アメリカ化学会が新しい「人工赤血球」の開発を発表
機能が拡張された人工赤血球は医療の可能性が広がる

▲Credit: Adapted from ACS Nano 2020, DOI: 10.1021/acsnano.9b08714

これまで科学者たちは、酸素を運ぶ血液細胞である赤血球を人工的に作り出そうと試みてきたそうだ。とりわけ、赤血球の長所を兼ね備えた、柔らかさや酸素の運搬能力、循環時間の長さに優れたものを開発しようとしてきた。

しかし、これまでに完成した人工赤血球は、こうした特長をひとつないし複数もつもので、すべてを揃えたものはなかったという。アメリカ化学会の発表によると、赤血球の自然な能力にさらにいくつかの機能を備えた、新しい人工赤血球の開発に成功した。

赤血球は肺から酸素を取り込み、これを体の隅々にある組織に供給している。そして、円盤状をしたこの細胞には、酸素と結合する鉄を含んだタンパク質であるヘモグロビンが数百万個も存在している。

さらに、赤血球は非常に柔かく、小さな毛細血管を通るときに縮んでも、元の形状に戻ることができる。細胞の表面にはタンパク質が含まれており、免疫細胞に取り込まれることなく、血管のなかを長時間循環することもできる。

今回開発したものは、こうした赤血球の利点を維持しながら、治療薬の運搬能力、磁気ターゲティング能力、毒素の検出能力といった、新しい機能を備えたものだという。

大きさや形状、荷電、表面のタンパク質は天然のものとほとんど変わらず、モデルの毛細血管を通過しても、縮んだあとに元通りになった。マウスを用いた実験では、48時間以上も持続し、毒性は観察されなかったとしている。

▲Credit: Adapted from ACS Nano 2020, DOI: 10.1021/acsnano.9b08714

また、人工赤血球にヘモグロビン、抗がん剤、毒素センサー、磁性ナノ粒子などを担わせ、運搬できることも実証。細菌毒素に対するデコイ(おとり)として機能する可能性もあるとしており、今後はガン治療や毒性物質のバイオセンシングなどの医療に応用することを目指すそうだ。End