コクヨデザインアワード2022
――20年の変遷と未来に向けて

コクヨデザインアワード2022の応募要項が発表された。2002年にはじまり、まもなく20周年を迎える同アワードの変遷を振り返りながら、今回のテーマ「UNLEARNING」について考えたい。

テーマで見るアワードのあゆみ

コクヨデザインアワードは2002年に誕生した。第1回のテーマは「ユニバーサルデザイン」。この言葉が世に出はじめた頃で、これを深掘りするデザインコンテストを行おうというのがきっかけだった。応募数は311点で、佳作に選ばれた「カドケシ」を商品化したところ、大ヒットに。以降、「受賞作の商品化」がアワードの目玉となる。

▲大ヒット商品となったコクヨデザインアワード2002佳作「カドケシ」(神原秀夫)。

翌年も同じテーマで開催し、2004年以降は毎年テーマを変えるスタイルになった。コクヨと審査員が協議して決めるが、2005年「奥行き」、2008年「炭素」、2009年「よりどころ」など、デザインの視点から時代の潮流を表す言葉が選ばれた。回を重ねるごとに応募者の数が増え、アワードへの注目も高まっていくなか、コクヨとしても会社の進むべき道を探る場にしたいと考えた。2011年、2012年と連続で「Campus」をテーマに挙げたのも、既存ブランドの新たな可能性を模索したいという狙いがあった。

実際、2014年の優秀賞「本当の定規」は商品化されると、当初の予想をはるかに上回る販売数で、現在も生産が追いつかない。「本当に正確な1mmを測りたい」というデザイナーの問題意識が、デザインや建築などの専門性を越えて強い共感を呼んだのだ。このようにアワードは、通常の商品開発では生まれない発想を実際の市場で試す機会になっている。2015年「美しい暮らし」、2016年「HOW TO LIVE」など、これまでの事業領域である学びと働くシーンが暮らしの領域とシームレスになった背景もあり、事業領域を生活分野へも広げたいと考えるコクヨにとっても重要なテーマがピックアップされた。

▲コクヨデザインアワード2014優秀賞「本当の定規」(坂井浩秋)。その他の商品化された作品はこちら

応募作品の傾向が少しずつ変化してきたのもこのあたり。人びとの求める価値が「モノからコトへ」とゆるやかにシフトし、機能や用途よりも、ストーリーや感性を重視する傾向に。そうした時代性を表し、2020年「♡」はテーマそのものが抽象度を極めた。自由な発想を求めた結果、アイデア先行の提案が増えたことも確かだ。

その流れに歯止めをかけたのが、2021年「POST-NORMAL」だ。世界中がコロナ禍という大きな課題を抱えるなか、わかりやすいストレートなテーマに対して、海外からの応募が過去最高の606点、全体の43%を占めた。「モノに落とし込む」ことを強く訴えたことで、プロダクトとしてリアリティのあるデザインが集まった。また、海外の応募者がグランプリを受賞したことも鮮烈な印象を残した。

▲コクヨデザインアワード2021グランプリ「RAE」(Milla & Erlend)

コクヨデザインアワード2022は「UNLEARNING」

そして、コクヨデザインアワード2022である。昨年から続くパンデミックと、それをきっかけに世界中でさまざまな課題が噴出するなか、今の仕組みや価値観のままでいいのかという人びとの想いはますます強くなっている。

コクヨが2021年2月に発表した「長期ビジョン CCC 2030」に、「森林経営」という言葉が登場する。1本の太い幹から伸びる事業の枝を広げていくというこれまでの企業経営の考え方を刷新し、小さくてもさまざまな木を植え、会社全体を豊かな森のように育てていきたいという内容だ。こうしたコクヨ自体の変化も踏まえ、審査員全員によるテーマ会議では、「マインドセットを変えていこう」というメッセージを込めようということになった。

議論はいつになく難航したという。最後まで候補に挙がっていた「SHIFT(シフト)」をおさえて、決まったのが「UNLEARNING」だ。これまで学んだことを意識的に手放し、新たに学び直したり、自らの価値観を再構築することを指す。「学びほぐし」ともいう。日本ではあまりなじみのない言葉だが、欧米ではデザイン思考や人材開発のプロセスで取り入れられている。無自覚に受け入れてきたことを、本当に正しいことなのかを自問自答する。自らを否定してクリエイティブに繋げるという難易度の高い思考方法だ。

しかし、自分自身や身の回りをよく見渡すと、思い当たることも多いのではないだろうか。大量生産や環境破壊がもたらしていること、よくわからないまま従っているさまざまルールなど。違和感を覚えたり、「このままではいけない」と思うことがあれば、その部分について深掘りし、形にしてみてほしいというわけだ。そのとき、自分自身がUNLEARNINGすることもあれば、それを受け取った誰かがUNLEARNINGするのかもしれず、それはどちらでもかまわない。そして大切なのは、昨年同様に「プロダクトデザインの完成度」が重視されるということだ。

最後に、コクヨデザインアワード2022のメッセージから引用する。

「デザインは、逆らうことができる、批判することができる、多様性を示すことも知識や理想を壊すこともできる。誰も信じて疑ってこなかった真実にもう一度フォーカスして、モノとデザインの関係を再構築しよう」。

なにごとも柔軟に受け入れることが得意な日本人にとっては少しハードルが高いかもしれない。だからこそ、応募者にとって得られることも多いはず。今回はいつになく、骨太のメッセージと芯の強いものづくりが求められるアワードになりそうだ。エントリーは10月15日まで。End

コクヨデザインアワード2022

テーマ
UNLEARNING
募集対象
働く、学ぶ、暮らすシーンで用いる文具・家具・道具全般
募集期間
2021年8月20日(金)~10月15日(金)
※詳しい募集要項は2021年8月20日(金)より下記サイトにて公開
審査基準
①テーマの解釈、②プロダクトデザインの完成度、③商品化の可能性
審査発表
2022年3月12日(土)予定
詳細
https://www.kokuyo.co.jp/award/