アクセンチュア ソング(Accenture Song)がつくり上げる“価値ある体験”
――デザインを追求する人たちへ向けて

▲Accenture Song, グロースストラテジー シニア・マネジャーの小町 洋子(左)とFjord Tokyo (part of Accenture Song) ビジュアルデザイン ディレクターの柳 太漢。東京・麻布十番のAccenture Song Studios Tokyoにて。

総合コンサルティング会社アクセンチュアには、人々や生活の変化に寄り添いながら優れた“体験”を生み出し、クライアント企業のビジネス成長を実現するアクセンチュア ソング(Accenture Song)という組織がある。サービス・プロダクトデザインやビジュアルデザイン、ビジネスデザインなど価値ある体験の創出に携わる多様なデザイナーが所属している。

彼らが手がけた1つの事例として、2021年5月のサービス提供開始から、わずか1年でアプリのダウンロード数100万回を突破した日本初のデジタルバンク「みんなの銀行」がある。大手地方銀行がデジタルネイティブ層をターゲットに展開するこの大規模プロジェクトのパートナーとして、サービスの立ち上げからブランドデザイン・アプリ開発などを強力にサポートし、他部門のコンサルタントやエンジニアとともにプロジェクトを推進するアクセンチュア ソングとは、どのような組織なのだろうか。

ふたりのシニア・マネジャーに、アクセンチュア ソングのデザイナーが手掛ける価値創造や、どのような人材を求めているのか聞いた。

多様な文化が混ざり合い共創する環境

――自己紹介をお願いします。

柳 太漢(以下、柳) アクセンチュア ソングのビジュアルデザイン ディレクターとして、主に企業の新規サービス開発やブランディングに携わっています。以前は、広告業界でアートディレクションをしていましたが、2017年に現在のアクセンチュア ソングに参画しました。

小町 洋子(以下、小町) 私はもともと、アクセンチュアでコンサルタントとしてキャリアをスタートして、2015年にアクセンチュア ソングの前身となる組織の立ち上げ時に異動してきました。それまでは主に企業の業務改善に従事していたのですが、アクセンチュアとして従来のコンサルティング手法に捉われず、「私たちの生活を良くする体験をつくる」という新生組織の強いビジョンに共感し、参画しました。

コンサルタントのみならずデザイナーやマーケター、エンジニアなど多様な人を招き入れて新しいカルチャーをつくり上げる過程では、2017年にIMJとの組織融合を進めたり、世界最大級のデザインスタジオFjord(フィヨルド)の日本拠点の立ち上げも担当してきました。

▲Fjord(フィヨルド): Accenture Songにあるデザインチーム。世界37カ所にあるスタジオの総勢1,300人以上のデザイナーが共創し、さまざまな文化圏で人々に愛される体験を生み出している。

 私の得意領域はビジュアルデザインですが、今は幅広い領域のデザインを手がけています。企業の新規事業開発でサービスをデザインしたり、企業そのもののミッション・ビジョンといったブランドから、働く場所もデザインしたり、ビジュアルアプローチを軸としつつあらゆる領域のデザインに携わっています。今や社員のホームとなり、社内外の人たちと一緒にモノづくりできる場「Accenture Song Studios Tokyo」も過去に手がけたプロジェクトのひとつです。

――おふたりが手がけたAccenture Song Studios Tokyoの特徴を教えてください。

小町 軸となっているのはあらゆる「壁」が取り払われていることです。物理的にも部署別に壁をつくっていないので、組織を超えてコラボレーションを促すような環境になっています。また、仕事とプライベートの境界線や、社内外の線引きも曖昧になるようにしています。例えばこちらのスタジオがある東京・麻布十番は、商人の街として栄えてきたということもあり、「町屋」というデザインコンセプトを掲げているのですが、町屋の表には商人がいつつ奥にはその家族が暮らしているように、ある時ではプロフェッショナルであり、ある時は生活者である私たちの両側面を大事にしています。

 自分の家のように寛げることを大事にしていて、家具やマテリアルも自分の家に置きたいかという視点で選びましたね。最終的な色付けはここを使う人がすると思い、過度な装飾を施すことはせず、作り込み過ぎないデザインであえて余白を残していることもあってか、コロナ前は会議室の大画面でワールドカップの試合を見たりゲームをしたりパーティーをしたり、社員がそれぞれ自由に場を使っているように思います。

▲Café:カフェスタッフがつくるコーヒーやカフェラテなどは、社内外問わず誰でも自由に楽しむことができ、仕事の合間に一息つく空間として人が集まり、会話や繋がりが生まれる起点となっている。

▲Library Space:目の前に東京タワーがそびえるこの空間は、人々がくつろぎ、遊び、交わる居間を体現。クリエイティブマインドを刺激するデザイン関連の書籍が壁一面に並ぶ。

――小町さんの普段のお仕事は?

