木材・木造・林業から考えるこれからの建築と街づくり
秋吉浩気/VUILD × 金田泰裕対談

▲富山県南西部にある南砺市利賀村(とがむら)に建てられた宿泊施設「まれびとの家」/©︎VUILD Hayato Kurobe

建築テック系スタートアップVUILDの代表・秋吉浩気と、国内外の建築家と共同する構造家・金田泰裕とともに、両者がコラボレートした木造宿泊施設「まれびとの家」(設計:VUILD、構造設計:yasuhirokaneda STRUCTURE)の設計プロセスを振り返りながら、日本の林業や木材流通をめぐる状況、これからの木造建築のあるべき姿について考える。

木造建築をめぐるローカルとグローバル

──まずは秋吉さんから、VUILDの活動についてお聞かせください。

秋吉 VUILDでは、主に地域のなかにある小ロットの木材をデジタルファブリケーション技術によって付加価値を高めて、流通させていく取り組みを行なっています。いまの日本の林業は大規模集約化の流れにあって、小規模林業の収益が上がりにくいという構造的な問題がありますが、日本の林業を支えてきたのは、小規模林業や工務店のネットワークでした。VUILDの活動は、そうした小規模林業に加工設備を持たせ、そこにデザインリソースを共有することで収益化・自立化を促す活動であります。小規模な木材加工システムと木材流通のあり方、それによって生まれる建築のあり方を提供するための技術やデザインを開発していくことが、VUILDのミッションです。

VUILDは、建築テック系スタートアップなので、ビジョンに共感してくれた株主からの出資を受けて運営しています。既存の建築家や建築事務所のようにクライアントワークに対して作品で答えるのではなく、先に資金を集めて技術やデザインを開発し、それを地域に還元していくというように、方向性が逆になります。作品という1点をつくることを重視するのではなく、より群としての流れをつくっていくためのプラットフォームやシステムに重点を置いています。

▲秋吉浩気(あきよし・こうき)/VUILD株式会社代表取締役
アーキテクト・メタアーキテクト。1988年大阪府生まれ。芝浦工業大学工学部建築学科卒業。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科X-DESIGN領域を経て、2017年にVUILD株式会社を創業。受賞にSDレビュー入選 (2018)、SDレビュー入選 (2019)、Under 35 Architects exhibition Gold Medal賞(2019)、グッドデザイン金賞(2020)ほか。

▲神奈川県にあるVUILDの工場。ここで、デジタルファブリケーション機器を用いて、木材を設計・施工しています。

──構造家として国際的に活躍している金田さんですが、世界の木造建築の状況や、日本と海外との違いについて教えてください。

金田 私は日本で修行したあとにフランスの構造事務所に移り、フランスで独立しました。その後、香港を経て現在はコペンハーゲンに拠点を置き、日本と海外のプロジェクトに関わっています。今は、国際的に、木造建築を意識的に増やそうとする流れがあります。フランスでは、公共建築の50%を木造にする制度ができましたし、2021年に、構造設計の国際基準(IBC)に18階建てまでの木造建築の設計指針が追加されるなど、具体的な形で木造に大きく舵が切られているのを感じています。ヨーロッパやアメリカという大きなマーケットでそうした指針が出されると、設計幅も広がることで様々なプロジェクトが誘発され、技術・工法の変革も起こっています。これから更にこの動きは加速するはずです。

一方で、日本の木造建築は伝統的・歴史的に積み重ねられてきたものなので、なかなかジャンプが起こりずらいです。世界のスピードと比べると、動きが遅いと実感します。今回、ウッドショックが起こり国産材と輸入材の割合があらためて注目されるなか、国産材の活用における10〜20年単位の指針を国が率先して示していくようなことも必要かもしれません。その意味でも、VUILDの活動はそのような日本の木造建築の根深い問題に切り込んでいます。林業から設計・施工にいたる全体の構造改革を目指しているビジョンに共感します。VUILDの活動が注目されることで、設計者全体の意識が変わるきっかけになるといいですね。

