「変化」をデザインする


変化はしばしば必要とされます。けれども、変化を起こすことは容易ではありません。企業でも、コミュニティーでも、時には国であっても、組織がより良い方向へと変化し続けるためには、全体的な状況と個々の要因、その双方を十分に理解している必要があります。また、いつ、どうやって変化をもたらすかについても知っておかなければなりません。

2019年秋、私はセルビアのベオグラードで開催されたDesign for Better Societyで基調講演を行いました。このイベントは、世界中のデザイナーが集う非営利組織Design Thinkersが主催したもので、世界のデザインリーダー、教育者、政府機関、コミュニティーリーダーが一堂に会し、2日にわたり、プレゼンテーション、討論会、ブレイクアウトセッションを実施。デザイン思考を用いて価値を生み出すことで、この世界をより良く変えていくことを広く宣言しました。

講演のテーマは、「変化をデザインする」。具体的には、組織のコアバリューを理解し、それを変化の推進のために活用する方法と、組織を取り巻くエコシステムのトレンドや移り変わりを見極める方法を説明しました。

実際、効果的な変化を起こすためには、慎重に物事を導く必要があります。例えば最近の調査によると、ついにデザインリーダーたちが役員の座に就く時代になった一方で、こうしたデザインリーダーを効果的に参加させている役員会というのは、めったにないそうです。こうした傾向は、組織の変化だけでは不十分であることの証明といえるでしょう。ビジネスにおいて意義のある持続的な成功を実現する「変化」をもたらすデザインを行わなければならないのです。

どんな組織にも、成長し、ローカル・グローバル双方のレベルで大きな影響を与える方向へとシフトしていく機会が眠っています。frogは、組織のアクティブ化を図る「Org Activation」を通じて、企業が従業員や顧客にとって重要な変化を行うための支援をしています。

私たちは、社会に働きかけるソーシャルインパクトに取り組むプログラム「Impact」を通じて企業チームと協力し、コミュニティーや社会全体を改善するための、実行可能で拡張性の高いソリューションを探し出します。ただし、こうした試みには、常に変化を起こしたい、変化を受け入れたいという気持ちが必要です。そのためには、変化に対して、個人が感情的にどのような反応をするかを知り、どうやって変化を効果的に管理するかを理解する必要があります。

変化を管理する機会をマッピングする

キューブラー=ロスの変化曲線(Kübler-Ross Change Curve)は、変化に対する感情的な反応をグラフで表したものです。新しい情報を聞いたときに経験する最初の衝撃から始まり、やがて拒絶、不満、絶望、実験、決定の段階を経て、全く新しい平常な感覚を生まれるのを表しています。

このようにして、人は自分たちの住む世界と新たな変化をひとつに統合しているのです。この図は組織にとって、変化に適応する際、どのようにして効果的に管理するのかの理解に役立つだけではなく、変化の途中で支援を提供し、負担を軽減するための介入を行う明確なポイントも示しています。

次に紹介する顧客の例では、変化を経験する際の高齢者の感情的な反応を特定するために、キューブラー=ロスモデルを採用しました。そして各段階において、直接介入できるアクションを特定して、高齢者の感情的なニーズに対処しました。


企業内では、従業員が変化の中心になることが多いものです。以下の図は別の顧客の例ですが、企業がコミュニティー内でのボランティア活動を推進する方法を探るためのものです。どんな機会があるか、関与する役割やパートナーとはどのようなものかを検討して、ひとつにまとまったアプローチをはっきり示すことで、進むべき道筋が明らかになります。これは組織にとって、長く続く影響を生み出す本当の変化を受け入れる良い機会となるでしょう。

組織に継続的変化をもたらす方法

ここまでは変化が持つ力とその効果的な管理に伴う感情の段階について説明してきました。今度は、組織内で長く続く変化を推進するために、実行可能なステップをいくつか紹介します。

1)参加して行動する方法を理解してもらうための枠組みを定める。
組織が常に変化を受け入れるための新しい機会を得る方法の一つとして、私たちは、「Org Activation」を実践しています。

また、グループ行動ツールキット「Collective Action Toolkit」は、グループで問題を解決し、選ばれたコミュニティーでの変化を推進する上での一連の活動や方法として使用することができます。

2)変化に必要な能力レベルを理解する。
変化はたった一晩でデザインできるものではありません。感情的な影響について理解するとともに、能力開発と既存のコンピテンシー育成を、組織内でたった1回だけ行うのではなく、進展する変化のプロセスとして実施します。

3)変化を推進するためにシステム思考を用いる。
組織が関わっているエコシステムを広範にわたって捉えてから、貢献要因に焦点を絞ることです。企業の場合は、顧客を引き入れることも、その焦点に含まれます。新しいツール、プロセス、製品・サービスを開始するだけではなく、顧客とソリューションを共創し、実際の変化に向けた新たな考え方を生み出します。

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「DesignMind」に掲載されたコンテンツを、電通CDCエクスペリエンスデザイン部・岡田憲明氏の監修でお届けします。