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2021.11.11 15:40
建築家の菅原大輔が主宰するSUGAWARADAISUKE建築事務所が設計を手がけた「瀬戸内醸造所」のワイナリーが広島県三原市にて竣工した。元造船所跡地に建つ施設で、レストランを併設した製造販売拠点を備えている。
同醸造所がコンセプトとして掲げるのは「旅するワイナリー」。この建築では、これを体験として伝えるための物語と風景の構築が求められた。
そこで、時間とともに移ろう海と島並、山と空が見渡せる瀬戸内らしい敷地特性を活かし、見学ツアーやカフェ利用などの気軽な滞在、バーベキューやコース料理などの飲食、大小の式典など、さまざまな過ごし方が屋内外でできる多様な居場所群を目指した。
まず、2棟の建築ボリューム、さらには植栽と造船所の廃材で構成した蛇篭壁や盛り土によって、海と一体化したまとまりのある広場を構成。
前面道路から海岸線まで真っ直ぐ延びる軸線は、この広場を貫通して、海と山の風景を対比的に接続するとともに、大屋根ゲートによる空と島並のフレーミングでアプローチの高揚感を作り上げる。
35mの傾斜した大屋根は、瀬戸内の水平線を強調しつつ、山並みへと視線を誘導。建築屋内外で起伏する地面や床面、小上りや段々デッキ、カウンターといった居場所とともに、周辺環境の特徴的な風景へと視線を誘導することで、開閉する空間密度や屋内外が一体化した広がりができあがった。
醸造棟のデッキ材による緩やかな階段は、海を眺めるベンチにもなる。2階バルコニーは新設された醸造所と元造船所の遺構、遠くの島並みを一体的に見下ろす視点場となり、全艶塗装の厨房ボリュームとシルバーの鋼製屋根は海と空の移ろいを強調。塩害対策の焼杉外装は瀬戸内の記憶を想起させる。
広場から山並みを望むと、建築によって前景の街並みは省略され、背景の空と山の稜線だけが現れる。象徴的な大屋根は、さまざまな目的や居心地を提供する空間と風景を重層させ、ひとつの連続した大らかなブランド体験をつくっている。