▲金田泰裕(かねだ・やすひろ)
Structurist。芝浦工業大学卒業後、ASA(鈴木啓)、Bollinger+Grohmann Parisを経て、2014年yasuhirokaneda STRUCTURE設立。パリ、香港を経て、現在はコペンハーゲンを拠点に活動。
構造設計担当作品に「弘前レンガ倉庫美術館」(設計:田根剛)、「まれびとの家」(設計:VUILD)、「HIROPPA」(設計:DDAA)ほか。受賞にAND賞 最優秀賞・入賞(2022) ほか。

15km圏内でつくられた建築

──お二人が共同した「まれびとの家」についてお聞かせください。

秋吉 「まれびとの家」は、富山県南砺市利賀村(とがむら)につくった短期滞在型の宿泊施設です。地元林業の衰退をなんとかしようと始まったプロジェクトでした。南砺市のような急峻な山地で豪雪地帯の山では、木の根元が曲がってしまい、まっすぐな木材を取りづらく、そのため既存の流通に乗らない根曲り材や太い材がたくさん余っていました。伝統的な日本の林業では、きちんと間引いて太い材を育てることを良しとしていましたが、近年では、ハウスメーカーやパワービルダーが大量に扱う規格材に合わせて、製材所も角材に適した製材機にシフトチェンジしていて、大きな丸太を加工できる製材所は減っています。その結果、かつては重宝された太い材や曲がり材が価値がつかず、砕かれて合板かチップになってしまいます。林業は、時間をかけて木に投資するものなのに、せっかく大きく育ったものが無下になる状況をなんとかしたいという思いがありました。

▲標高1,000メートル以上の山々に囲まれる宿泊施設「まれびとの家」/©︎VUILD Hayato Kurobe

秋吉 建築に使う木材はすべて五箇山(利賀村を含む)のものです。その木材の太さを活かす構法を考えて設計を進めていきました。木材の太さを有効に活用するため、丸太をスライスにした板をたくさん用意し、それで建築を構成することで、450〜600mm程度の幅広の材がとれました。板をたくさん用意することで、ストックを建築と家具で共有できます。

▲©︎VUILD Hayato Kurobe

▲©︎VUILD Hayato Kurobe

金田 このプロジェクトの面白いところは、木材の調達から加工、建設に至るまでを直径15km圏内で完結させたことです。地域に生えている木を伐採して、その地域の製材所で加工し、地域の工務店が施工しました。これだけコンパクトなエリアで部材から建築までが完結することは珍しいです。しかし、そうであるべきだとも思います。輸入材を使う場合、ヨーロッパから来た木がどこかの製材所で製材されて、また別の建設現場へと運ばれていきます。木は環境に良いイメージがありますが、その輸送にかかるエネルギーについては我々はよく考えるべきです。ひとくちに国産材といってもいろいろで、使う木がどこからどのようにくるのかは、とても重要な課題だと思います。

▲©︎Nanto Life

▲木材の調達から加工、建設に至るまでを直径15km圏内で完結していた。
©︎Hayato Kurobe

デジタルとアナログが融合した構造・構法・施工

──形のデザインや構造はどのように決まっていましたか。

秋吉 当初から「現代の合掌造り」というコンセプトがあったので、板材でどうそれを実現できるかを考えていきました。家具などを設計するときにも、ぼくたちはいつも部分のルールをまずつくって、それを展開して全体をつくるという方法を採用しています。VUILDにとって、「まれびとの家」は初めての建築物でしたが、同じ方法で部分を先につくり、その先に合掌造りのイメージを置いて、組み合わせ方のバリエーションをたくさん検討しました。

金田 「まれびとの家」のように板を細かく組み合わせる構造の解析は、線的なフレームだけでは解決しきれないところがあります。何が難しいかというと、無数にあるジョイント部分の評価です。接してはいるものの完全な剛接合ではないし、完全なピン接合として扱うことができません。どのように応力が伝達されるか、隙間の空け方やつなげ方を工夫しながら詳細なモデルを組んでいく必要があります。一方で、細かい部材をたくさんつなげていく構造計画なので、1箇所あたりの応力は小さく抑えられます。板厚は30mmとかなり薄いですが、直行方向に密な組み方になっているので、伝統構法の「貫」に似た効果が得られるため安定した構造になっています。

