無印良品から伝統工芸の技術を用いたプロダクトまで。
三宅一成の考えるデザイン

▲±0の「空気清浄機」(2019) Design by Kazushige Miyake, Daisuke Ishigami; Photo by Goichi Kondo

三宅一成は、2005年に自身の事務所を構えてから、プロダクトを中心にしたデザイン活動を展開している。無印良品や±0(プラスマイナスゼロ)の家電をはじめ、オーディオ製品、折り畳み自転車、スーツケース、家具のほか、伝統工芸の素材や技術を駆使したテーブルウェアや照明など、手がける製品は多岐にわたる。デザインに対する考え、今後、挑戦してみたいことなどを聞いた。

▲簡単に折り畳めて小さくなる、無印良品の「16型折りたたみ自転車」(2019) Design by Kazushige Miyake, Kota Kato; Photo by Goichi Kondo

クルマに興味を持ちデザインの道へ

幼少期からクルマが好きでカーデザインに興味を抱いていた。美大に進学し、自動車メーカーに就職。その1年後、視野を広げるために渡英し、注文家具のデザイン製作にも携わった。

1999年末に帰国し、IDÉE(イデー)、IDEO Tokyo(アイデオ・トーキョー)を経て、2003年にNaoto Fukasawa Designに入社した。

▲天然成分の消臭アロマが一定の時間間隔で噴霧されるコモンズの「消臭アロマディフューザー」(2020) Design by Kazushige Miyake, Daisuke Ishigami; Photo by Goichi Kondo

スタッフとの協働によるものづくり

三宅が自身の事務所を設立したのは、2005年。その当時を振り返って、「最初は自分ひとりで何でもできると思っていたのですが、実際はまったくできませんでした」と笑って話す。「ひとりで考えていると、自分の価値観に固執し、たとえ間違った方向にいってしまってもわからない。ほかの人の意見や考えを聞くことで自分のデザインを客観視でき、より良いものになることに気づきました」。

それ以来、三宅はスタッフと2人1組でプロジェクトに当たるようになった。現在、スタッフは加藤広太、石上大輔、柚垣旭の3名。デザインを考えるのは三宅だが、彼らはアシスタントではなく、同じデザイナーという立場で意見や考えを言い、最初から最後まで一緒にプロジェクトを遂行する。共に手がけた製品だからこそ、自社のホームページでは彼らの名前も記している。

▲finalの「Headphones D8000」(2019) 本体のフレーム形状は強度と軽さのバランスを考えてデザインした。Design by Kazushige Miyake, Kota Kato; Photo by final

▲音質の良さに定評がある、finalのイヤホン「Earphones A8000」(2019) Design by Kazushige Miyake, Kota Kato; Photo by Goichi Kondo

三宅が手がける工業製品は、長く関係を継続させているメーカーとのものが多い。ハイエンドオーディオメーカーのfinal(ファイナル)もそのひとつ。t.c.k.wの立川裕大の紹介により仕事がスタートして、すでに10年以上の付き合いになる。

同社の徹底したものづくりへのこだわりと音質の高さは国内外で定評があり、コアなファンも多い。同社の魅力を、三宅はこう語る。「精度の高さが求められるため、手作業でひとつずつ組み立てる丁寧なものづくりや、常に新しい技術に果敢に挑戦する姿勢に毎回、驚きと感動を覚えます。彼らの期待に応えなければというプレッシャーもありますが、とても魅力ある仕事です」。ゆっくりと信頼関係を築いていき、現在では同社ブランド「final」の製品デザインのほとんどを三宅の事務所で手がけている。

▲±0の「空気清浄機」(2019) Design by Kazushige Miyake, Daisuke Ishigami; Photo by Goichi Kondo

経験を踏まえて提案した空気清浄機

工業製品のプロジェクトでは、新技術をもとにデザインを考えるケースが多いそうだが、±0(プラスマイナスゼロ)の「空気清浄機C030」は、三宅がこれまで空気清浄機を複数手がけてきた経験が生きている。三宅からエンジニアに提案して実現の可能性を探ったものだ。

「空気清浄機は、フィルタのある面を隠さず、むき出しの状態にするのが、フィルタを効率良く使ううえで一番いいと考えられます。そこで360度全方向から吸引するタイプのフィルタを採用して、そのフィルタを細いパイプで囲んだフォルムを思いつきました。家の中の家具などと自然に調和するようにパイプの直径や数、重量の検討を重ね、エンジニアと話し合いながら形に落とし込んでいきました。三方向に分かれた上部の吹き出し口は装飾ではなく、風が回転して吹き上がる効率性を高める設計です」。

