「新宿 北村写真機店」もカメラも見所はディテールに、
店舗デザインやメンテナンスサービス体験をレポート

世界に誇る「カメラの聖地」としての東京・新宿をさらに強く印象づけるようなスポットが2020年7月3日に誕生した。全国で700以上の店舗を展開するカメラのキタムラがオープンした「新宿 北村写真機店」は写真とカメラのビギナーからプロフェッショナルまで惹きつける同社の旗艦店だ。店舗デザインはTONERICO:INC.が手がけ、ロゴやグラフィックは木住野彰悟(6D)が担当。コンセプトデザインはCCCクリエイティブ CEO・谷川じゅんじが行った。本記事では新たな写真の楽しみ方を提示するとともにプロフェッショナルの要望にも応えるという同店を訪ね、そのインテリアデザインやグラフィックのディテールに宿る意匠、カメラのメンテナンスサービス体験などをレポートする。

ロゴに宿るカメラの歴史、想い

店舗にたどり着いてまず最初に目にするのは木住野が担当したロゴだろう。このロゴはカメラの原型と言われるカメラ オブスクラ(ラテン語で「暗い部屋」の意)のモチーフと北村の頭文字であるKを重ねたもの。

カメラ オブスクラはもともと画家が正確な描写のために用いた仕組みで、小さな穴をあけた暗い部屋に光がさしこむ際に反対側の壁に外の景色がさかさまに写しだされる現象のことを指す。のちに穴に代わりレンズが嵌められ、最初のカメラが誕生した。ロゴではレンズを想起させる緩やかな曲面が表現され、シンプルながらカメラの歴史がつまっている。

さらによく目を凝らして見てみると、ロゴはうっすらとインクが滲んでいるように揺れている。どことなく、その滲みがカメラや写真が人の心の動きとともにあることを思い起こさせるのだ。

▲店内のサインなどにもこの滲みを発見することができる。

カメラを魅せるインテリア、カメラに通ずる安心感

インテリアデザインを担当したトネリコの米谷ひろしは、今回の空間イメージについて、①写真機が美しく映えること。②絵になり、背景となること。③細部にわたる「安心感」と「信頼感」をポイントとして挙げている。実際に訪れてみると、数多くの商品と複数のサービスを提供することを鑑みたとき決して広い面積とは言えない同店が全フロアにわたって統一された世界観に包まれていること、フロアごとに異なる空間体験ができる楽しさを実感した。いくつか特に印象に残っているフロアを紹介していく。

真新しさを感じる”白”(2F 新品カメラ)

市場にある新品カメラがほぼ揃っているという2Fに足を踏み入れると他のフロアとは異なる「明るさ」を最初に感じる。従来のカメラ売り場というと高級感と緊張感が漂う直線のイメージがあるが、ここでは曲線が醸し出す温かみと新品カメラを象徴するような真っ白な什器が印象に残る。什器の断面には木材の積層がアクセントになっており、カメラが両側に並ぶトンネルを潜るように歩いていくと、まるで小さなカメラの森を散策している気持ちになってくる。カメラはブランドごとに陳列され、かつ本体とレンズが縦一列で揃っているため、検討しやすい工夫がされている。

▲奥に写っているのは実は鏡。

高揚感を誘うディスプレイ(4F 中古カメラ)

5,000点を超える中古カメラの店頭在庫が一堂に会すフロアというだけでもわくわくするが、それらがコンパクトなフロアの無駄のない什器に美しく整列しているところを見るとさらに胸が高鳴る。専用工場できちんとメンテナンスされた高品質の中古カメラやレンズが機種や品番ごとに整然と並び、個々のコンディションと価格も一目瞭然。什器に備えられたスライドテーブルで気になったものを実際に手に取る動作もその場でスムーズに行える。これだけ種類と数が揃うと選ぶのもひと苦労ではと心配になるほどだが、各階には知識豊富なカメラコンシェルジュが常駐。ビギナーからプロフェッショナルまでどんな人でも自分の希望のものを選べる安心感がある。

▲什器に使用された黒のスチールとカメラの黒がリンクする。引き出しのなかにはマウントアダプターを種類豊富に揃えており、レンズの試写も可能。

思いがけず歴史に触れる(6F ライカ/ヴィンテージカメラ)

1920年代〜のライカが揃うヴィンテージサロンはヒノキの無垢材を使用した重厚なテーブルと貴重なヴィンテージのライカがギャラリーのように並ぶ特別感のある空間だが、同時にあらゆるカメラファンを迎え入れる明るさと懐の深さを感じることができる。なかなか目にすることのできない希少価値の高いライカを間近に見ることができるので、ライカ愛好家のみならずぜひ訪れたいフロアだ。サービス面では専用のコンセルジュが配され、ゆったりした空間でリラックスしながら買い物をすることできるなど、ここならではの体験を提供している。

▲[LEICA]M3 Body Black Summicron M 50/2 固定 1964年

リサイクルではなく「リプロダクト」
修理・メンテナンスで生まれる信頼

5Fには証明写真撮影サービスのほか査定・メンテナンスの専任スタッフが常駐する「Re-pro Center」でカメラの買取、メーカー認定の修理工場との連携による修理とメンテナンスサービスを提供している。例えば4Fで新たに中古カメラを購入する人がそれまで所持していたカメラを下取りに出す際、査定に訪れるのもこのフロアだ。利用時にはまずコンシェルジュカウンターで受付し、その後Re-pro Centerで相談内容に応じた見積もりやカメラ・レンズの状態を確認してもらうという流れ。受付や修理・メンテナンスの仕上がりを待つ際には番号が発券され、スマートフォンのアプリで待ち時間を確認することが可能だ。