──組み立て・施工はどのように進めましたか。

秋吉 実際に建てる前に、原寸で一部を模型として建ててみましたが、なかなかうまくいきませんでした。大工さんに相談して、組み立て方の順番や、どこで誤差を吸収するかなど、施工の問題を検討しながら、何度もフィードバックをもらいました。そのおかげで、1日で上棟することができました。意匠と構造のデザイン段階では見えないところも多く、施工の段階で初めて見えてくるものが大きかったのはものづくりの醍醐味です。

雨仕舞いのディテールについても、村の大工さんとモックアップを基に相談しましたが、話をしていくうちに、一緒に考えてくれるようになりました。そうしたやりとりの先にできたディテールは、図面に書かれていたものとはだいぶ違うものになりました。設計図通りにつくればちゃんとした雨仕舞いになるかもしれないけれど、それが地域で受け入れられるかは別問題です。そこには、つくるプロセスを村人たちと共有することが必要です。設計図を書いて建ててもらうだけでは双方向的なフィードバックは生まれません。そうではなく、データの外にあるコラボレーションにこのプロジェクトの面白さがありました。

▲©︎VUILD

金田 クリアランス(施工上必要な隙間)が0.25mmで成立したのは衝撃でした。通常のプレカットなどでは、施工のしやすさを優先にして、2〜3mmほどのクリアランスをとって金物で締め付けています。「まれびとの家」の時は、部材数が多いため、クリアランスが大きいとその数mmを拾って全体が揺れてしまうので、ある程度はタイトにしないと貫が効きません。まさか0.25mmのクリアランスで成立するとは思いませんでしたが、あらためて3D木材加工機「ShopBot」の精度に驚かされました。

秋吉 ShopBotの精度もありますが、無垢材だったことが大きかったと個人的には感じています。合板と無垢材ではめり込ませるときの柔軟さが違っていて、無垢材は多少きつくても叩けば入ってくれます。無垢材のめり込みで、誤差を解消してくれました。とくに杉のような柔らかい木材では、顕著だと思います。海外では、「wikihouse」などの事例がありますが、合板が多く使われています。「まれびとの家」は、無垢材+ShopBotという意味で新しい試みでした。

▲VUILDの工場にある3D木材加工機「ShopBot」

これからの木造・木材・林業

──最後にこれからの林業や木造建築についてお考えをうかがえますか。

秋吉 いまの木造をめぐる世界的な状況は、やっぱり一つの方向に向かい過ぎている気がします。国にはそれぞれ特有のコンテクストがあって、その状況で生まれる木材や建物の形は違います。木材の大量生産・大量消費は管理も含めて合理的ですが、その力学だけですべてが回っていくと、木材を使うことの本当の意味が置き去りになります。よく「大トロを漬けマグロにするようなもの」と言ったりしますが、木材の性質毎に適切な使い道を模索することが大事です。国際的な大規模木造による林業の大型化には抗いがたいですが、そうではないあり方も同時に突き詰めていかないと、日本で木材を使う意味、林業をやる意味がありません。VUILDとしては、国土の2/3が森林面積で、小規模な事業者が多い日本の状況を、もういちど力づけできるような林業のあり方、木材流通のあり方、そしてそれによって生まれる木造建築のありかたを考えていきたいです。

金田 構造の観点から言うと、構造家が木造を設計するようになったのは実はかなり最近のことです。木材は生きた素材です。木は呼吸もするし、できあがってからも動きます。鉄骨やRC(PCが主流)は、部材が安定しており、早い段階で指針がある程度で確立したため、世界的にみて、エンジニアリングとしての蓄積が膨大にありますが、木造はまだまだ数値化しきれないことが多くあります。日本では、建築家と構造家が協力して、未開拓な木造の事例をコツコツ積み重ねている状況ですが、個人の積み重ねでは限界もあります。今後は、業界全体で事例を積み重ねて、それを共有していく仕組みが大事ではないかと思っています。木造で新しいことに挑戦しようとするときには前例がないことがボトルネックになることが多いので、そのときに参照し合えるような知識の共有が進むことを期待しています。

木材や木造化の活用事例を紹介する「WEBマガジンLove Kinohei」
https://love.kinohei.jp/

▲「まれびとの家」の模型

(取材写真:古賀 親宗)