▲竹松商店の「Bamboo Stool」(2019) Design by Kazushige Miyake, Kota Kato; Photo by Goichi Kondo

工業製品とは異なる、伝統工芸のアプローチ

伝統工芸の素材や技術を使った製品もいくつか手がけている。日吉屋の和傘の技術を用いた照明や、井助商店の漆器のテーブルウェア、ねぶた祭りの文様を抽出して絵柄とした照明などだ。そうした経験を通じて、伝統産業のものづくりには工業製品とは異なる道のりがあるという。

「既存の技術をそのまま使えば容易にできるのですが、新しいことを取り入れようと、その技術から少しでも外れるとコストが高くなってしまったり、製作に時間がかかりすぎて商品にならない場合があります。そこで最初に工場を訪れたり、過去につくったものを見せていただくなどして、もっている技術を洗い出して話し合いながら進めるように心がけています」。

竹松商店の「Bamboo Stool」は、古くからある鼓椅子(つづみいす)を現代の生活に合うようにすることを考え、複数のデザインを提案したなかから工場の技術で製作できるものが選ばれた。古来のシンプルな製法によるものだが、中央部分をあまり絞り込まずに柔らかいシルエットにして、三宅が以前から竹素材に染色したときの美しさを知っていたことから、色も添えてモダンな印象に生まれ変わらせた。

▲NTT docomo「MONO MO-01K」。スマートフォンのスタンダードについて考えた製品。(2017) Design by Kazushige Miyake, Daisuke Ishigami; Photo by Goichi Kondo

物の価値とカタチの関係とは

三宅にとってデザインすることとは、物の「価値」を最大限に引き出して、「カタチ」にすることだという。

「つくり手が伝えたい、こういう体験をしてほしいという価値観と、使い手がこういう物がほしいという価値観が合致したとき、その物に初めて存在意義が生まれると思うのです。そのために、物の価値を最大限に引き出すことが必要だと思っています。また、『カタチ』にするというのは、形状だけでなく、重さや音、味などもあるかもしれませんが、それらを実際に目や手に触れられるものにしていくということ。それがデザイナーのやるべきことだと思っています」。

▲強度を高める構造を追求してアルミフレームと静音キャスターを採用した、±0のスーツケース(2018) Design by Kazushige Miyake, Daisuke Ishigami; Photo by Goichi Kondo

今後、手がけてみたい3つのこと

今後、手がけてみたいこと、挑戦してみたいことは、3つあると言う。「ひとつは、これまでも携わったことがありますが、家具です。テーブルでも椅子でも棚でも何でもいい。もうひとつは、まだ手がけたことのない食品です。食品は量産品で、まさにプロダクトデザインだと思いますし、食感や味を、段階を経て変化させられることも魅力です。それから子どもの頃から好きなクルマのデザインをしてみたいですね。今後さらにEV化が進めば、新規参入の企業も増えてくるでしょうし、新しいクルマのデザインも求められると思うので、ますます楽しみな分野です」。

その一方で、三宅はデザインを考えるうえで、ジャンルにとらわれないことを留意している。「『家電』『雑貨』と個々に考えるのではなく、『身の回りに存在している物』として大きな括りで考えてデザインすることで、生活空間のなかで何かひとつが突出したり、チグハグに混在することなく、それぞれの物の関係性や佇まいが自然に調和して見えてくると思うのです。そのためにも、幅広くいろいろな物を手がけて、ジャンルにとらわれず、柔軟な思考でデザインと向き合っていきたいと考えています」。

▲井助商店の漆器の酒器「IKKON」(2020) Design by Kazushige Miyake, Kota Kato; Photo by Goichi Kondo

2019年頃から「純粋にデザインに向き合う時間」をつくるために、大学の講師や講演会などの仕事を一旦休止し、昨年はコロナの影響もあり、さらに集中できる環境でデザインに取り組んでいるという。今年も新作がいくつか発表になる予定だが、今後やってみたいことについてはまだ「出会い」がないとのことなので、ご興味のある方は、まずはホームページをご覧ください。End


三宅一成(みやけ・かずしげ)/デザイナー。1973年兵庫県生まれ。多摩美術大学プロダクトデザイン科卒業後、渡英。帰国後にデザイン事務所を経て、2005年にmiyake designを設立。iFデザイン賞審査委員、グッドデザイン賞審査委員、シンガポールグッドデザイン賞審査委員。iFデザイン賞、レッドドットデザイン賞、グッドデザイン賞など、受賞歴多数。2012年、2014年にはグッドデザイン賞ベスト100選出、2013年にはiFデザイン賞の金賞を受賞。