当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
今日のトピック
車に乗ってゴッホの作品の世界に没入できるプロジェクションマッピングの展覧会「Immersive Van Gogh Exhibit」が、トロントのランドマーク的なビルOne Young Streetで7月1日から開催されます。
同展では、色やディテール、ブラシストロークにいたるまで忠実に作品を再現した映像が1.7立方kmもの広い空間に投影され、作品の世界を体感できるそうです。展示される作品には、「ジャガイモを食べる人」(1885年)、「星月夜」(1889年)、「ひまわり」(1888年)、「ファン・ゴッホの寝室」(1889年)が含まれています。
鑑賞方法は2種類、車に乗るか、通常の方法か選ぶことができます。1日に鑑賞できる人数をチケット販売の時点で制限しているため、密な状態を避ける対策もされています。さらに、通常での入場に関しては、ソーシャル・ディスタンシングを守って場内をまわれるよう、プロジェクションの映像に距離をとるように促すサインを取り入れるそうです。
SPREADはこう見る
車に乗ったままアートを鑑賞するという手法は、自身のペースでじっくりと絵画と向き合うといった従来の美術鑑賞とはかなり異なります。しかし、ファストフード店のドライブスルーや、ドライブインシアターなど車を使ったサービスや体験をしたことがある人には意外と馴染みやすいかもしれません。
また、映像化された作品と従来の絵画では、それぞれ別の楽しみ方があります。絵画だったら、絵の具の配色や凹凸から実物ならではのパワーを感じる良さがあり、プロジェクションマッピングは、音や光、絵のなかの星空や人間の動きから、ゴッホの世界感を体験できるでしょう。
外出自粛が世界的に行われるようになってから、オンライン上で鑑賞できるアートが増えました。自宅で、しかも無料で世界中のアート作品が鑑賞できるのは嬉しいことですが、一方で、実物のある場所で鑑賞できないことは残念です。今回の展示は、バーチャル美術館と本物の美術館、この2つの中間的なものではないでしょうか。フラットモニター上でバーチャル美術館を眺めるよりも、物質的に存在する美術館に少し近い存在です。人が集まる美術館に行きにくい現在、車に乗ってアートを鑑賞する方法はこれからの新しい鑑賞方法のひとつになっていくのかもしれません。