東京ビジネスデザインアワード 2018年度 優秀賞「tetote(テトテ)」
東洋工業 & 中村知美
商品化への道のりインタビュー

Photos by Kaori Nishida

2018年度の東京ビジネスデザインアワード(TBDA)で優秀賞に輝いた「tetote(テトテ)」は、94円切手で郵送できるメッセージカード付きキャンドル。キャンドルメーカーが「気軽にキャンドルを贈り合う習慣を広めたい」と、デザイナーとの二人三脚で考案したものだ。メッセージカードがキャンドルホルダーになるというアイデアが審査員の心を掴んだものの、実際の商品化にあたっては安全性や郵送面の課題を乗り越えるためにかなり改良が必要だったという。

——藤井さんは、作品「香の具」で今年のTBDA優秀賞を受賞したグラーストウキョウの代表でもあります。なぜこちらの「tetote(テトテ)」は、別会社の東洋工業として参加したのでしょうか。

藤井省吾(東洋工業株式会社 代表取締役)
東洋工業はキャンドルのメーカーで、そこから分社化したグラーストウキョウはアロマフレグランスを専門とする会社です。優秀賞をいただいた「香の具」は、アロマに焦点を当てた提案で、こちらの「tetote」は、キャンドルをメインにしたプロダクトなので東洋工業として参加しました。

▲東洋工業株式会社 代表取締役 藤井省吾さん

——今、どういった用途のキャンドルが人気なのですか

藤井 現在、当社の大きな部分を占めるのは、グラスに入ったアロマキャンドルですね。雑貨店やセレクトショップでよく販売されているもので、多くはギフトの需要です。次に多いのは冠婚葬祭やレストラン用のキャンドル。あとはティーライトやケーキに使う細いキャンドルなどです。最近は液体キャンドルも人気があります。風よけがついているのでアウトドアでも使えます。キャンプイベントのワークショップでは、参加者が好きな色の液体キャンドルを作り、屋外で生の火を楽しんでもらっています。日本ではキャンドルを日常的に使う習慣がないので、こうした機会をきっかけにキャンドルの楽しみを伝えていけたらと思います。

キャンドルを気軽に贈ることができるギフト

——そうしたなかで、TBDAに参加した理由を教えてください。

藤井 キャンドルは形やサイズによって材料の配合も技術も変わります。東洋工業にはそのノウハウの蓄積があります。ただ、自社商品として新しいキャンドルの展開があまりうまくできておらず、TBDAでデザイナーさんのアイデアをもらいながら、今までにない新しい商品をつくりたいと思ったからです。

▲ルーラデザインスタジオ グラフィックデザイナー 中村知美さん

——グラフィックデザイナーの中村さんはなぜTBDAに応募したのでしょう。

中村知美(ルーラデザインスタジオ グラフィックデザイナー)
広告制作会社や化粧品メーカーを経て2017年にフリーランスとして活動をはじめて、「新しいことにチャレンジしたい」と思っていた矢先にTBDAのことを知りました。以前からキャンドルが好きでしたし、グラーストウキョウの商品もたくさん持っていたので、テーマ企業のなかに東洋工業の名前を見つけた瞬間、「これは応募するしかない」と思ったんです。

——「tetote」は、手紙のように94円切手を貼って郵送できるキャンドルです。手紙という発想はどこから?

中村 キャンドルについて調べるうちに、ギフト需要が高いことがわかりました。でも東洋工業の方が「贈っても、あまり使ってもらえない」と話していたのが心に残っていて。その後、工場見学のときにサシェ(薄型のアロマキャンドル)を見せていただいて、薄いものもつくれることを知りました。大切な人からメッセージ付きで送られてきたら「使ってみようか」と思ってもらえるのではないかと、手紙というアイデアにたどり着いたのです。

——どのように使うのでしょうか。

岩崎綾乃(東洋工業株式会社 営業企画部)
送り手は、まずキャンドルを取り外して、箱を展開し、メッセージを書きます。再び箱に組み立て直してキャンドルを収め、付属の封筒に94円切手を貼ってポストへ投函します。郵便でtetoteを受け取った方は、箱を展開してホルダーをつくり、そこにキャンドルを立てて火を点けます。メッセージを読みながら、灯りと香りに癒される時間を過ごしていただけます。

▲東洋工業株式会社 営業企画部 岩崎綾乃さん

中村 なるべく少ないアイテムで、相手に気持ちが伝わるかたちにしたかったんです。メッセージ面がそのままキャンドルホルダーになるのは、視覚的にも面白いかなと思いました。

何度も繰り返したサンプルづくりと郵送テスト

——最終審査の提案がそのまま商品となった印象ですが、商品化に際して大きく取り組んだことはありますか。

中村 商品化にあたって、審査員からも意見のあった安全設計に力を入れました。メッセージカードの素材は防炎紙を選びました。万が一、火のついたキャンドルがカードの上に倒れても、紙は炭化するだけで燃えません。また封筒の内側は、キャンドルの油分を吸って変色しないようにオリジナルの加工を施しています。これも印刷会社と何度も試作を重ねました。

藤井 キャンドル部分も安全性を高めるため、30分ほどすると自然に火が消える加工を施しました。また、そのままの形状だと火をつけた直後に”ロウ溜まり”ができてロウが垂れやすいため、頭の部分に突起をつける(そうするとロウが一気に溶けても”ロウ溜まり”ができない)など、細かい部分を調整しながらキャンドルを改良していきました。

——ネーミングについては?