今回、筆者が普段使っているフィルムカメラ(CONTAX 139 QUARTZ)を実際にメンテナンスしてもらった。お願いしたのはボディやレンズの外観清掃を10分ほどで仕上げてもらえる「クイックメンテナンス」(税抜1,000円〜)。中古で購入し埃が溜まっているのではと気に掛かっていたものの、メンテナンスに出すハードルを高く感じていたため今まで一度も出したことのなかったカメラだ。実際に体験し、手際の良いコンディションチェックとさまざまな道具を駆使したプロのメンテナンスサービスに感動。これならば定期的にお願いしたい!と感じた。気になるメンテナンスの頻度について担当いただいた髙橋公平さん(Re-pro Center リーダー)に尋ねたところ、「レンズを取り外す際に埃が入り込むことが多いのでその都度こまめに拭き取るのが理想的。写真を頻繁に撮らないシーズンにメンテナンスに出していただくのもおすすめ」とのこと。

「今まで使ってきたお客さんの気持ちを大切にメンテナンスを行い、新しいものとして送り出す」という想いから、リサイクルではなく「リプロダクト」を標榜するRe-pro Center。祖父から譲られた正常に動くか怪しいASAHI PENTAXのことを話したところ、「昔のフィルムカメラのほうが全機械式なので技師さんがいれば直せる。そういう意味では、昔のもののほうが復活しやすいんですよ」と教えてくれた。せっかく手元にあっても仕舞っておいてはもったいない。次回はそちらを見てもらうつもりだ。

メンテナンスメニューはクイックメンテナンスのほかにもセンサークリーニングや精度チェックなど用意されていて、ウェブ上で事前の来店予約も可能。詳細はウェブサイトにて。

▲全140のボックスが綺麗に収まる棚は可動式。お客様から預かったレンズやカメラを大切に保管する。

▲預けた愛機のメンテナンスの様子をガラス越しに見ることができるのも面白い。基調のライトグレーと柔らかな木目が気持ちいい透明な室内で手際よく丁寧に進められる様は信頼と安心を体現している。

▲まずブロアーで埃を落としてから汚れを拭き取る。次に刷毛で細かいところを掃いていく。さまざまなメンテナンス道具が並び、カメラによってそれらを使い分けていく。レザーの巻き直しや塗装なども相談可能。髙橋さん曰く「昔は『純正』を楽しむ傾向にあったが、今は革を張り替えたり塗装を変えたりなど個性を追求する楽しみ方が広がっている」のだそう。

▲「カメラのキタムラといえば物販のイメージが強いと思いますが、メンテナンスのことをお話するとその場で依頼されるお客様が想像以上に多い。ご購入いただいた後も末長くお付き合いが続いていけば嬉しいです」と髙橋さん。

写真展やレンタルスタジオ、
フィリップ・ワイズベッカーとのオリジナル雑貨なども

そのほか6Fのイベントスペースではオープン記念展覧会「蜷川実花展 ー千紫万紅ー」が2020年8月2日まで開催中だ。会場は可動式の間仕切りが設置されているため展示やイベント、プロ仕様の機材を用いた撮影スタジオとしてなど、内容に合わせて使用することができる。今後は桑島智輝の展覧会を予定しているなど、引き続き注目が集まる会場となりそうだ。

通りに面した1Fには北村写真機店とフィリップ・ワイズベッカーがコラボレーションしたマグカップやトートバッグをはじめ、カメラに纏わる楽しいグッズが並ぶ。オリジナル商品をはじめとした個性あるラインナップは自分用にはもちろん、カメラ好きな人への贈り物を探すのにも良いだろう。商品を購入した際のショップバッグやプリントサービスで仕上がった写真を入れて渡されるケースなどもライトグレーとグラフィックがポイントになっており、カメラとともにあるライフスタイルを感じさせるデザインはさまざまなところに見つけられる。

▲フィリップ・ライズベッカーのデッサンが施されたデザインは全4種類。

▲アーミーメンが武器をカメラに持ち替えフォトグラファータイプとして登場した北村写真機店限定商品。カメラは実際のカメラがモチーフになっている。

写真を撮るという行為においては昔よりも今のほうが身近に違いないだろう。スマートフォンの普及によってカメラなしでも高画質な撮影が可能となった一方、「カメラだからこそ」の表現とモノとしての魅力に惹き寄せられる人も増えているという。

普段は撮影データをSNSでアップするだけという人も、ここで指定できる「ディープマット」紙に大きくプリントしてみることで違った面白さを感じるかもしれない。グロス紙とマット紙での表現の違いだけをとっても奥深い。そういった違いを実感できるサービスを手軽なかたちで提供することによって写真の世界にさらに深く足を踏み入れる人たちを増やすサポートをしていることも、今後の北村写真機店の大きな強みになっていくだろう。End

新宿 北村写真機店

住所
〒160-0022 東京都新宿区新宿3丁目26-14
JR新宿駅東口 徒歩4分
営業時間
10:00-22:00(スターバックスコーヒー 8:00-23:00) 年中無休
電話番号
03-5361-8300
ウェブサイト
https://www.kitamuracamera.jp/ja