記憶に永く残るもの、人の心に響くものを目指して
プロダクトデザイナー大島淳一郎

▲フラワーベース「Lotus」(2019)Photo by Tomohiko Ogihara

大島淳一郎は、現在、29歳。活動をスタートして2年目、これからが期待されるプロダクトデザイナーだ。神戸芸術工科大学プロダクトデザイン科で学び、在学中に大学発のプロジェクト「Design Soil(デザインソイル)」に参加してミラノのサローネサテリテに出展したり、ドイツ留学を経験。帰国後、安積伸のa studioを経て、現在はスタジオ発光体のアトリエを拠点にしている。記憶に永く残るもの、人の心に響くプロダクトを目指していると語る大島に話を聞いた。

▲「TRINITY」(2013)。Design Soilの活動で初めて手がけた作品。ミラノのサローネサテリテに出展して大きな反響を得たという。

特に惹かれたのは、ドナルド・ジャッドの作品

幼少期に父親がDIYで家具をつくるのをそばで見ていたり、一緒にプラモデルを組み立てたりした経験が、自身の手でつくることや、立体物の制作に興味が芽生えた出発点だった。

高校生になって進路を考える際に初めてプロダクトデザインについて知り、2011年に地元の神戸芸術工科大学プロダクトデザイン科に入学。1年目で特待生になり、そこからデザインについてきちんと知ろうと、大学図書館でデザインの雑誌や書籍を読みあるようになった。なかでも特に惹かれたのは、ドナルド・ジャッドだったという。「僕はコンセプトが前面に出ているものよりも、造形で語るもの、あるいは語る必要のない即物的なもののほうが好きだと気づきました」と大島は語る。

▲「Snofari」(2014)。Design Soilの作品で、「Taxonomy of Free」というテーマのもとで考えた。座面を裏返すと、テーブルとしても使用できる。

Design Soilの活動、ベルリン留学での経験

2年生になって、インダストリアルデザインコースを選択した。大島が長年、愛用しているもののひとつに、バング&オルフセンのヘッドフォンがあるが、そうした機能的で造形的にも美しいオーディオ製品を自分もデザインしたいという思いがあったからだ。

一方で家具への興味もあり、同大で教鞭をとる田頭章徳がディレクションし、学生有志が集う課外授業のようなDesign Soil(デザインソイル)の活動に参加した。毎年、田頭が考えたテーマのもとで家具を制作し、ミラノの展示会に出品したり、自分たちは実際には見ていない、2000年代初頭に開催された東京デザイナーズブロックや大阪のデザインイーストといった国内外のデザイナーの実験的な作品をスライドで見せてもらったりする機会もあった。 大島にとって田頭との出会いはとても大きく、これらの活動の経験からデザイナーになることを決めたという。

▲「Chiasma」(2014)。大学の卒業制作。3つのメッシュ素材の円が重なり合うことで生まれる模様によって、ゆるやかに仕切ることのできるスクリーンで、外枠はベルリンの鉄工職人に制作してもらった。

Design Soilの活動でミラノサローネへの出展も経験し、世界のデザインに触れたことも大きな財産となった。海外のデザイン教育に興味をもち、2014年の4年生のときに大学の交換留学制度を利用してベルリンのヴァイセンゼー美術大学で1年間学んだ。

芸術の街、ベルリンには世界中からアーティストが集まっている。大島も滞在中、さまざまな前衛アートパフォーマンスを見て刺激を受けたという。「大学にもいろいろな国の人がいましたが、やはりアート志向の人が多かったですね。マテリアルの扱い方が面白かったり、ポエムや他ジャンルからの引用をコンセプトにしたり、即物的な物の美しさに価値を見出すなど、自分の感覚と近いものを感じました。また、街の広告やパッケージ、プロダクトの色彩には深みのある美しいトーンが多く、その独特な色彩感覚が強く印象に残っています」と振り返る。

▲「Kaleido」(2015)。「Chiasma」をもとに、携帯性を高めてコンパクトなサイズにリデザインした。

2Dを意識しながら、3Dのプロダクトをつくる

ベルリンから帰国後、田頭の紹介を得て、デザイナーの安積伸のもとで働き始めた。それまでイギリスで活動していた安積が日本に拠点を移したタイミングだった。大島はそれまで1点ものの作品しかデザインしたことがなかったため、安積の事務所a studioでマスプロダクションの製品づくりについて多くのことを学んだ。「コストや製法など、たくさんの制約があるなかで美しいものをつくることがいかに難しく、すごいことかを実感しました」。