中村 提案時は「アロマキャンドルカード」でしたが、職人がひとつひとつつくるハンドメイドの商品であるということと、手から手へと想いを伝えるという意味を込めて、商品名を「tetote(テトテ)」としました。

——アロマの香りもオリジナルですね。

岩崎 提案時は仮の香りをつけていましたが、商品化に際して新たに開発しました。将来的に海外展開を目指しているので、和をモチーフにした香りを提案し、キャンドルの色との組み合わせでサクラ(ピンク)、柚子(イエロー)、グリーンティ(グリーン)の香りを展開しています。

——苦労した点はありますか。

中村 はじめは、キャンドルが壊れないようにと台紙に厚い発泡パネル(ハレパネ)を使っていたのですがコストがかかってしまう。いろいろと試すうちに、この箱の形に落ち着いたのですが……

岩崎 実際にサンプルを封筒に入れて送ってみたら、定型郵便のサイズを超えて戻ってきてしまうケースがあったんです。計算上の厚みは大丈夫なのに、封筒に入れると少し膨らんでかさが出てしまう。投函すれば送れるが、窓口だと送れないといったことが起きてしまいました。

藤井 そこから封筒の紙質やキャンドルの薄さを調整し、複数の郵便局から郵送テストを何度も繰り返して、ようやく送れるようになりました。暑さでキャンドルが溶けないかを確認するため、夏場のポスト投函も試しました。本当に数えきれないほど手紙を出しました(笑)。

アワードへの取り組みがブレークスルーに

——発売前にはバイヤー向けの展示会にも出展しました。

藤井 今までにない商品なので詳しい説明が必要だと思いました。そこで来場してくださった方に、実際に「tetote」にメッセージを書き、手づくりのポストに投函してもらったのです。預かった手紙は後日こちらで郵送しました。書いて投函するところまで経験してもらってはじめて、「手紙として気軽に贈れるアロマキャンドル」として理解していただけたのではないかと思います。

——ターゲットは想定していますか。

中村 子どもでもお小遣いを貯めて買える金額なので、子どもからお年寄りまで幅広い年代で親しんでいただきたいです。受け取る側も男女問わずどなたが使っても楽しんでいただけるようなデザインを目指しました。キャンドルの形はフラワーベース(花瓶)ならぬファイヤーベースをイメージしていますが、今後どのようにも展開できます。

藤井 さまざまな方に手に取ってもらえるようにバリエーションを増やして、クリスマスやお正月、誕生日などピンポイントで使えるものもつくっていこうかなと思っています。キャンドルを気軽に贈る習慣をもっと広げていくために、「tetote」をベースに、企業ノベルティや商業施設向けのオリジナルパッケージも展開していきたいです。

——アワードそして商品化に取り組んだ感想を教えてください。

藤井 そもそも紙をキャンドルスタンドにするなんて、キャンドルメーカーにとってタブーですよね(笑)。最初の段階では商品化に踏み切るのは難しいところもありましたが、アワードに取り組むことによって、デザイナーの提案による今までの常識にとらわれない考え方で取り組むことができ、結果的にはいくつもの難題も解決し、商品化できたのは本当によかったです。

岩崎 これまでキャンドルといえば、グラスや缶に入って厚みや重さがあるものというイメージでした。「tetote」は薄型で、受け取る側も簡単に使える。これまでにない、新しいものができたと思います。これをきっかけに「キャンドルっていいな」と思う人が増えてくれたら嬉しいです。

中村 もともとキャンドルが好きで、いつか開発に関われたらと思っていましたので、TBDAを通じて東洋工業さんと一緒にイチからつくれたことはとても嬉しかったですし、勉強になりました。これからもたくさんの方に向けてキャンドルの魅力を広げていきたいです。

——TBDAならではの取り組みとして、「ビジネスをデザインする」ということについてはいかがでしょう。

藤井 受賞後も、企業とデザイナーがコミュニケーションをとる場が設定されて、そこで意見を出し合ってすり合わせするところから商品化がスタートしていきます。また、ビジネスモデルや知財についてのワークショップがあり、そこでデザイナーさんと顔を合わせる機会がたくさんあり、信頼関係が築かれていきました。新商品をビジネスとして成立させる、というところまで含めてのデザインという考えは、これから企業とデザイナーが組む上で外せない要素ですので、密なコミュニケーションは必須であると考えています。TBDAによる手厚いサポートのおかげで、とてもスムーズに進めることができました。

中村 中小企業さんと仕事をするなかで、デザインを初めて外部に発注する会社も多いので責任重大です。パッケージデザインのご依頼でお話を聞きにいくと、コンセプトが固まっていないなどのケースも過去にありました。これからのデザイナーは、表面的なデザインだけではなく、企業さんと同じ目線に立ち、中にどんどん入っていって、上流から関わっていくことが増えていくのではないかと個人的に感じています。今回、商品化を進める上でTBDAでのワークショップや勉強会での学びはとても大きかったので、できることならセミナーを開いていただいて、多くのデザイナーにも体験してもらいたいですね。

——ありがとうございました。End

東洋工業株式会社 https://candles.co.jp/index.html
tetote https://te-to-te.tokyo
東京ビジネスデザインアワード https://www.tokyo-design.ne.jp/award.html

2019年度東京ビジネスデザインアワード 提案最終審査

日時
2020年2月5日(水) 14:00~17:30(開場13:30)
会場
東京ミッドタウン・カンファレンス Room7(東京都港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー4F)
参加費
無料
お申し込み
①参加者氏名/②所属企業名/③部署/④メールアドレスを明記し、メールにて東京ビジネスデザインアワード事務局までご連絡ください。