日本が誇る美の伝統を、革新的デザインで未来につなぐ「場」
静岡・熱海の「キュレーションホテル」

▲第1号「熱海 桃乃八庵」Design & Produce by Noriko Sawayama

インテリアデザインの激戦地・ロンドンでデザインオフィスを17年にわたり主宰してきた澤山乃莉子は、日本が誇る美の伝統を革新的デザインで未来につなぐ場としての「キュレーションホテル」を手がけている。

キュレーションホテルとは、日本の伝統建築素材・伝統工芸・アートを、その場を通じて還流させるだけでなく、地域のアーツアンドクラフツツーリズムの核にもなる施設のこと。

日本の伝統工芸を、世界的視野を以て日欧のインテリア空間で表現し続けた澤山が、その経験と知恵をサステイナブル哲学のもとに結実させたのが、日本初となるキュレーションホテル「熱海 桃乃八庵(とうのやあん)」(一棟貸し/部分貸し・210㎡3寝室・定員最大6)で、2018年11月にオープン。

これに続き、2020年2月には第2号「須藤水園(すとうすいえん)」(一棟貸し・250㎡3寝室・定員最大6)が完成、同年末には第3号「桃山雅苑(ももやまがえん)」(一棟貸し/部屋貸し・640㎡4室・定員最大8)が完成し、静岡・熱海に3つのキュレーションホテルが揃うことになり、2021年3月にはグランドオープンを迎える。いずれの施設もすでにThe International Hotel & Property Awards 2021(桃山雅苑)などの世界的なデザイン賞で入賞を果たしており、キュレーションホテルが描き出す革新的な日本の伝統美の世界的評価はすでに証明済みだ。

桃乃八庵」は、1933(昭和8)年築の元旅館別館で、5年間放置され解体寸前だった古民家を耐震改修含めフルリノベーション。建築当時の面影を残す左官壁や組木細工、巾木などの意匠を可能な限り残しつつ、伝統の素材と技術で大胆な改装を行った。この結果、最も風雨にさらされ痛みが激しかった2階に、大型のサロン空間を、5つの和室を統合することで創り上げた。随所にオーナーである澤山の目利きで集められた伝統工芸品や現代アートが入ることで、時代の新旧・洋の東西が融合された、伝統と革新が競演するデザインが完成した。

▲第2号「須藤水園」Design & Produce by Noriko Sawayama

一方、「須藤水園」は、築87年の豪奢な伝統建築の耐震ならびに住宅性能を高め、オリジナルの意匠を生かしつつ、金と青をキーカラーに、琳派を思わせる華やかなデザインに仕上げている。例えば100枚以上の障子戸は、伝統の洗いを施し、85㎡のLDKの緩い結界として再生させた。私設美術館も所有する美術篤志家のオーナー一族が、何代にもわたりこの家のために集めた美術品が新しい空間デザインの中で煌めくさまは圧巻だ。

▲第3号「桃山雅苑」Design Produce by Noriko Sawayama

また、「桃山雅苑」は、築40年超元保養所のコンクリート建築を、設備と耐震性能の刷新、地元静岡のきこりが切り出す間伐材、伝統素材と大工による手仕事で、和の意匠が心地いい空間にフルリノベーション。指揮者であり、新進アーティストの篤志家でもあるオーナーがサポートした、アーティストの若かりし頃からの作品や、幕末期に欧州に流出した日本美術の買戻し品、伝統工芸が、ドラマティックな表情を添える。

いずれのキュレーションホテルも、廃材やCO2の削減、さらに伝統建築の保全、伝統の大工技術や工芸の伝承というサステイナブルなポリシーが貫かれている。ここにオーナーの目利き・キュレーションが加わった革新的なデザインを施すことで、負の遺産といわれる建築の、未来への扉が開かれるのだ。End