▲「a wall」(2016)。空間を色彩で仕切り、自由にアレンジできるカラフルな家具付きの壁。

a studioに在籍中、友人から声をかけられてZINEの制作に参加。自身がデザインしたプロダクトを掲載することになり、そこからフラワーベース「Lotus」が生まれた。「プロダクトデザインを考えるときは、機能などを先に考えて形に落としていきますが、ZINEでは最終の成果物が2Dの印刷物だったので、いつもとは逆のプロセスで考えていきました。最初に仕上がりの物撮り写真を想像して、色彩構成のように図形や背景色をスケッチ上で配置して、それを3Dのプロダクトに起こしていきました。フラワーベースという機能は、後から導き出したものです」。

▲「Lotus」(2019)。パイプと土台の円は、マグネットで取り外しが可能。

「Lotus」を自主制作して展示販売を行ったことで、フリーランスとしての活動に手応えを感じ、2019年に個人での活動をスタートさせた。現在は、神戸芸術工科大学の先輩で、Design Soilの活動でも一緒だったプロダクトデザイナー/アーティストの岩元航大が運営するスタジオ発光体という、シェア工房兼シェアスタジオを拠点にしている。自らの手で試作をつくりながらデザインを考えられる環境が欲しかったという。

▲ラタンのパーテーション「Kagura」(2020)

大島が目指すプロダクトデザインとは

現在、20代の大島がプロダクトデザイナーとして活動していくなかで、どのようなデザインを目指しているのだろうか。

「現代の生活空間の大きな方向性として、物の気配をできる限り感じさせない、生活に馴染むプロダクトが好まれる傾向にあると思います。低価格で販売されることの多いそれらが、僕たち世代のスタンダードと言えます。そういう物で構成された真っ白で簡素な住まいに、心地よい空間をつくり上げるための選択肢のひとつとして、小さなスポットライトが当たるような存在をつくり出したいと考えています。例えば、ずっと気に入って持ちつづけている小さい頃にもらったおもちゃ、人から贈られて今も大切に持っているようなものなど。また、香水はその香りを嗅ぐと当時のことが一瞬にして思い起こされますよね。そういったパーソナルな思い出に結び付くもの、記憶に永く残るもの、人の心に響くものをつくりたいという思いがあります」。

▲「KAGU」(プロトタイプ)。2021年に日本コパックが運営するCPK GALLERYの展示で発表した。

今後、挑戦したいプロダクトデザイン

独立してから2年目を迎え、クライアントワークも少しずつ増えている。現在、複数のプロジェクトが進行中で、友人の建築家と住宅のリノベーションのプロジェクトに携わっている。「家具をデザインするうえでも空間に携わる仕事は、とても興味があるところです。建築家にとってどういう家具が使いやすいか、どういうものが市販されていたら嬉しいかということが少しずつわかり始めてきた気がします」。こうした建築家との協働は、家具と空間の関係性をより深く知ることができることから、これからも続けていきたいという。

今後、挑戦したいものは、ヘッドフォンやスピーカーなどのオーディオ製品、うちわ、オルゴールのような音や香りを取り入れたプロダクトなど。プロダクトデザインの世界では、フリーで活動していくのはなかなか厳しい状況があり、デザイナーの数も少ないと言える。そういうなかで大島のような若手の存在は貴重であり、果敢に、真摯に独自の道を開拓していくその姿勢に大きなエールを送りたい。End

▲2022年1月、スタジオ発光体のアトリエにて。

大島淳一郎(おおしま・じゅんいちろう)/プロダクトデザイナー。1992年兵庫県生まれ。2015年神戸芸術工科大学プロダクトデザイン学科卒業。ベルリンのヴァイセンゼー美術大学への留学を経て、2016年より安積伸の事務所に勤務。2019年から個人での活動を開始し、家具や雑貨、空間デザインを手がける。2013年ミラノサローネ・サテリテ出展、2014〜16年フォーリサローネ・ヴェントゥーラ・ランブラーテ出展。