのです。建築基準法や施工会社の安全第一の姿勢など、仕方のない理由もあります。どう加工していいかわからない、どこまでの強度かわからないなど、使用に際しての不確実さ。この企画に関わる多くの人が興味を持った素材でも、それを廃棄した企業からの承諾が取れずに使用を断念したものもありました。

私たちは、廃棄物を素材として普通に使うことのできる社会の実現を目指し、何が課題なのか、どんな環境が整えば使用できるのか、どんな情報があれば加工が可能なのかなどを整理し、誰もが使えるようなデータベースを構築したいと考えています。

銀座のATELIER MUJI GINZAで開催中の「廃業を目指すデザイン」展でも、廃棄物という素材の可能性を楽しむことができます。オランダのアムステル川に捨てられたゴミを、自作の廃プラボートに乗ったお客さんが釣りをすることで、川をきれいにするという環境活動とエンターテイメントを見事にマッチさせたマリウス・スミット氏のビジネスを紹介する展覧会です。「廃業を目指す」という言葉に、私は刺激を受けました。

私たちのメインの仕事である廃棄物処分業という仕事は、廃棄物が世の中からなくなったら“廃業”するしかありません。マリウス氏の仕事も、アムステル川からゴミがなくなったら、少なくとも、アムステル川ボートツアーは“廃業”するしかありません。もしかしたら、私たちは、自分の仕事をなくすために日々努力しているのかもしれないという不思議な感覚を持ちつつも、共感できました。現在も廃棄物処理は私たちのコア事業です。廃棄物を素材としてクリエイティブに使って廃棄物を減らすことは、自社の利益と逆行しています。しかし、それが社会課題の解決になるのであれば、取り組み続けることこそがビジネスだと言えます。

とはいえ、廃棄物に限らず、環境ビジネスとは対策のビジネスではなく、未然に防ぐビジネスです。痛ましい公害を起こし、それを解決しても、極端なことを言えばあとの祭りで。そうならないように先に先に手を打ち、結果、温暖化も水質汚染も何も起こらず、普通に生活できることが最大の価値です。だからこそ、成果がわかりづらい側面もあり、ビジネス化しづらく、取り組むことに躊躇する企業が多いのが事実です。このふたつの展覧会を通して、これまでとは違う資源循環のあり方を感じて、未然に防ぐ最も価値のあるビジネスに真剣に取り組む企業が増えていけばと思います。End