無人の都市は何を語る?パンデミック
前に世界各国で撮影された
「Silent Cities」

当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。

“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。

今日のトピック

ニューヨークを拠点とする写真家のマット・ヘネックさん(Mat Hennek)は、世界各国で無人の都市の写真を撮るプロジェクト「Silent Cities」を2013年から行なっています。

SPREADはこう見る

「Silent Cities」は、コロナウイルスが流行する前から行われているプロジェクトです。写真には、都市のランドマークのような一目で国がわかる建造物はありません。人が写っていないのは、都市を自然の風景のように撮影したかったからだそうです。無人のビルや公園、高速道路などを見ると、遠い昔には人がいたかもしれないと思わせ、非日常と日常が入り混じります。まるで、その頃から時が止まった遺跡のような存在感。そこにいない人の生活を想像し、脳内で世界中を旅しているような気持ちになります。

ロックダウンの結果、インターネットを介して私たちの目に入ってきたのは「Silent Cities」で見ていた無人の街が現実になった光景でした。ところが現在、ヘネックさんは「Silent Cities」の活動を休止しています。このプロジェクトの本質は「人がいない」ことではなく「見たことのない」風景を保存することのようです。

他にも無人の都市の写真を撮っていた写真家がいます。8×10の大型カメラで11年間誰もいない東京を撮影した写真集「TOKYO NOBODY」で知られる中野正貴さんです。渋谷、銀座、新宿など、毎日大勢の人々が行き交っている街がすべて無人。この写真集は20年前の2000年に出版されました。昨年2019年末には、東京都写真美術館で展覧会「東京」 も開催されています。

両作品ともに、くしくもコロナによるパンデミック下の状況を予見していたかのようです。人々の活気が溢れ賑わう街は、いまとなっては感染リスクを連想させます。ロックダウンを経験した人々にとって、誰もいない都市の風景は、どのように映るのでしょうか?。緊急事態宣言が解除からもうすぐ2カ月になります。ロックダウンを経過した今、両作品を見ると、無人の街の奇妙な魅力に加え、少しだけ安心感を感じるのは自分だけでしょうか。End

Mat Hennek
ニューヨークを拠点とするドイツ出身の写真家。

▲本プロジェクトをレーダーチャードで示しました。6つの属性のうち、成果物のデザイン性を「Creativity」で評価しています。「Pure & Bold」は目的に対して一途な強さを感じるか、やりきっているかという、SPREADが自らの仕事において大切にしている視点です。