小町 アクセンチュアソングの立ち上げに携わった経験を活かして、最近では、社員のモチベーション向上を重視した「Employee Experience Design(従業員体験デザイン)」や、組織文化デザインを手がけています。例えば、新規事業をやろうとして新しい組織という「箱」をつくったものの中身の「人」がついてこないという課題に対して、いかに人のエンゲージメントを高めるか考えたり、新組織として既存の枠組みに捉われないカルチャーを醸成したいのに市場での認知にギャップがある場合には、どのようなメッセージを発信すべきか組立てる組織全体のブランディングなども担っています。タスクが固定で決まっているというよりも、その企業の置かれている状況やビジョンに応じて、組織のムードをなるべくリアルタイムに察知し、とにかく足を動かしてその時々に必要な施策を打つという感じです。

――柳さんは広告業界から転職されましたが、入社してみて「デザイン」の仕事はどう変わりましたか?

 仕事の幅が広がりました。自分のデザイン業務の可能性が広がっているような感覚で、元々の専門領域であったビジュアルデザインだけでなく、サービス開発もブランド戦略も、UI/UXデザインもやっています。領域を広げながらも一貫しているのは、やはり体験を重視していること。これまで培ってきたビジュアルデザインのスキルを昇華させて、どんなサービスなら人々に共感してもらえるか、このターゲットにはこんなサービスが届くんじゃないかという視点で、常にそのサービスを扱う人々の体験に焦点を当てながらデザインしています。ここで重要だと感じるのは、クライアントのその先にいる人々の暮らしに価値ある体験を創造できているかという視点です。私たちはサービスを日々享受している「プロの生活者」でもあるのです。「この新しい体験は生活者としての自分はどう思うのか?」、「すぐ隣にいる友人が幸せになるか?」といった生活者としての視点で考える意識は入社以来、常に持つようにしています。そのような設計で生み出されたデザインこそが、結果的にはクライアント企業の課題を解決し、ビジネス成長の支援に繋がるのだと感じています。

小町 デザインをビジネス成長に結びつけて、体験価値を評価する会話が日常的に出来るのはアクセンチュア ソングならではかもしれませんね。指標は様々ですが、例えばリーチが増えた結果売上は上がったのか?人々の習慣やクライアントや社会に具体的な変化をもたらしたのか?などミクロからマクロな指標を一貫させて話しています。デザインにおいても、どれだけ優れたビジュアルをつくりだしても、それが生活者に届かなければ、結果としてそれは独りよがりなものになってしまいます。デザイナーだけでなくマーケターやエンジニア、コンサルタントといった多様なメンバーでプロジェクトに取り掛かることで、魅力性だけでなく実現可能性や成長性の観点からも評価する土壌ができ、本当の意味でクライアント、そしてその先にいる生活者にとって価値のあるものを提供できると感じています。

生活者を動かし、世の中を変える体験

▲みんなの銀行:フルクラウドでバンキングシステムを構築した日本初のデジタルバンク。支払いから振込、入出金、貯蓄まですべてをスマートフォンで完結できる。

――代表的なプロジェクトについて教えてください。

 2021年5月にサービスの提供を始めた、ふくおかフィナンシャルグループの「みんなの銀行」は、デジタルネイティブ世代をターゲットにした、スマホで完結するデジタルバンクです。プロジェクト初期の問いは、「銀行そのものが今の時代やこの先、どのような価値を持つか」。実際の生活者へのリサーチを通してインサイトを抽出したり、クライアントとのディスカッションを通じて見えてきた独自の優位性を言語化し組織に浸透させるプロセスも伴走させていただきました。デザインにおいては、「銀行」という業界の枠組みから思考をスタートさせるのではなく、ソーシャルメディアのようにデジタルネイティブ世代にとって身近で愛されるような体験をつくろうという思考で「銀行らしくない銀行」を表現しています。アプリだけで完結させるためのサービス設計やイラストを採用したビジュアルブランディング、UIや若い人を意識した言葉遣いに至るまで、あらゆるデザインに関わることができたプロジェクトです。

小町 私はこのプロジェクトに直接的にメンバーとして参加していませんが、リサーチされる側の立場としてリサーチプロセスに参加し、1人の生活者として思い入れが深いです。柳さんも言っていたように、アクセンチュア ソングのメンバーは、ひとりひとりがなにかしらのプロフェッショナルであり、同時に当然ながら生活者でもあります。社内では、進行中のプロジェクトについて、ユーザー視点での声を集めるためのアンケートが、1日複数件行き交うのが当たり前の文化があります。さらにそれが日本だけでなく世界中のメンバーにすぐにアクセスできる環境があり、世界中の多様な意見を集められることも強みとなっています。みんなが「プロの生活者」としての積極的に反応してくれるこの環境は組織のDNAになっていると思います。

デザインの可能性を拡張させ、全員が幸せになれる未来をつくる

――今後デザイナーに求められる力とは何でしょうか?

