ファッションブランドが示唆する循環型社会
ケリング「Fashion & Biodiversity」展

Courtesy of Kering

2021年11月26日から28日まで、東京・表参道のケリング・ビルで「Fashion & Biodiversity:ケリングと共に考えるファッションと生物多様性」展が開催された。これはグッチやボッテガ・ヴェネタ、バレンシアガなどを擁するグローバル・ラグジュアリー・グループのケリングが主催したもの。同グループは「ラグジュアリーとサステナビリティは同一のもの」という考えの下、10年以上にわたってサステナビリティを戦略の中核に据え、気候変動や生物多様性といった社会課題に取り組んでいる。

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▲「いま、あなたが着ている服は何によってつくられ、それはどこからやってきたのか。1枚のセーターをたよりに過去へと時間をさかのぼってみましょう」という問いかけから展示はスタート。グラフィックに沿ってテーブル什器をひとつひとつ巡りながらテキストを読み進んでいくと、最後に行き着くのは……。

展示空間は大きく6つのセクションで構成され、来場者は床に描かれた樹木の根や葉をイメージしたグラフィックに沿って巡っていく。そこでは、原料の調達から製品が店頭に並ぶまでのさまざまな段階での持続可能性に関する取り組みを知ることができる。製品のライフサイクルのうち、どこで環境への負荷がかかるのかを調べるEP&L(環境損益計算書)、主要原料の91%以上が原産国までさかのぼれるトレーサビリティの資料のほか、過去のコレクションで使用した素材に異素材を加えたサンローランのアップサイクルレザーを使ったバッグや、グッチによる、非動物由来の新素材を使用した靴なども展示された。

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▲ボッテガ・ヴェネタの「パドルブーツ」には自然由来の分子から作られた生分解性のポリマーが使われている。このブーツは土壌や海中の微生物により分解され、やがて炭酸ガスと水に変わる。

展覧会の企画・構成を手がけたのは、持続可能な社会の実現を目指すNPO Think the Earthを率いるSPACEPORTの上田壮一。空間や什器のデザイン、グラフィック、コピーライティングなどを担当したのはAXIS designだ。

上田は次のように話す。「サスティナビリティとクリエイティビティの両立が今回の重要なチャレンジでした。どちらにおいてもグローバルリーダシップを感じさせるものでなくてはならないし、同時に、来場者に“自分ごと”として理解してもらう架け橋となるような企画や構成が求められました。サスティナビリティの実現はもはや時間との闘いです。強い影響力をもつファッションブランドが高い目標を掲げ、社会変容の先頭に立つ姿に触れることで、自らの襟を正す機会にもなりました」。

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▲マテリアル・イノベーション・ラボでこれからパイロットを行う予定のスタートアップ「Colorifix」社を紹介。同社は自然界において色の生成につながる遺伝子を正確に特定。そこからDNAを構築し微生物に組み込み、微生物の力で染料を繊維に付着させ染色するという。最新の技術は多くの人にとって初めて知ることだったに違いない。

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▲木材の木くずから生まれた「Nature Coatings」の高性能な黒色顔料。この木材はFSC認証を受けた、サステナブルな形で管理された森林から調達されたもので、日光を浴びても退色せず、また濃度の高低によって「ブロンズ」や「ブラウン」といった茶系の色になることもない。

樹木をイメージした展示構成は、表参道の欅並木からインスピレーションを得たという伊東豊雄設計の樹形のビルのファサードに対するリクペクトを表すものだ。展示空間と什器のデザインを担当したAXIS designの皆川雄一は、表参道の緑豊かな環境、建築ファサードとそこに差し込む光といった、さまざまな環境に調和するデザインを目指したという。それにより、ケリングが推進するサスティナビリティを表現できると考えたからだ。

具体的には表参道の木の葉を拾い集め、ブランドイメージにつながる形状を抽出し、欅の葉をイメージしたテーブル什器を設計した。台の形や色、カーブの具合、高さがひとつひとつ異なる什器は多様性を表し、展示面を三次元に折り曲げたことで、葉が舞うような浮遊感を空間に与えた。これらの什器はリサイクル性を考慮し、素材ごとに分解できるようにつくられている。


▲表参道で拾い集めた葉の形を什器のデザインのモチーフとした。展示面を三次元に折り曲げることで浮遊感を演出。

また、ケリングのマテリアル・イノベーション・ラボがサスティナブルな素材の調達を目指して収集した布地は、テキストをUVインクで印刷して丸い刺繍枠に収められた。親しみやすさ、愛らしさを感じさせる仕掛けが、コンテンツを読みやすいものにしていたと同時に、壁面ではなく分散して設置したテーブル什器にテキストを記すことで、来場者は内容に集中して読むことができた。

特筆すべきは、この展覧会が欧州発の巡回展ではなく、日本発で企画・実施されたことだろう。ケリング会長兼CEOのフランソワ=アンリ・ピノーはサスティナビリティをグループ戦略の中核に据え、「未来のラグジュアリーを創造する」という理念を提唱する。本展全体を通してその理念が表現され、ラグジュアリーファッションにおける持続可能性を推進するためのさまざまな選択肢が提示されていたのではないだろうか。こうした取り組みが国内からも次々と生まれることを期待したい。End


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▲伊東豊雄が手がけたケリング・ビル。1階のアプローチから樹木のグラフィックに導かれるように6階の会場へ。会期中はワークショップも開かれ、参加者はファッションにおける最先端のサスティナビリティについて学んだ。