 コミュニケーション力ですね。単純に話す力という意味ではなく、想いや価値を伝える力。だれかと一緒に仕事をする際に、どうやって自分の考えを伝えられるかということです。これは、もしかすると多くのデザイナーが後回しにしてきたスキルかもしれませんが、世の中に変化をもたらすほどのインパクトをつくるためには多くの仲間が必要になってくることを考えると、とても大事なことだと思います。

小町 私も近い意見ですが、あえて「思考力」という言葉を選びます。同じ事実にしても、立場が違えば思考も解釈も異なることが多く、誰かにとっては良いニュースでも違う誰かにとっては納得いかないことだってあります。私たちが向き合っているのはクライアントでも生活者でも最終的に常に「人」なので、プレゼンテーションでもデザインでも、相手がどんな受け取り方をするかを常に想像しながら1つの側面だけでなく多面的に事象を捉え、自分のアウトプットに向き合ってもらいたいと思います。

――お二人自身がこれからやりたいことはありますか?

 先ほどと繰返しになりますが、隣の友人が使うサービスをつくるなど、身近な人に愛されるものを世に送り出したいですね。そしてその「やり方」にもチャレンジを続けたいです。自分が慣れ親しんでいてやりやすいからという理由で何度も同じ方法をとるのではなく、「ちょっと不安だけど今回は新しいやり方でやってみよう」というマインドを大事にしたいです。これまで見なかった新しいものは、一見異質なものを掛け合わせること、勇気をもってそうしてみることで初めてできると思っています。なのでデザインの手法もいろいろ試して、デザイナーの役割を進化させたりデザインの定義を押し広げていければと思います。

小町 冒頭にお話しした通り、従業員体験や組織文化など、ある意味無形の価値のデザインに取り掛かる身として、私はプロダクトやサービスを生み出す企業の運営側にモチベーションがあります。ちょっと概念的に聞こえるかもしれませんが、「働く」という体験やその言葉が想起させるイメージを変えたいなと。仕事と言えば「自分の意志や欲を抑えてやる、我慢が伴うもの」という考え方が日本ではまだまだあると思うのですが、社会に対する価値やビジョンが明確にあり、個人のクリエイティビティを許容するカルチャーといった土壌があれば、同じ仕事でももっと楽しく意義深くなるのではと思います。結局サービスの持続性も中にいる「人」に懸かっているので、そうした組織づくりをしていきたいですね。

――改めて、アクセンチュア ソングでは、どのような人材が歓迎されるのか教えてください。

小町 最後に付け加えるとしたら、パッションは欲しいです。

 情熱は必須です。例えば目の前に粘土があったとして、具体的にどのような作品をつくったらいいかわからず、思考が止まってしまうような人は向いていないかもしれない。自分の持つスキルを使って目の前の粘土で、それをどう表現しようか、勝手にワクワクできるような人が向いていると思います。

小町 何事も意志を持って取り組んでもらいたいですね。価値観も生活様式も多様になっている世の中で、1つの正解があるわけではないので、「なぜこう思うのか」は日頃のクライアントやチームとの議論でも上司からのレビューでもよく問われます。「それが成功事例にあったから」と思考を止めずに、このプロジェクト・クライアント・サービスにおいてはどうしてそれがベストなのか、自分の言葉で語れるまで考えていくことが重要です。正直、仮にそれがロジック的に正しくなくても夢があれば、人の心は動くこともある。そういったものを大事にしてほしいですね。

 アクセンチュア ソングでは、「わかるでしょ、この素敵なデザイン」で片づけず、その“素敵さ“を、社内外含めた様々な立場の異なる人が全員腹落ちできるように適切なコミュニケーションで表現することが求められます。だからこそ、デザインの力を信じてもらうことができ、社会や企業を大きく変えるプロジェクトに関わることができるのです。アクセンチュア ソングはデザイナーの可能性を広げられる場であり、そこで私たちは楽しみながら取り組める人と働きたいと思います。End

文/廣川 淳哉
写真/神ノ川 智早